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〈Special Interview〉継承と革新で描く日本サッカーの未来

中期計画実現へ向けてJFAが取り組むべきこと

「この国でサッカーがもっと重要な存在になるために貢献したい」という想いを抱き、日本サッカー協会会長に戦後最年少で就任した、元サッカー日本代表主将の宮本恒靖氏。
女性のエンパワーメントまでを見据え、 WEリーグの発展に尽力を続ける理事長の髙田春奈氏。
若きリーダーとして期待される2人が、日本サッカー界の現在地と未来を語る。

Text:Junko Hayashida,Natsuko Sugawara
Photograph:Keisuke Nakamura


日本サッカー協会 会長
宮本 恒靖(みやもと つねやす)

1977年生まれ。小学5年生でサッカーを始め、ガンバ大阪、オーストリア・ブンデスリーガのレッドブル・ザルツブルグ、ヴィッセル神戸と数々のチームで活躍。日本代表では2002 年と06 年のFIFAワールドカップに出場。
24年、第15代日本サッカー協会会長に就任。


日本サッカー協会 常務理事
髙田 春奈(たかた はるな)

1977 年生まれ。実業家として活動する傍ら、東京大学経済学部卒業、教育学研究科で修学。
2018 年にはV・ファーレン長崎の上席執行役員、20年には同代表取締役社長に就任。22年、Jリーグの業務執行理事、日本サッカー協会の理事に就任し、同年9月よりWEリーグの理事長として幅広い知見を活かし、活動を行う。



若き2人のトップが起こす
日本サッカー界への新風

世界における
日本サッカー界の現在地

髙田 私たち、誕生日が2ヵ月違いなんですよね。2024年、宮本さんが日本サッカー協会(JFA)会長になられて、これからは私たち世代が中心となって牽引していくんだと、改めて実感しました。

宮本 同年代だと話がしやすいことも多いですよね。

髙田 ただ、私はプレーの経験もないですし、こんなすごい方々の中で、サッカーを語るなんて、という気持ちも少なからずありますよ(笑)。

宮本 いえいえ。専門的なところだけでなく、誰が見ても感じられるものがあるサッカーであってほしいので、髙田さんのような方の視点も大切です。

髙田 私は立場上、普段女子サッカーを見ることが多いのですが、宮本さんは長く選手として活動されていて、今の男子の日本代表をどのようにご覧になっていますか。

宮本 僕の時代とは違うレベルのサッカーになってきていますね。多くの選手がヨーロッパのトップクラブでプレーをしていますし、その経験を代表チームにしっかりと還元してくれています。

髙田 その点は女子に関しても、昨年のワールドカップはベスト8という結果ではありましたが、優勝国のスペインにグループステージでは勝利しています。あの大会をきっかけにWEリーグから海外に移籍した選手もいますし、今後の代表の強化に繋がると思っています。

宮本 僕個人としては、女子ワールドカップはもう少し先まで進めたのでは、という悔しい思いもありましたけど、世界でもかなり評価されていますし、これからもっと成長していける部分、楽しみな選手が増えてくると思います。ただ、男女ともに国際大会で今まで以上の成績を残すためには、選手層の厚さが必要になってきますよね。
前回の男子ワールドカップではクロアチアに敗戦しましたが、実はあのとき怪我を抱えている選手が多かったんです。もしクロアチアに勝っていたとしても、次も同じような戦いができたかというと、不透明な部分もある。
そうなると、やはりレベルの高い選手が数多くいる状態が必要で、そのためにも若い選手や能力のある選手を育成して、そうした選手が海外に出てもらって、移籍金や経験をクラブや日本に還元していくというサイクルを作り出すことが必要になってくる。僕はそれをここ5年ぐらいでできればいいなと思っています。

髙田 そこは女子でも感じている部分です。なでしこジャパンは今、海外組と国内組が半々ぐらいですが、ワールドカップでは海外組は日頃から外国人選手と戦っていることもあって、国内組に比べると自信を持ってプレーしている印象を受けました。ただ、最近はWEリーグにも外国人選手が複数人所属をしていまして、彼女たちから「日本の良さに自信を持ってやったら良いのでは」という意見もいただいています。
国内リーグだからと萎縮するのではなく、磨かれた日本らしさ、海外と互角に戦えるんだという自信をもっと持てれば、代表チームに良い融合が生まれるのではないかと思っています。

宮本 海外志向は選手だけでなく、指導者にも必要だと僕は思っていて。現在JFAの指導者ライセンス制度はS級をトップとして5段階あるのですが、ただ上をめざすのではなく、海外も視野に入れて臨んでほしいと感じています。
例えば海外での会話は英語がベースになるので、基本的な言葉や考え方、フレーズなどを学んだり、アンテナを張っておいて、海外からオファーが来たときに「行けます」と自然に言える人材が増えることを望んでいます。

サッカーに関わる人たちを
増やすための施策とは

宮本 JFAでは、〝サッカーをする、見る、関わる〞という、サッカーに興味や関心を持ってくれる人が日本の人口の10人に1人になることをめざしています。
現在、JFAに登録しているプレーヤーは80万人以上いますが、加えてワールドカップで応援してくれるようなライト層と呼ばれるサッカーファンの方たちと、いかに継続して繋がっていけるのかということも重要だと考えています。
JFAが2年ほど前に作った「JFA Passport」というアプリも活用して、多くの方たちと直接繋がっていけるようなことをしていきたいと思っています。


髙田
 そうですね。海外に目を向けると、近年、欧州の女子サッカーがとても盛りあがっていて、大きな試合となると入場者数が5万人も入ることがあります。
スペインでもイングランドでも、ビッグクラブが女子サッカーチームを持つことがステータスになっていて、多くの資金を投資して、その結果チームが強くなり、代表チームにもその恩恵がめぐっている状況が起こっています。観客も若い女性やファミリーなど、男子サッカーとは違う層がサッカーを楽しんでいます。日本は残念ながら、その状態に至っていませんが、女子サッカーならではの良さを発信していくことだったり、Jリーグとは違うファン層を獲得することにチャレンジをしていくことが、日本サッカー全体の発展にも繋がると考えています。
そのためにWEリーグでは、アメリカやスペイン、イングランドのリーグに関わる方にオンラインでレクチャーを受けるなど、女子サッカーが果たせる役割を模索しているところです。

宮本 女子サッカーをいかに拡大させるか、WEリーグをいかに発展させるかは、JFAとしても重要な課題だと思っていますし、Jリーグのクラブも感じてくれていますよね。

髙田 そうですね。実際、WEリーグの12クラブ中、8クラブはJリーグと母体は同じで、どのクラブも本当によくやられているとは思っています。

宮本 ただ、サンフレッチェ広島や浦和レッズのように、女子チームを抱えていることに対してのプライドを持っているクラブもあれば、運営規模として厳しいと明確な課題を示される経営者の方もいらっしゃって。
では、今後どういう形で進めるのがいいのか、私たちも構想を練っていますし、JFA、Jリーグ、WEリーグのさらなる連携は必須ですね。

地域が持つ課題を
考慮した連携が必須

宮本 連携で言うと、JFAでは47都道府県サッカー協会(47FA)との連携も重視しています。地域によっては少子化が進み、クラブ活動をしようにも選手が集まらなかったり、部活自体がなくなっていることもあります。
一方で、都会では人はいるけれども、練習拠点がなかったりもする。また、独自のマーケティングで利益を生み出しているところもあれば、そうではないところもあるなど、地域によって抱える課題はさまざまです。だからこそテーラーメイド式でどんな連携ができるかを考えることが大切だと思っています。

髙田 現在、JFAとJリーグが一緒になって、各都道府県で制作しているサッカー番組がまさしくそうですよね。私は47FAの方と直接お話をする機会は少ないのですが、元々地方クラブにいましたので、多くの方にサッカーを愛してもらうためには、地域の中でJクラブの持つ役割が非常に重要なものだという意識がありました。番組では地元のJクラブだけを取りあげるのではなく、キッズやシニア、女子など、いろいろなサッカーのニュースを取りあげていますし、各都道府県に合わせて、カスタマイズしたコンテンツを作るようになっているので、そこに地域の課題も反映されて、各地のサッカーが少しでも発展するといいですよね。

宮本 もうひとつ我々ができる役割としては、こどもたちにいかにスポーツをしてもらえる環境を整えるかです。
例えば、本田圭佑が4人制のコンパクトサッカーの大会を行っていますが、そういった団体と将来的に連携ができるのか。ひとつのスタジアムに陸上やバスケ、サッカーなどができる環境を整えて、こどもたちにいろいろな競技を体験してもらうことができるのか。多くのスポーツを経験して、結果的にサッカーを続けるこどもたちがいればうれしいですが、陸上を始めても、バスケを観戦するようになるのでも良いと思うんです。
むしろ7歳、8歳でひとつのスポーツに打ち込む必要はなくて、まずはいろいろなスポーツを楽しめる環境を整えることが重要で。これは各スポーツ協会とも繋がりがあるJFAだからこそ連携していけると考えているんです。

髙田 育成にも課題がありますよね。
女子の場合、小学生までは男子と一緒にプレーをしていますが、中学に進むと体格差などが出てきて、どうしてもクラブは男子対象になってしまう。とはいえ、続けたくても女子チームが圧倒的に少ないという根本的な問題も抱えていて。
サッカー教室やスクールも男子が前提になっていることが多いので、サッカー=男子のスポーツというところから意識を変えていかないといけないと個人的には思っています。
その意識を変えるためには、やはりなでしこジャパンやWEリーグの選手が活躍して、その姿に女の子が憧れて、自分もやりたいと思ってくれれば、サッカー界にもプラスになると思っています。

宮本 その文脈で言うと、JFAはエリートスポーツ(※1)と生涯スポーツ(※2)のダブルピラミッドの構築を掲げていますが、例えばエリートスポーツであれば、Uー15までトップチームでやっていて、そこで壁に直面したときに、その先にスムーズにプレーできる機会を持てる移籍制度が十分とは言えません。選手にとっては足枷となるようなルールがいろいろとあるんですね。
一方、生涯スポーツの面で言うと、これはサッカーに限らないのですが、球技を禁止する公園が増えていたり、こどもたちがプレーできる環境が減っているということがあります。そこでJFAでは、禁止するのではなく「ほかの人に気をつけながらボール遊びをしましょう」という表現に変えてほしいなど、自治体や国に働きかけることも行っています。登録制度であったり、環境であったり、老若男女を問わず、受け皿を増やすことを考えていかないといけないところですよね。

※1 国内外でトップクラスの能力の中で競うスポーツ。
※2 健康維持などのために誰もが生涯を通じて楽しめるスポーツ。

日本サッカー界のめざす
新しい扉とは

髙田 2021年にWEリーグが発足しましたが、同時に各国が女子のプロサッカーリーグを活性化させていて、女子サッカーを取り巻く環境は急激に変化しています。その中で、自分たちのスピードであったり、現実的な歩みだけで考えてしまうと、世界とは明らかな差がついてしまう。日本の女子サッカーはすばらしい歴史とポテンシャルを持っていますし、自分たちの良さを生かしながら、いかに世界についていくのかを見極めることは重要だと思っています。WEリーグは女性のエンパワーメントを掲げていますので、女子サッカーを見て、多くの女性が夢や希望を持てる世界を作っていけたらと思っていて。その意味では2031年の女子ワールドカップ招致というのは、良いマイルストーンになったと思っています。


宮本
 男子は2050年のワールドカップ招致を掲げていますが、スタジアムの基準などクリアしなくてはいけないハード面もあり、実現は並大抵のことではないと思っています。ただワールドカップのような世界的な大会を行うことで、それがレガシーとなって、サッカーが身近な日常を作っていける。日本サッカー協会ができて、今年の2024年で103年目を迎えるのですが、選手の育成システムや指導者の養成システムなど、先人たちが築きあげてくれたものがあるからこそ、日本サッカーがアジアの中でも、割と早く成長することができたと思っているんです。だからこそ継承すべき部分は残しながら、先ほどから話しているような課題は革新をしていかないといけない。

髙田 女子も2011年にワールドカップを優勝したことが財産になっていると感じています。ただ一方で、そこに固執をすると、制限がかかってしまうのではないかと感じていて。日本の女子サッカーも新しいフェーズにきているので、新たな変化を起こすときですよね。

宮本 これは自分にも言っていることですが、当たり前だと思っていることは、いつまでも当たり前じゃないわけです。そのことを常に意識しながら、この先10年だけのことを考えるのではなく、20年、30年先も見据えた施策を練ることが、今後のサッカー界の発展に繋がると思っています。


◆編集後記◆

今回の対談場所となったのは、東京ドームシティ内にあるJFAのサッカー体験施設「blue-ing!」。施設内では、これまでの日本代表の数々の戦いが特別上映されていて、その様子を時折、懐かしそうに眺められていたお二人。

パリ2024の予選では、「万が一、出場できなかったらというプレッシャーと、そのプレッシャーを選手たちにかけてしまっている申し訳なさを感じていましたが、選手たちは本当に感動する試合を届けてくれました」という髙田春奈さん。

日本は激闘の末、男子U-23となでしこジャパンともに、見事パリ2024への切符を勝ち取りました。ビッグマッチではJFAのメンバーとして、ともに観戦することもあるというお二人ですが、パリ2024は現地で観戦予定の宮本恒靖さん。「地理的な問題もあって、日本戦をすべて見るのはなかなか大変そうなんです」と語りながらも、全試合観戦する意欲が伝わってきました。

サッカー日本代表の戦いは、グループDの男子は7月25日(日本時間)から、グループCの女子は7月26日(日本時間)から始まります。

日本サッカー界に新たな1ページが加わる大切な大会。日本からも熱いエールを送り、日本代表の戦いを盛りあげましょう!



〈番外編〉
 次世代を担うサッカーキッズへの想い

日本サッカーのさまざまな可能性をお話ししてくださったお二人。その根底には「サッカーをもっと多くの人に楽しんでもらいたい」という想いがありました。

さて、今回、対談場所になったのは、東京ドームシティ内にあるJFAのサッカー体験施設「blue-ing!」のカフェスペース。その一角で撮影をしているとき、施設に遊びに来たのが日本代表ユニフォームを着たこどもたち。現役を引退して約13年。
「多分、僕のプレーを見たことがないんじゃないかな」
と宮本さんはおっしゃいましたが、日本代表主将も務められたトップアスリートの姿を発見すると、こどもたちの目はキラキラと輝きます。
そんなこどもたちの姿を見て、宮本さんは撮影の合間にこどもたちの元へ向かいます。
一人ひとりに声をかけ、サインをし、最後は全員で笑顔での記念撮影。サッカーを通じて、多くの人たちによろこびを与えたいという想いは、宮本さんの行動からもひしひしと伝わってきました。

まもなくパリでの戦いへと向かうサッカー日本代表の勇姿を、日本から応援しましょう。



※インタビューの情報は2024年6月1日現在のものとなります。


『SAISON PLATINUM AMERICAN EXPRESS CARD NEWS』との連動プログラム、「THIS IS US Powered by SAISON CARD」。
このポッドキャストでは、様々なフィールドの第一線で活躍する、エキスパートをお招きして、その世界の魅力について、たっぷり、お話を伺っていきます。

宮本恒靖さんと髙田春奈さんの対談インタビューは、下記をタップ!



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