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視座を高めることで見える未来 ~高い目標に到達するために~

ビジネスにおいても、日常においても、目標を成し遂げようとするのであれば、物事を俯瞰して見る視野の広さや高い視座が求められる。

サッカーで一時代を築き、日本サッカーの発展に貢献。
現在はサッカー界だけでなく、投資家としても活躍する本田圭佑氏は、どのように自らのキャリアを築きあげてきたのか。その源流を探った。

Text:Junko Hayashida
Photograph:Keisuke Nakamura


サッカー選手、実業家
本田 圭佑(ほんだ けいすけ)

1986年生まれ。2004年日本代表に初選出されると、10年のFIFAワールドカップ南アフリカ大会では2ゴールを決め、自国開催以外での初勝利に貢献するなど、数々の世界大会で活躍し、日本サッカーの一時代を築く。
VVVフェンロ(オランダ)、CSKAモスクワ(ロシア)、ACミラン(イタリア)、CFパチューカ(メキシコ)、メルボルン・ビクトリーFC(オーストラリア)など、世界各国のクラブでプレー。
現在はサッカーの育成などに尽力するほか、投資家としても活動。


僕にとっては夢だけが唯一の支えで
夢があったから挫折も乗り越えられた

インタビューはクレディセゾン社内にて公開で行われました。

高いレベルでの遊びに楽しさを感じたこども時代

日本代表時代、「ワールドカップ優勝」など、高い目標を臆面もなく言葉にする本田圭佑氏に対して「ビッグマウス」と揶揄する声は少なくなかった。
だが年月を経て、本田氏が描いた目標を今もまったくの夢物語だと笑う人は少ないだろう。

日本サッカー協会は「2050年ワールドカップ優勝」を目標に掲げ、道のりは遠く険しくとも、多くの人が同じ夢を抱くまでになった。
誰もが想像すらしていなかった時代に高い視座を持ち、将来を見据えていた本田氏。

叶った目標も、叶わなかった夢もある。それでも高みへと到達しようとするその姿勢の片鱗は幼少期にすでに垣間見えていた。

「負けず嫌いで、面倒臭いこどもでしたね。
同級生よりも3歳年上の兄の友だちと遊ぶほうが楽しかったんですけど、テレビゲームでもスポーツでも、やっぱり年下なので、僕が負けるんです。
で、悔しくて兄の友だちに殴りかかったりするので、兄としては当然僕を呼びたくない。そこで学校にいる間に兄がその日誰と遊ぶのかを調べて、兄が到着する前に、僕がその友だちの家に着けるように先回りをしていました。
そこまでしても兄の友だちと遊びたかったのは、簡単に物事が進むよりも、負けて悔しい思いをしたとしても、高いレベルで遊ぶことに本能的に楽しさを感じていたからです」

高い目標を掲げられたのは、決して本田氏が傑出した才能を持っていたからではない。むしろ人一倍、泥臭く練習を重ねてきた。

「人が休んでいるときこそチャンスだと思っていたので、プロになってからも練習は毎日していました。
もちろん科学的に考えたらケガのリスクも増えるし、休んだほうがいいんだけど、気持ち的に休むなんて考えたこともなく365日練習をしていました」

そこまで努力をしても、中学時代に所属したガンバジュニアユースでは、ユースに昇格することができなかった。

「僕は負けていないと思っていたけれど、客観的に見たら似たようなレベルで、誰からも期待されていなかった」
と挫折を味わった。

©︎HONDA ESTILO

「当時から『ワールドカップ優勝』『セリエAで10番』などビッグマウスみたいなところがあったので、周りのこどもたちにさえ勝てなかったという事実は、悔しいというよりも恥ずかしかったですね」

プロになれなければ、ワールドカップで優勝するどころか、そのピッチに立つことすら遠のく。
選ばれなかった自分が挽回するにはどうしたらいいのか。
そこで中学3年生の本田少年が選んだ戦略が、強豪校をあえて避けるというものだった。

「名門校では1、2年生は補欠で、3年生でなんとかレギュラーになれるという可能性も高い。
ところがプロのスカウトの多くは高校2年生の選手に目をつける。つまり3年生でレギュラーになっても遅くて、少なくとも2年生でレギュラーになっておかないといけない。
僕が進学した星稜高校は今でこそ強豪校ですが、当時は石川県内では強いけど、全国では勝てないというレベル。
ここで1年生のときからレギュラー入りを狙ったほうが、プロ入りのチャンスは大きい。中学3年生の僕はそんなことを考えて、進学先を選びました」

高い目標を掲げるほど、その道には多くの障壁が立ちはだかる。大なり、小なり挫折があるなかで、戦略を練り直し、不屈の精神で立ち向かう。
その原動力として「夢を持っているか」は重要だと本田氏は語る。

「スポーツなんて、毎日練習していてもうまくなる割合なんて微々たるものだし、ときには後退していると思えることもある。
さらに当時の僕は誰からも期待されていなくて、自分さえ諦めればいつだってやめられる。そんな状況下のなかで、やっていてもおもしろくないことを頑張り続けられるのはなぜかといったら、めざすものがあったからなんですよ。
僕にとっては夢だけが唯一の支えでしたし、夢があったからこそ、挫折も乗り越えることができたんです」

身銭を切って投資することが自分の理解の速度を速める

その後の本田氏の活躍は多くの人が知るところだろう。
日本代表での活躍、夢だったセリエAでのプレー。
サッカー選手として華々しいキャリアを築く一方で、30歳のときには最初の投資会社を設立。

実業家としての道も同時に歩み出し、2024年は日本のスタートアップを対象にしたファンド「X & KSK」を立ちあげた。
引退が視野に入ったときに初めてセカンドキャリアを意識する日本人アスリートも多いなか、キャリア全盛期に他業界に進出するというのもまた、本田氏の視座の高さを物語っているだろう。

サッカーへの情熱も冷めることはない。
国内外でクラブ運営に携わり、23年には新たなルール下での4人制サッカーの全国大会「4v4」をスタートするなど、サッカーにおいても、ビジネスにおいても、視野狭窄に陥らず、独自の視点とスケールで新たな道を切り開いている。

「僕はいろいろなことに興味があるタイプなんですね。
だから、まず学びたいと思う分野があれば、その道に詳しい人に会いに行く。そこで話を聞くと、理解が深まったり、新たな視点が生まれてくる。
そういう意味では、こどものときに兄貴の友だちの家に遊びに行っていたときと同じような感覚ですね。
それと自分がわからない分野に関しては、まず投資をします。投資をした以上、損はしたくないから一生懸命勉強しますよね。
やっぱり身銭を切らないと、人間って本気にならないと思うんです。もちろん、失敗することもありましたが、投資をして一生懸命学んできたから、学習スピードは人よりも速いと思うし、そういう環境を作るというのも僕のやり方のひとつです」

サッカーだけでなく、投資や事業においても成功も失敗も経験してきた。
それでも本田氏が歩みを止めることがないのは、やはり成し遂げたい目標があるからだ。

「例えば、23年に立ちあげた4人制サッカーの全国大会の『4v4』。
僕らの時代は小学校5、6年生ぐらいから本格的にサッカーを始めるこどもが多かったのですが、今は3、4年生でも日本代表をめざして練習に励んでいるこどもが多いんですね。
ただ彼らの年代がめざすべき全国大会がなかった。
そこで10歳以下(※)のこどもたちのために全国大会を作ろうと思ってスタートしました。
ただ、期待していたものが大きかったので、目標にはまだ到達できていないし、課題も多い。それでも手応えを感じていて、25年以降はアジアカップの開催も企画していますし、まだまだできることはあると考えています」

※2024年から12歳以下のカテゴリも創設。


自分の置かれた環境を思えば失敗も乗り越えられる

サッカーにおいても、ビジネスにおいても、本田氏は「環境」という言葉をよく口にした。

「僕は自分をあまり過信していなくて、環境には抗えないと思っているんですね。
例えば幼少期の家庭環境は厳しかったけれど、それがなければハングリー精神も培われなかっただろうし、今の自分は絶対にいない。そう考えると恵まれていたと思うんです。
でも、その環境は自分で整えることもできるし、考え方ひとつでも変わります。
というのも世界は広くて、何をやっても上には上がいるものだし、悲劇も不遇も上には上がいる。こどもや女性の人権すら脅かされている国も、世界にはたくさんあるわけですから。
だから、僕は今自分が置かれている状況がいかに恵まれて、甘っちょろいかということを感じられる情報を収集するようにしています」

一時期、本田氏がハマっていたのが宇宙のYouTube。宇宙の壮大さを感じることで、地球の小ささ、自分の生きているエリアで起こっている事象の小ささを感じることができたという。

「そうするとうまくいかなくても『死ぬわけじゃない』と、シンプルな答えに辿り着いて、挫折だって乗り越えることができる。
そうやって視座を高めて、日々頑張って仕事に取り組むための環境づくりについて、もっと多くのビジネスパーソンが深く考えて、時間を割くべきだと感じています。
僕も一生、この環境でいいのかを自問自答しながら進んでいますし、目標と環境をリンクさせれば、夢が実現する可能性は間違いなく高まると思っています」


さらなるサッカーの発展へ
4v4、EDO ALL UNITED に込めた想い

サッカーの普及や後進の育成にも、独自の視点で取り組んでいる本田圭佑氏。
多くの関係者が注目しているその活動を、サッカーの発展にかける本田氏の想いとともに紹介する。

【4v4】

©︎4v4official

自ら考え抜く力を真剣勝負の舞台で育む
次世代スター発掘の新4人制サッカー

日本ではU-10のカテゴリは地区大会のみで、全国大会は存在しなかった。
そこで夢の重要性を知る本田氏が、10歳以下の小学生が真剣勝負をする場を提供したいとの想いから2023年に発足した4人制サッカーの全国大会が「4v4 JAPAN CUP」だ。

決勝では計49チームが日本一をかけて戦う。まだ2シーズンを終えたばかりだが、「U-10世代のこどもたちはものすごくよろこんでいて熱烈な支持を受けている」と本田氏も確かな手ごたえを感じている。
24年からは12歳以下のカテゴリも新設。25年の夏には、初のアジアカップを開催する予定だ。日本サッカー協会も後援するなど、世界的な展開を見据え広がりを見せている。

10歳以下でも参加できる4v4の特徴とは
🔵手軽に参加できる4人制
フットサルコートで行う4人制のコンパクトサッカー。少人数にすることで、参加のハードルを低くした。
「クラブチームに所属しているこどもが、仲の良い友だちと出ていることが多いですね」

🔵監督不在で自主性を高める
自主性を伸ばすため、監督やコーチは禁止。交代やタイムアウトもこどもたちが行う。
「監督や親が勝ちたいからやるのではなく、こどもがやりたいからやるのが健全なスポーツだと思っています」

🔵10分1本勝負のスピード感
前半と後半はなく、試合時間は10分。
「僕でも90分は長いと思うので10分にしました。時間が短いので攻撃的な展開になりやすいですし、見ている人も飽きることはありません」


【EDO ALL UNITED】

©️EdoAllUnited

日本の首都・東京の中心に世界一のサッカークラブを

「EDO ALL UNITED」は本田氏が2020年に発足した社会人サッカークラブ。東京4部からスタートして、4年で関東2部にまで昇格した。

「世界でプレーをしてきて、大抵の首都にはビッグクラブが存在しています。
一方、東京は23区内にクラブがないので、東京のど真ん中にこだわって作りました。
2040年にクラブワールドカップ優勝という難しいゴールを課していますので、ぜひ一度試合を見に来てほしいですね」

クラブ運営については、会費を払えば誰でもなれる「オーナー」によってすべて取り行われるという新しい試みを実施。
組織としても世界一のクラブをめざし、意欲的に変革に取り組んでいる。

クラブコンセプト
主に以下の4つを中心的なコンセプトとし、サポーター全員がクラブ経営に参加できる運営システムが特徴。会費を支払い「サロンメンバー」に登録すればクラブ経営に参加でき、COO や監督などの人選、運営に関するあらゆる事項はすべてメンバーによる投票で決定する。

1. 全員参加型クラブ経営
2. オープン型クラブ経営
3. 最先端クラブ経営
4. スポーツマンシップ

©️EdoAllUnited


◆編集後記◆

日本のファウンダーに求めるもの

©︎HONDA ESTILO

30歳で投資会社を立ちあげた本田圭佑さん。
その後もハリウッドスターのウィル・スミスさんと共同でVCファンドを設立するなど、これまでに投資を行ったのは100社以上。

2024年は日本のスタートアップを対象とし、日本初のデカコーン(評価額100億ドル以上)を生み出すことをミッションとしたファンド「X & KSK」を設立した。

「昔は数字もプロダクトもない、夢物語だけを語る人に投資をしてきたこともあります。
ただこれからは、シリーズAと言ってプロダクトやサービスをすでにリリースしていて、事業拡大のために資金調達を希望する企業に投資をしていきます。
見極めは非常に難しいのですが、日本向けとなると顧客は1億2000万人しかいませんから、その時点で経済の規模が限られてしまいます。
デカコーンをめざすためには、視座の高さ、プロダクトやサービスを世界に送り出す意気込みのあるファウンダーへの投資を検討しています」


投資先は、業界も出会いもさまざまだ。興味のある分野をリサーチすることもあれば、紹介もある。
なかにはXでDMを受け取り、投資を決めたプロジェクトもあるという。
アメリカでも数多くの投資を手がけてきた本田さんにとって、日米のスタートアップにどんな違いを見ているのか。

「僕はあくまでも投資家で、主役は起業家ですから。
サポートさせてもらうという立場ではありますが、それを前提にしながらも会社を作るときのプランや視座に明確な差があることは事実です。
僕としては少しぐらい強引でもいいから、『これを成し遂げたい』『こんな会社を作りたい』『こんな速度で売り上げを伸ばしたい』という大きなプランを作ってもらいたい。
成功するのは一握りかもしれないけれど、熱狂的な起業家が増えればおもしろい企業が絶対に日本からも生まれてきます。

例えば、夢物語を語られて正しいような気もするけど、プロダクトはできてないからリスクは高い。でもしっかりと考えられているし何よりおもしろい。そういうときはおかしいと思われるかもしれないけれど、僕は投資します。
だから起業の分野においてももっといろんなプレーヤーが現れて、どんどん日本のスタートアップの母数が大きくなって、世界に誇れる企業が現れるのを楽しみにしています」

※インタビューの情報は2025年1月1日現在のものとなります。


🎧インタビュー記事を音声でCHECK!
  通勤中、お仕事中など「ながら聴き」がオススメ!ぜひお聴きください!

Podcast 「THIS IS US Powered by SAISON CARD」にてインタビュー配信!

本田圭佑さんのお話を、音声でお聴きいただけます。
1月17日(金)・24日(金)・31日(金)・2月7日(金)・14日(金)
の更新をお楽しみに!



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