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〈神山まるごと高専に見る新しい学校のカタチ・後編〉未来を変える人材を育てる

テクノロジーとデザイン、起業家精神(アントレプレナーシップ)を一度に学ぶという、今までになかった新たな教育の場「神山まるごと高専」。

その創立に携わるメンバーのメインキャスト、学校長・大蔵峰樹氏に、学校に託された想いや背景にあるストーリーを語ってもらった。

※この記事は後編です。前編はコチラ


Text:Natsuko Sugawara,Kumiko Suzuki

※「神山まるごと高専」は認可申請中(2021年11月現在)での記事掲載のため、学科名、教育内容などは、変更されている場合があります。
※2023年4月に開校。

大蔵 峰樹(おおくら みねき)神山まるごと高専 学校長
1997年に福井工業高等専門学校 電子情報工学科卒業後、福井大学の3年次に編入。同大学院博士後期課程修了博士(工学)。在学中に友人と有限会社シャフトを創業。ZOZOTOWNのサービス開発に携わったことをきっかけに、2005年にスタートトゥデイ(現 株式会社ZOZO)に入社、技術責任者として開発を牽引。15年、ZOZO テクノロジーズの前身となるスタートトゥデイ工務店代表取締役CTOに就任。

「15歳にしかできない新しい学びの選択肢」
〝人間の未来を変える学校〟に託された想い

高専での学びの魅力を
学校づくりに活かしていく

新設校が日本で誕生するのは実に20年ぶりという高等専門学校。高専の卒業生であり起業家として数々の経歴をもつ大蔵峰樹氏が、学校づくりに参画した理由をこう語る。

「これまで教育の現場に携わることはなかったのですが、社内で未経験者を育てる機会があって、どうやって学んでもらうかなど、教えることに興味をもちました。今回のプロジェクトに関しては、3名の発起人がいて、僕は途中で声をかけていただいたんです」

「最初は快諾できる状況ではなかったためお断りをしたのですが、皆さんといろんなお話をしていくなかで、学校をつくる意義や携わっている方々の熱量に感化されていきました。僕自身が高専の卒業生で、しかも20年ぶりの新設校となればこんな機会は二度とないと思い、関わらせていただく形になりました」

高専とはどんな教育システムなのか、一般的にはあまり理解されていないことが多い。

開校は2023年4月を予定。
リノベートした旧神山中学校が、校舎や寮、食堂に生まれ変わる。
校舎と研究室は"office"、寮や食堂は"home"をコンセプトに建築イメージを展開。

中学卒業後5年間の課程のもと、工学や技術系の専門教育を受けられるのが特徴だ。15歳から大学と同等くらいの高い専門教育を施され、順当にいけば20歳で卒業、大学を卒業するより早く実践の場に飛び込むことができる。この自ら体験した高専での学びの魅力を、学校づくりに活かしたいと大蔵氏は考える。

「高専としてきちんとした学校にするためにまずベースをつくり、そのうえでデザインやアントレプレナーシップのような取り組みやカリキュラム、外部との連携を構築していけたら、と考えています」

また同時に、教育システムに対する危機感も払拭したいという。

「僕自身、現状の教育システムはそろそろアップデートしていかなくてはいけないんじゃないかな、と感じています。今回の学校づくりでいろんな起業家の方々と話をしても、ほぼ皆さん教育に関心がある。人材育成や日本の将来に向けて今から何かやらないといけない、という使命感をもっているような印象を受けました」

盛りだくさんでユニークな
カリキュラムを構想

大蔵氏自身の体験から、課題として挙げているのがデザインに関するカリキュラムの重要性だ。

「高専時代にもっと学びたかった、と思っていることがありまして。実社会に出たあと、ソフトウエア系のエンジニアとしてウェブサイト制作をしていましたが、デザインの基礎を知っているか知っていないかでずいぶん違うなと」

「プログラマーがデザインの意味を理解していれば、デザイナーとのコミュニケーションロスも防げる。逆もしかり。ハードウエアのモノづくりにおいてもデザインは非常に大切なので、今回の学校ではデザインをかなり重視しています」

さらに今回の学校づくりにおいて、もうひとつ念頭に置いているのがアントレプレナーシップだ。

高等教育機関としては最小規模のため、先生が生徒一人ひとりに向き合える余裕もある。
「何でも聞いてもらって、大人として、人間として、先生を信頼してもらいたい」と大蔵氏。

「モノをつくる力でコトを起こす人」をキーワードに、生徒の人物像を設定している。

「これは読んで字のごとく、まずは『モノをつくる力をしっかり身につけてもらう』、そして『モノをつくる力を使って社会に変化を与えるようなコトを起こす』。そんな人物を育てたいと思っています」

「例えば、ビル・ゲイツ氏やマーク・ザッカーバーグ氏も元々エンジニアですし、そういうモノをつくれる人物がコトを起こしていく、というのが次の時代に重要になっていくと思います。特に工業系の分野においてはモノをつくるまでの時間が非常に短くなっていて、ある程度の知識があれば試作品までつくれるという世の中になってきた」

「こういうことをやりたい! と思ったら、その日のうちに自分でつくってしまうような勢いがないと遅れをとってしまう。次世代にはそういった競争力が必要になるのかな、と考えています。モノをつくれることを基本として、アントレプレナーシップをもった人材を育てていきたいですね」

カリキュラムの構成内容としては、半分近くが情報工学、1/4がデザイン、1/4がアントレプレナーシップの割合だ。例えるなら、工業系の情報工学科と芸大のデザイン学科、経済学部のMBAコース、そして一般科目を圧縮して5年間にギュッと詰め込む。そんな盛りだくさんでユニークな構想なのだという。

「デザインもわかって、モノもつくれて、
さらに事業も起こせる」という人間を育てたい

課題を発見して解決する
自ら動ける人間力を育成

「神山まるごと高専」のユニークさはほかにもある。学校をつくる過程において最も大切にしているのは、〝人間力〞だという。

「流れにただ任せるとか、目の前のことに疑問をもたずにそのまま過ごすのではなく、いろんな違和感を覚えるアンテナをもっていたり、おかしいと思うことに対して自ら動ける人間力を身につけてほしい」

「何もないところから自らの力でモノを生み出すことができる、人間としての力を育てたい」

そのためにも学校では一方的に教えるのではなく、生徒が自ら〝学ぶ場所〞として課題を発見したり、解決できるようなカリキュラム構成を考えているところだ。

生徒をレールにはめず、「こんなこともできる、あんなこともできる」と、
さまざまな選択肢を提供。
自ら動ける人間力を身につけられる、気づきの場所、学びの場所だ。

「やらされているだけだとなかなか難しいこともあるので、常勤の講師のほかに起業家の方々や各分野の第一線で活躍している方々にご協力いただく予定です」

「現場で活躍している方々に学生たちをどんどん会わせることで、会社に入った新卒者のようなポジションを校内で体験できるような設計にしようとしています」

このような取り組みを行うことで、卒業後に就職先で会社が変化していくためのきっかけづくりができる人材の育成をめざす。

勉強の時間も放課後も
まるごと引き受ける学校

山間部の神山に学校をつくるということで、当校は全寮制となっている。15歳で親元を離れる不安を実際に体験した大蔵氏は、こう背中を押す。

「僕自身5年間寮に住んでいたのですが、この経験がその後の人生において、かなり活きていると思っています。最初は寂しいですし不安もあります。親御さんも中学校を卒業したばかりのわが子を手放すのは非常に不安だと思います。でもLINEやテレビ電話のような、その寂しさを補填できるツールもありますから、心配なさらず進めていただきたい」

「勉強の時間だけでなく放課後や土日の寮での生活をすべて含め、時間の活かし方を考えています。学校名の〝まるごと〞にはその意味も込めています。興味をもっていただいたら、ぜひ調べていただければうれしいですね」


起業家たちが語る
今、日本に必要な人材とは

世界における日本の教育水準は年々低下し、ビジネス市場においても諸外国に後れを取っている。

そんな現状を踏まえ、第一線で活躍し、「神山まるごと高専」に携わるふたりの起業家講師、田川欣哉氏と坊垣佳奈氏に、今の日本に必要な教育の在り方や新しい学びの発想をうかがった。

教育もビジネスも型にはめない
自分で選択することが重要

田川 欣哉(たがわ きんや)
株式会社Takram 代表取締役/デザインエンジニア

テクノロジーとデザインの幅広い分野に精通するデザインエンジニア。主なプロジェクトに日本政府の地域経済分析システム「V-RESAS」のディレクション、メルカリのCXO補佐などがある。経済産業省・特許庁の「デザイン経営」宣言の作成にコアメンバーとして関わる。東京大学工学部卒業。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修了。ロイヤル・カレッジ・オブ・アート名誉フェロー。東京大学総長室アドバイザー。

会社の経営者であり、デザインエンジニアとして活躍する田川欣哉氏。学生時代は教育システムについて、疑問をもったことがあるという。

「高校生までは型から外れることを良しとしない教育を受けるなかで、社会と勉強がどのようにつながっているのかわからず、疑問をもちながら過ごしていました」

「大人になって優れた教育者たちと出会い、皆に共通していると感じたのは、教師という型からは外れていても『それ、おもしろいね。いいね』といえること。そんな環境だと生徒たちの好奇心がより育ち、学びへとつながっていくと思います」

また、卒業後の進路についても、必ずしも従来の就職という型にはまる必要はないと考えている。

「就職するというのは、前の世代の人々がつくった会社に自分が入ること。起業は自分たちが考えた新しいやり方でスタンダードをつくり、試すこと」

「もし自分にやりたいことがあって実現できる場所がなければ、起業はおすすめ。未来に対するビジョンや課題感をもった仲間が集まるので、お互いを触発する形でおもしろいことが起こる。自分を過去の側に当てはめていくのか、未来の側を描きにいくのか。自分の向き不向きやその向かう船を見て、自ら選ぶことが重要なのではないでしょうか」

本気のなかから生まれる感情が
人生を豊かにしていく

坊垣 佳奈(ぼうがき かな)株式会社マクアケ 共同創業者/取締役
同志社大学文学部心理学科を卒業後、株式会社サイバーエージェントに入社。株式会社サイバー・バズやゲーム子会社2社を経て、株式会社マクアケの立ちあげに共同創業者・取締役として参画。「Makuake」の事業拡大に従事しつつ、各地での講演や金融機関・自治体との連携などをとおした地方創生にも尽力。XTalent 株式会社の外部アドバイザーに就任しているほか、ACCやTBDAなどのクリエイティブ・デザイン関連賞の審査員なども務める。

サイバーエージェント入社1ヵ月で子会社を立ちあげ、3年目で役員など経営事業を経験。教育分野にも尽力し、著書も出版。華々しい経歴をもつ坊垣佳奈氏だが、大学選びまでは今のような強い意志をもった生徒ではなかったそう。

そんな坊垣氏が起業できた理由は、他人の意見に惑わされず自分がどうしたいかをきちんと伝えて対話し、選択。さらに与えられたチャンスを掴む努力を惜しまなかったことにある。

「こどもの頃は、自分が周りから何を期待されているかを窺うような優等生タイプでした」

「天才肌でもなければ特別目立つ生徒でもない。ただ小さな頃から、研究者でよく働く父の背中を見て、『自分のやりたいことを仕事にできると楽しいんだ、そんなふうに生きてみたい』と思っていました」

父親の真摯な姿は坊垣氏の就職活動にも作用。自分のなかから湧き出てくるものを何か形にしたいと考え、クリエイティブに自分にしかできないことを可能にしてくれそうな会社を選択した。

「私は本気になって生まれる感情が人生を豊かにすると考えています。本気でないと何も変えることができないし、時間の無駄だと思うんです」

「『神山まるごと高専』は、そんな本気の大人たちがつくっている学校。学生にも本気になれるものを見つけてほしいですね」


〈神山まるごと高専に見る新たな学校のカタチ・前編〉学び方改革 はコチラ


※掲載の情報は2022年1月1日現在のものとなります。


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Podcast「THIS IS US Powered by SAISON CARD」

『SAISON PLATINUM AMERICAN EXPRESS CARD NEWS』との連動プログラム、「THIS IS US Powered by SAISON CARD」。
このポッドキャストでは、様々なフィールドの第一線で活躍する、エキスパートをお招きして、その世界の魅力について、たっぷり、お話を伺っていきます。

大蔵峰樹さんのインタビューは、下記をタップ!


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