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皆で考える未来の選択肢 ~卵子凍結が拓く可能性~

アメリカ大手企業では福利厚生の一環である「卵子凍結」。それをいち早く日本に取り入れ、最先端の卵子凍結・保管サービスを行うのがGrace Bankだ。

グレイス杉山クリニックSHIBUYA院長の岡田有香氏と株式会社グレイスグループ取締役CMOの上野千紘氏に深刻化する少子高齢化問題と卵子凍結の可能性について語っていただいた。

Text: Natsuko Sugawara

岡田 有香(おかだ ゆか)
日本産科婦人科学会専門医 グレイス杉山クリニックSHIBUYA 院長

2014年、聖路加国際病院に入職。同病院では子宮内膜症や低用量ピルの診療、がん治療前の卵子凍結などに携わり、杉山産婦人科では不妊治療を学ぶ。不妊治療に多くの方が苦しむのを見て、20代から定期的に婦人科にかかり不妊予防を行う重要を改めて認識。自身のInstagramなどで生理の知識や妊活、卵子凍結について発信している

写真左

上野 千紘(うえの ちひろ)株式会社グレイスグループ 取締役 CMO
一橋大学卒業後、2011年に株式会社サイバーエージェントへ入社。プロダクトマネージャーとして新規事業の立ちあげを複数経験。社内で十人十色の働き方を応援することを目的とした、女性横断組織「CAramel」の幹部として4年間運営に携わる。22年、サイバーエージェントより出向し、CMOとしてグレイスグループに参画。

写真右

少子高齢化を止めるビジョンと
意識改革

社会の過渡期における
新たな妊娠・出産の選択肢

岡田
少子高齢化の原因のひとつに「晩婚化」があると思うのですが、日本の少子高齢化を止めるには、まずこのあたりの意識から変えていかなくてはいけないと考えています。20代では結婚に意識がいかない。

その理由として、経済的余裕ができてお子さんを持つ、という選択肢が20代ではまだ持てないのではないかと思います。30代に入って経済的に安定して、ようやく結婚を考えてこどもを持とうとしたとき、不妊という壁にぶつかる。そういうパターンが多いのではないでしょうか。

皆さん、30代で不妊になるとは考えていない。でも実際は30代から不妊のリスクは高まるし、40代で不妊治療を頑張っても約半数が授かれません。
まずはその現実を知っていただきたい。

上野
確かに、20代で結婚して、20~30代で妊娠・出産というのが女性の体を考えるとベストではありますよね。でも、おっしゃるように一般の方たちが考える妊娠のデッドラインとドクターが推奨するデッドラインとではかなりの開きがあるように感じます。

岡田
私たち婦人科医は早めの妊活を薦めますが、「早め」というのは20代のことなんです。でも多くの方は「35歳くらいまでなら……」と思っている。婦人科医からすると、その年齢ではかなり「遅め」なんです。

上野
ただ、キャリアをスタートして仕事を謳歌している20代の女性にとって、こどもを持つというライフプランを果たして考えられるのか……。

岡田
キャリアを優先したり、二人の時間を楽しみたいという方もなかにはいますが、実際に話を聞いてみると、どうもそれだけではない気がします。経済的な不安が大きい。

でも、結婚・妊娠というライフイベントを後回しにしていると、自然妊娠が難しくなり不妊治療へと移行することになる。すると、結局は不妊治療にかかる経済的負担が重くのしかかってしまう……。

もし、それを認識していたら、少しは意識も変わってくるのではないかと思います。

Grace Bankは過去22年間無事故の保管システムを運用するステムセル研究所と提携し、
国内最大級の規模の凍結保管設備を運営している。

上野
不妊治療の負担というのは、例えば職場の先輩から「大変だ」といくら聞いたとしても、20代だと〝自分事化〟するのは難しい。個人のレベルではなかなか伝わらないですよね。金額もそうですし、身体的な負担も含めて総合的な不妊治療の知識を社会に広めていくことも必要ではないでしょうか。

岡田
そうですね。それとあわせて「卵子凍結」についても早めに知っていただきたい。少子化は30年以上前から問題になっていますが、いまだに食い止められません。現実には20代から妊娠出産を繰り返して、こどもを2~3人持たないと少子化は止められない。

でも社会構造は変わらないので、いざお子さんを持とうと思ったときには1人産んでやっとというのが現状です。そういう方たちが2人目、3人目を持とうというとき、もしくは1人すら難しい場合、「卵子凍結」というサービスが助けになるのではないかと思っています。

本来なら20代で複数こどもを持てる社会が理想ですが、今はそういう社会になるまでの過渡期なので、緊急避難的な対策として卵子を凍結保存しておくという手段がある。

上野
私も卵子凍結がベストな選択肢だとは思いませんが、20代は経済的な問題、30 代に入ると不妊という問題が立ちはだかる。そういう状況でほかに選択肢がないのは女性にとって厳しいですよね。卵子凍結を知ることで、妊娠・出産の新たな選択肢が生まれるのではないかという気がします。

卵子凍結サービスを
どう活用していくか

岡田
とはいえ、卵子凍結をすれば、いくつになっても妊娠・出産ができるわけではありません。産婦人科のガイドラインでは45歳までの出産を推奨しています。医学的な理論上は50歳でも妊娠・出産できますが、体への負担、その年齢からの子育てを考えると非常に難しい。

そう考えると、卵子凍結をしても、妊娠・出産を10年後ろ倒しできるかどうかなんです。

でも、女性にとって30代になってからの5年間はとても大事。

例えば、がん治療をしたら5年間は妊娠できません。30代であれば、妊娠できる可能性が非常に低くなってしまう。そういう場合は医学的卵子凍結を選択するのですが、そのくらい女性にとっての30代の5年間は重要です。

35歳を過ぎると卵子の妊娠する力も半分くらいに落ちてしまう。その事実をしっかり認識したうえで、卵子凍結という選択肢を早い時期から頭に入れておいてほしいですね。

上野
Grace Bankでも、卵子凍結をされた方が実際に使うところまでサポートしていければと考えているところです。凍結して終わりではなく、その先の妊娠、出産、子育てまで知識や情報を提供できるサービスがあるといいのではないかと。

それと、今は卵子凍結を考える方は30代後半が多いように感じますが、20代~30代前半の利用者も増やしていきたい。卵子凍結をする理由は人それぞれですが、年齢層が若くなれば凍結後の選択肢や可能性も広がるのではないでしょうか。

岡田
ただ、そこで20代の方たちが懸念するのは金額的なことなのではないかと思います。例えば5年間保管すると、保管料が20万円くらいかかります。それでも体外受精で採卵を2回行うよりも金額は下がるので、やはり若いときに卵子凍結をするのはある程度メリットがあるとは思いますが。

一番いいのは、早い時期から自分の卵子の状態を知っておいて、定期的にチェックすること。欧米では婦人科のかかりつけ医を持つことは普通のことで、医師と相談しながら自分のライフプランを選択できます。

定期的に婦人科でスクリーニングしておけば、「今はまだ卵子の在庫が十分だから卵子凍結しなくても大丈夫」とか「数が減っているからそろそろ考えたほうがいい」とか、卵子凍結をするにしてもベストなタイミングを選べるのです。

上野
岡田先生のように「相談に来てください」と言ってくださるといいのですが、日本の風潮として婦人科を受診するハードルは高いですよね。何となく行きにくいから相談したいことがあっても我慢してしまう。

岡田
それについては婦人科医として大きな課題です。実は今、渋谷区と連携していくつかの企業でAMH検査(卵子の推定数を計測する検査)の無料チケットを配布しています。無料なので気軽にクリニックへチェックしに来てもらって、まずは自分の卵子の状態を知っていただき、そこから定期的に婦人科へ……という流れになればと考えています。

岡田氏が院長を務めるグレイス杉山クリニックSHIBUYA。
卵子凍結や妊娠に備えたケアを中心に取り組む新しいスタイルの婦人科だ。

女性だけでなく
周囲の意識を変えていく

岡田
少子化対策として、もうひとつ重要なのがパートナーである男性の育児参加です。2人以上のこどもを持たないと人口減少は食い止められないのですが、その2人目を考えるにあたって、1人目の子育て経験がものすごく影響してくるんです。

いろいろなデータに表れていますが、第一子のときの男性の家事・育児参加の時間が長ければ長いほど、第二子の出生率が高くなります。ですから、本当に少子化を止めたいなら、男性の育児休暇取得率を100%に近づける努力をしていかなければならない。

上野
社会や企業が働く環境から考え直していくべきですよね。個人ではどうしても目先の経済事情を優先して「1人でいいや」という傾向にどんどん傾いてしまう。そういう意味ではコロナ禍でリモートワークが広まって、出社せずに仕事をするという、特に子育て中の方には有利な選択肢ができましたよね。

でも、いざそれを会社として導入しようとすると、どうしてもある一定数の方たちから反発されてしまう……そういう話をよく耳にします。まだ多くの方が少子化という問題を自分自身の問題として捉えきれていない気がします。

岡田
男性と女性でも意識の差がかなりある。最近、20代の男性の約4割がデートをしたことがないという調査(内閣府『令和4年版男女共同参画白書』)が話題になりましたが、男女の交流が希薄になってきているのだと思います。

若い男性からすると、「こどもを持つ」なんて遠い話。そもそも男性は女性と違って、多少年齢が高くなっても大丈夫だと思っている。でも、男性だって35歳を過ぎると精子の力は落ちていくし、不妊の原因の割合は男女でほぼ半々なんです。

上野
なるほど、男性も然るべき年齢を過ぎたら焦るべきなのですね。

岡田
そこはぜひとも男性に伝えたいところです。こどもを持つということについて女性だけが考えるのではなく、男性と女性の意識の差をなくすことが大切で、それが少子化対策にもつながると思っています。

上野
ただ、これからは女性であれ男性であれ、こどもを1人も持たない方がどうしても増えていくと思うんです。でも、そういう方たちも決してこどもに関わりたくないというわけではなくて、未来を担うこどもたちをサポートしたいと考える方はたくさんいらっしゃる。

何か社会や地域の皆でこどもを育てていくという手段なり場所なりがあればいいなと。

岡田
昔は地域で協力してこどもを育てるというのが当たり前でしたよね。最近でもこどもが遊んだり学んだりできる区の施設ができ始めていますけれども、多くの方が子育てをサポートできる体制がつくられていけば、もっと安心してこどもを産めるし子育てもしやすくなる。

こどもを持たないという選択も尊重されるべきですし、こどもを持たない選択をされた方も一緒になって子育てをサポートするというのは理想的な社会だと思います。

アメリカでは2013年から大企業が卵子凍結を福利厚生サービスに導入し始め、
14~18年の5年間でその件数が飛躍的に伸びた。
出典:アメリカ疾病予防管理センター2017 ART report

福利厚生サービスの充実が
企業価値を高める

上野
アメリカでは大企業がすでに卵子凍結を福利厚生に取り入れたりと、女性の妊娠・出産をサポートする社会の体制が整っていますね。

岡田
それと、アメリカの企業が導入しているということは、企業側にも明確なメリットがある証拠です。〝不妊退職〟という言葉がありますが、やはり不妊治療には時間もかかるし心身への負担も大きい。仕事を辞めざるを得ない女性も多くいます。それは企業にとっても大きな損失です。

会社としてそれを防ぐために、卵子凍結サービスを使って女性が働き続けられるようサポートする。非常に合理的な考え方ですよね。もうひとつメリットがあって、卵子凍結を導入する企業は女性の就職先として人気があります。つまり、人材確保だけでなく、人材獲得の手段としても、卵子凍結サービスは有効なのです。

上野
日本もしばらくは少子高齢化が進んでいくと思うので、今後、優秀な人材を獲得していくことがますます難しくなっていきますね。確かに、卵子凍結サービスを会社の福利厚生に取り入れることは人材獲得において大きなアドバンテージになるし、それだけでなく少子化問題や女性の働きやすさといった社会課題にしっかりと向き合っているという企業側のメッセージにもなるのではないでしょうか。

岡田
以前、企業でセミナーを行ったときに男性社員から、卵子凍結を福利厚生に導入するのは男性にとって不公平ではないかとご意見をいただいたことがあります。でも、不妊治療は男性より女性に何倍もの負担がかかる。

男性はほとんど会社を休まずに済みますが、女性は2週間に4回とか採卵の度に婦人科に通わなければならない。

不妊治療にかかる時間は男女でまったく異なります。つまり、生産性の観点からみても卵子凍結を福利厚生に導入するのは理にかなっているんです。それを多くの方に理解していただきたいですね。

不妊治療大国 日本 その実態

2021年の年間出生数は約80万人と、統計史上で最も低い数字となった。不妊治療を行う人は年々増えるが、少子高齢化は進む一方だ。同じく不妊治療が盛んなアメリカと比較しつつ問題点を探る。

体外受精件数は多いが
アメリカより出生率は低い

現在、日本における体外受精件数は年間約46万件(※1)に上る。この数は世界第一位であり、同じく不妊治療先進国であるアメリカでさえ年間約33万件(※2)だ。

さらに言うと、日本では約28%の夫婦が不妊治療の経験(※3)があり、体外受精で誕生したこどもは13~14人に1人(※4)という割合だ。小学校の30人ほどの1クラスに2~3人はいることになり、決して稀なケースではない。

この件数の多さに加えて最先端の不妊医療技術を持つ日本は、まさに不妊治療大国と言えるだろう。裏を返せば、不妊治療は他人事ではなく、男女問わずすべての人が自分事として捉えるべき問題なのだ。

しかしその前に、考えなければいけない課題がひとつある。それが、体外受精の成功率だ。

アメリカでは約33万件の体外受精の中から、約8万4000人のこどもが誕生している。それに対して日本は、約46万件で約6万人という誕生数。率にすると、アメリカが約25%で日本は約13%になる。

つまり、8~9回の体外受精を行って、ようやく1人授かることができる計算だ。さらに、体外受精のために女性の体から卵子を採取する「採卵当たり」の出生数でいうと、日本は60カ国中最下位(※5)となってしまう。

この成功率の低さの原因は、一体どこにあるのだろうか。

※1)2019年 実績値:日本産科婦人科学会
※2)2019年 実績値:米国CDC 疾病予防センター
※3)2015年 国立社会保障・人口問題研究所「社会保障・人口問題基本調査」
※4)2019年 実績値:公益社団法人日本産科婦人科学会
※5)2016年 国際生殖補助医療監視委員会「体外受精の出生率」

年齢とともに卵子が衰え
体外受精の成功率も低下

ひとつは不妊治療を始める「年齢」にある。卵子は加齢とともに数も質も低下していく。卵子の個数は増えることがなく、生まれたときは約200万個だが月経開始時にはすでに30万個に減り、その後も年齢とともに減り続ける。

また、卵子自体の質も同様に低下していくので、卵子1個当たりの妊娠する能力も低くなる。その結果、年齢が高くなればなるほど不妊の傾向が強まり、体外受精の成功率も徐々に低くなっていく。アメリカでは体外受精を行う人の平均年齢は約34歳。35歳を過ぎてから体外受精を行う場合は、若い卵子のドナー提供を受けることを選択肢に入れるのが一般的だ。

一方、日本での体外受精の平均年齢は約40歳。アメリカと比べて5歳以上高く、この年齢差がひとつの要因となり成功率を左右していると考えられる。

日本は欧米諸国に比べて性教育が遅れており、妊孕性(にんようせい)(妊娠する能力)への理解や知識が追いついていない。40代でも妊娠できると安易に考える人も多く、結果的に不妊治療にたどり着く年齢が遅くなる。

そこに根本的な問題点があるのではないか。まずは不妊に関するさまざまな客観的事実を理解すること。そして、早い段階で妊娠をライフプランに組み込み、若いうちから自身の卵子の状態を知っておくこと。

真の意味での不妊治療大国となるには、これらを実現させることが必要だ。

自身の卵子で体外受精をした場合は年齢とともに出産率が下降するが、
若い卵子の提供を受けた場合は出産率がほぼ横ばい。
出典:米国CDC(疾病予防管理センター)、2013
一番年齢が若いドナー卵子は10個の採卵数で出産率が80%。
一方、40歳だと30%、44歳だとわずか7%にまで下がる。
出典:Human Reproduction vol.32, No.4, 2017, p853-859


卵子凍結について
その仕組みと安全性への理解

Grace Bankが提供する卵子凍結サービスとは実際どのようなものなのか? その安全性は? 人生の選択肢のひとつとして考える前に、まずは知ることから始めよう。

卵子凍結とは、「体外受精の前倒し」として年齢が若いうちに卵子を採取(採卵)し、最先端の医療技術で凍結保存しておくこと。

高齢になってからの不妊治療の負担を軽減するための画期的な手段のひとつだ。とはいえ、気になるのがその安全性である。

卵子凍結は医療行為であるため、性質上リスクがゼロになることはない。けれども、そのプロセスは国内で年間約46万件も行われている体外受精の初期プロセスと一緒だ。

つまり、不妊治療先進国の日本においては採卵・凍結に関する技術はかなりのレベルまで確立されている。また、近年は技術的な進歩により女性の体への侵襲性が低下しているほか、日本人研究者によって新たな凍結・融解方法が開発され、卵子の生存率が99%以上であると公表するクリニックも出始め、より安全性、確実性が高まっていると言える。

さらに、2012年にはアメリカの生殖医療学会が「凍結・融解を経た卵子でも、遺伝的リスクはない」と発表。アメリカの大手企業が福利厚生に導入するなど世界的にも期待は高い。

Grace Bankはそんな卵子凍結サービスを未来の選択肢と捉え、高水準のクリニックや安心の保管システム会社と提携し多くの女性に提案している。


※掲載の情報は2022年8月1日現在のものとなります。


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Podcast「THIS IS US Powered by SAISON CARD」

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