〈イノベーションジャパン・前編〉Web3がもたらす新たな未来価値
ブロックチェーン(※1)技術を基盤とした分散型インターネット、Web3. 0の時代が到来しつつある。
開発ユニット「AR三兄弟」の川田十夢氏と、株式会社Thirdverse、株式会社フィナンシェ代表取締役CEOの國光宏尚氏にWeb3入門編として、次世代インターネットがもたらす多様性と可能性について語っていただいた。
※この記事は前編です。後編はコチラ
Text:Rie Tamura
Photograph: Keisuke Nakamura
タイトル写真:赤城自然園
◆デジタルデータが「価値」を持つ時代へ
次の十数年のトレンドは
メタバース、Web3、AI
川田
國光さんは著書『メタバースとWeb3』を出版されていますよね。「メタバース」と「Web3」についてわかりやすく教えてください。
國光
まず、テクノロジー業界は「デバイス」「データ」「データの活用法」の3つで成り立っているといえます。2007年前後にアップルがiPhoneを発売、FacebookやTwitterなどのSNSが急成長、クラウドのAWS(Amazon Web Services)が開始。これらのスマホ、ソーシャル、クラウドという、その後の十数年間を決定づけるテクノロジーが生まれたことでできたトレンドが、Web3が来る前の、Web2・0でした。
そこから十数年が経ち、新しいパラダイムが起こっています。デバイスでは、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)の「メタバース」。データでは「Web3」。データの活用法でいうと「AI」。
つまり、PCからスマホになって、メタバースに変わってきた。データも、Webサイトからソーシャルデータになり、Web3ではいよいよ「価値」というデータを送り合えるようになってきた。
データの活用法も、データベースやストレージを提供していたクラウドの時代から、ビッグデータで調教されたAIを誰でも活用できるようになってきた。ですから、次の十数年のトレンドは、間違いなく「メタバース」「Web3」「AI」になるでしょう。
川田
わかりやすい。國光さんは自分で作っている実装者ですからね。Web3で私が注目しているのは、金銭面。お金とデータの隣り合っている感じがおもしろくて。メタバースが叶えるもののひとつとして、お金でテクノロジーとファッションが結びつき、おしゃれになる、というようなことがデジタル上で作用してくると思っています。
実空間にある流行の気分みたいなものに自分の存在意義をオーバーレイしたりとか、そういうデータの新しい配置が、現実にもメタバース空間にもできてくるなというのが、開発ユニット「AR三兄弟」をやっている側の感覚ですね。
國光
ただ、私も16年からVR・ARに関わっていますが、なかなか時間がかかっていますよね。
川田
デバイスに対する過度な注目と、こうなればいいなというみんなのイメージが先走っていますね。でも、今年はアップルがAR/VRヘッドセットを出すという話もあるし、いよいよ理想と、やりたかったことと、プログラミングによって可能になる領域が隣り合ってくるなと思っています。
「いいね」も、自分の価値観をちゃんとお金を紐づけて示すというのが、ひとつのWeb3の形だと思うんですけど、そういうことが技術に溶けていって、次の経済圏やおもしろみが出てくるなというワクワクする段階です。
國光
私のほうは、そのテクノロジーを使ってどんなサービスやビジネスを作れるかというのを考えているところです。メタバースは、VRとARのリブランディングだと思うんですね。
PCやスマホが2Dのフラットなスクリーンを覗くだけだったのに対し、VR・ARは、目とネットが直接つながって空間すべてがディスプレイになる。バーチャルな世界に入れるというのが大きな違いです。
ゲームでいうと、メタバースなら、その世界の中に自分もいるような感じが体験できる。そうなってくると、メタバースで欠かせないのが「実在感」です。それをどうやって作っていくかが重要になってきます。
もっと自由に生きられる
バーチャルファーストな世界
國光
最終的なゴールは「バーチャルファースト」な世界だと思うんです。今までは、リアルが主、バーチャルが従。要するにリアルをより便利に、より効率的に、より楽しくするためのインターネットだったと思うんですが、いよいよバーチャルが主、リアルが従の世界がやってくると考えています。
これまでは、持って生まれたひとつの外見、ひとつの性格、ひとつの偶然周りにいたコミュニティ、ひとつの経済圏に縛られていた。ただ、これがメタバース上のアバターになると、自分の外見はその日の気分で選べる。性別も人種も種属も選んでいい。その性格もアバターごとに自分のキャラクターを演じればいい。
そして、そこに合ったコミュニティを作ればいい。だから、最終的にこのバーチャルファーストの世界がめざしているのは、複数の外見、複数の性格、複数のコミュニティを自分で選んで生きる、人々がより自由に生きられる世界。それがひとつのゴールなんじゃないかなと思いますね。
川田
今までは、映画の宣伝をするためや何かを盛りあげるためのVR・ARが大半でした。ところが、VR・AR作品はバーチャルファーストになり、企画が立案された時点でVRがゴール、ARがゴールに。
その成り立ち自体がもう進化していますよね。私が今、手掛けているのも原作があるわけではなく、ARで楽しいもので、ARがゴールなんですよ。このファースト感がどんどんあがっているなと感じます。
國光
可処分時間と可処分所得はそれほど大きく変化しない。その結果、自分の有限な時間をより多く使うところに、多くのお金を払うことになります。若い世 代ほど、リアルで友達と会うより、LINEやTikTok 、オンラインゲームなどのバーチャル上で友達と交流する時間のほうが長くなりつつある。
そうなると、 自分のアイデンティティの中心であるアバターの服や靴にお金を使うようになります。だから次の時代、世界一大きなアパレルメーカーはバーチャルの世 界から出てくるでしょうね。
決定的なハードウェアと
キラーコンテンツが必須
川田
GAFAMなど、多くの企業がメタバース市場に参入していますよね。
國光
ハードウェアを作るところと、ソフトウェアやサービスを作るところに分かれますね。ハードでいうと、VRで一番売れているのがメタ社のMeta Quest 2(Oculus Quest 2)で、昨年末時点での推定出荷台数が約1800万台。
川田
結構な数ですね。
國光
はい。順調に伸びてきています。ただ、VRがゲーム市場にとって重要になってくる目安は1億台です。Nintendo Switchが1・1億台なので、それぐらいまで行くとニッチなガジェットだとは思わないじゃないですか。
今年はメタ社の一強体制から、いろんなハードメーカーが出てきて、マスアダプションが始まってくる。ただARは、もう少し時間がかかりそうですね。
川田
おっしゃるとおりです。
國光
今年、アップルが出すというARのハードは、噂によると3000ドル(約40万円)とか。なかなか手が出ませんよね。大体、こういうハードの初代が出てから一般の人の手に届くようになるまでが3年なんですね。だから26年がAR元年になると思います。
川田
そこまで頑張ろうかな(笑)。私がカルチャー的に注目しているのは、世界中の映画祭がVR部門、メタバース部門を設けていること。メタバースがひとつのジャンルとして無視できなくなってきていて、作品として評価されつつある。だからプレイヤーもどんどん増えていくだろうなと思います。
國光
メタバースが発展するためには、やはりハードが重要なんです。VRの決定的なハード、ARの決定的なハードが必要。VRはMeta Quest 2が十分なハードなので、次はキラーコンテンツ。
みんながそれをどうしても買ってまでやりたいという、キラーコンテンツやキラーユースケースが出てくれば、VRは爆発的に来るのかなと。
ARは、ハードであるARグラスを作るのが難しい。ARグラスを外で使う場合、メガネ型ぐらいにならないとさすがに掛けられませんよね。それならバッテリーをどこに入れるか。暗いときと明るいときの調節はどうするか。そういう難しさがあって苦戦している感じです。
ただ、おそらくアップルかメタ社が十分なARグラスを出してくる。そのタイミングでキラーコンテンツが出てきた瞬間に跳ねると思います。
川田
スマホARではなくて、見ている目で操作できたら早いですもんね。スマホはタップという概念がある。それが人の視点から何をフォーカスしているかを拾わなきゃいけなくて、そこで結構なOS的な省略が起こるんですよ。
最初にそのハードルを越えた、コンピューティングのガジェットを出したところがたぶん勝つでしょうね。
國光
VRの初期のキラーコンテンツは間違いなくゲーム。二番目がソーシャル。VRチャットなど、そこで遊べるというものが一気にマーケットを広げていくでしょう。ただ、ARはまだこれといったキラーコンテンツやユースケースが見えていません。
アップルは、ホログラムでの会議がキラーユースケースだと考えているようです。
川田
私はもうそれを想定して作り始めていますよ。街の中に何かが隠れていて、それを探して回るという、ARのかくれんぼを作っています。
國光
『Pokémon GO』に近い?
川田
近いけれど、推理の要素が入ります。街でアイテムを広げていくと、そのキャラクターがいる前後が見えてきて、「ここにこれが落ちているってことは、次はここに行っているな」と予想し、断片を拾い集めるとすべてがつながったときに初めて全貌が見えるというもの。
ストーリーのかくれんぼじゃないけれど、場所も使うし、わかりやすいんじゃないかなと思っています。
國光
脱出ゲームの3D版をリアルな都市の中でやっていく感じですね。そこにコミュニティやマッチング要素が出てくると、友達や恋人ができたり。そういうのは、ひょっとしたらありかもしれないですね。
新しい組織DAOは
インセンティブが得られる
國光
エンタメ業界は、データやコンテンツをCD、DVDに入れて売ってきました。ところが、インターネットの出現で複製コストがゼロになり、違法も含めて供給量が無限大になってしまい、価値がゼロに。そこでサービスを売るようになってきた。SpotifyやNetflixは音楽や映像を売るのではなく、聴きたいときに聴ける、観たいときに観られるサービスを提供してお金を稼ぐようになりました。
ただ、ブロックチェーンやNFT(※2)が出てきて、デジタルデータの供給量を制限することができるようになり、データそのものが価値を持った。ここが凄まじく大きな変化なんです。これにより、バーチャル空間上の中でマネタイズが完結する経済圏が作れるようになります。
今まではインターネットで情報のやりとりしかできなかったのが、Web3時代には、ビットコインが典型ですが、価値をメールのごとく送れるようになったんです。
川田
これからは、お金の使い方や残し方が変わってくるでしょうね。國光さんが関わるビジネス事例で興味深いのが、スポーツクラブを応援する「クラブトークン」と映像製作の「エンタメDAO」です。これらは、応援する人たちにもリターンがありますよね。
國光
そうですね。Web3時代のビジネスチャンスとして、個人が参入しやすいところは、NFTやDAO(自律分散型組織)だと思います。DAOは、株式会社に代わる新しい組織といわれていて、まずビジョンがあり、そこに賛同する人が集まるコミュニティがあって、そこが発行する独自のトークン(※3)がある。その組織やプロジェクトのために動いたすべての人たちに金銭的なメリット、インセンティブが渡るというのが大きな特徴です。
「クラブトークン」は、ブロックチェーン技術を活用した、新しい形のファンサービス・クラブ応援ツールです。21年に国内のプロサッカーチームとして初めて、湘南ベルマーレクラブトークンを私が運営するフィナンシェ上で発行しました。日本初の「エンタメDAO」としては、22年に「SUPER SAPIENSS」を発足しました。
これは、映画監督の堤幸彦さん、本広克行さん、佐藤祐市さんの三氏が共同で製作を指揮し、ファンとともに原作づくりから映像化に挑むプロジェクトです。
川田
テレビ局、映画配給会社、広告代理店などからなる「製作委員会」の制限が外れ、なんでも作っていいとなったときに、何を作るんだろうとワクワクしますね。
國光
そうですよね。フィナンシェ上だけでなく、DAOはいろいろなところに増えてきているので、まずはおもしろそうなDAOに自分も参加してみて、それを成功させるためにコミットしていく、という参入のしかたをおすすめします。ってことは、次はここに行っているな」と予想し、断片を拾い集めるとすべてがつながったときに初めて全貌が見えるというもの。
ストーリーのかくれんぼじゃないけれど、場所も使うし、わかりやすいんじゃないかなと思っています。
〈イノベーションジャパン・後編〉~NFTアートの世界~ 未来のコマース はコチラ
※掲載の情報は2023年2月1日現在のものとなります。
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