〈イノベーションジャパン・後編〉~NFTアートの世界~ 未来のコマース
画像や音楽に唯一無二のデジタル証明書をつけることのできる技術「NFT」。
開発ユニット「AR三兄弟」の川田十夢氏と、NFTアートの第一線で活躍する株式会社 Fictionera代表の草野絵美氏にNFTの現在地と未来について教えていただいた。
※この記事は後編です。前編はコチラ
Text:Rie Tamura
Photograph: Keisuke Nakamura
タイトル写真:赤城自然園
◆NFTがデジタルアートの唯一性を担保
2.5億円のNFTアート
新星ギャルバースをアニメ化
川田
NFTはNon-Fungible Tokenの略で、非代替性トークンと訳されます。草野さんはNFTの当事者ともいえますが、最初から理解できましたか。
草野
いいえ。自分で出品し、買ってもらって、そのコミュニティの人と交流してやっと理解しました。私なりにNFTを説明すると、「デパートで服を買ったら、その服がデパートの中でしか着られない」ということが従来起きていたんですね。
例えば、ゲームで勇者の剣を買っても、そのゲームを全面クリアしたら剣を持ち出すことはできなかった。でも、ブロックチェーン上では流通できるようになったというのが、NFTの革命だと考えています。
皆さんも、LINEスタンプやスマホの壁紙などをダウンロードしますよね。そういうデジタルアイテムに対して、替えのきかない印、「これは自分のだ」というスタンプを押す、というようなことがNFTだと思うんですね。スタンプを押して、それを人に譲ったら、その記録もすべて残る。
これにより、今まで流通することがなかったデジタルアイテムが流通できるようになったというのが、NFTの説明になるのではないでしょうか。
川田
確かにね。今、デジタルのアート作品は、たった一枚の画像なんだという、テクノロジーを介した証明ができ、それを裏書として唯一性が担保できるようになりました。草野さんの息子さんもNFTアート「Zombie Zoo」で世界的に大ヒットしましたよね。
草野
NFTの黎明期だった2021年、私が食卓でよくNFTの話をしていたんですよ。すると当時小学3年生だった息子が、NFTを「在庫を持たないポケモンカードみたいな感じだね」と言い、夏休みの自由研究でNFTをやってみたいと言いだしたんです。
息子がα世代という新しい世代だったのもあり、自分が試す以上にフットワーク軽くスタートできました。
川田
かわいい動物が腐ってるっていう息子さんの見立てがいいですね。
草野
そうなんです。ゾンビ化した動物たちのピクセル画。世界最大のNFTマーケットプレイスOpenSea に出品したら、約一週間で完売しました。実は、NFTのコミュニティであるDAOの中で話題になり、二次流通(※4)まで起きていたんです。
その後、世界的なDJでNFTコレクターであるスティーヴ・アオキさんが、3作品を6ETH(※5)(約240万円)で購入してくださったんですね。そういうこともあり、日本では有名なNFTのひとつの事例になったのかなと思います。
川田
なりましたね。DAOで話題になり、息子さんの作品が売れたということが、直接的な経験となって草野さんのNFTの定義になっていますよね。
私はまだNFT作品を本格的に作っていませんが、見ていておもしろいのはコントラクトというか、お金にまつわる流通部分の約束事などを自分で決められること。草野さん自身が手掛けるNFTプロジェクト「新星ギャルバース(Shinsei Galverse)」は、ロードマップをみんなで共有し、プロジェクトが大きくなっていくのをメンバーとしてゼロから楽しめるわけですもんね。
草野
新星ギャルバースは、8888体すべて顔が違う90年代アニメ調のキャラクターです。セール日に一斉に売り出し、一次流通では完売。現在は二次流通として売られている状態です。売上げは約2・5億円。
ただし、儲けて終わりではなく、そのお金で新会社をどう運営していくか。私たちの場合はアニメ化をめざしているので、アニメ制作に関われるという購入特典やロードマップを記載したうえでギャルバースを販売しました。
川田
作品の流通の仕方もプロジェクトの進み方も、比類ないんですよね。
草野
購入者のコミュニティで流行しているのが、自分のギャルバースのパーツの情報、例えば青い髪、メガネ、帽子などを入力してAIアートで衣装を作ること。
そこから、共同制作者でリードアーティストの大平彩華がインスパイアされたり。すごくおもしろいですよね。
川田
言葉を渡すと絵を描いてくれるという、あとから出てきたテクノロジーとも合流できるのがいいですよね。草野さんは、ゾンビ化したり、90年代のアニメのニュアンスをあえて最新の場に出したり、「デジタルのものに古さを与える」という見立ての妙や大胆さがすごくいいですね。
デジタルアイテムの流通革命
NFTの現在地と未来
川田
仮想通貨の値崩れにより、NFTの価格もそれに比例して不安定になったり。今って右肩上がりというよりは、バブル期が終わった冷静な時期、幻滅期ですよね。このNFTの現在地についてどう感じますか。
草野
NFTを作っている人たちは、お金儲けで近づいてきた人たちが去っていって、業界を作っていくところにまた戻ったなと冷静に捉えていることが多いです。
実際、ウォレット(※6)を導入することのハードルの高さなど問題はありますが、例えば次の次のiPhone にウォレットが標準装備されるとか、ウォレットがないとマイナンバーカードが使えないとか、そういうフェーズになれば恩恵を享受できるようになると思うので、それまではいろいろな事例を試していく時間かなと考えています。
川田
NFTをこれから始める人は、まずウォレットを買ってみて、仮想通貨とほかの金融商品の違いを楽しんでみて、それに派生するいろいろなNFTアートにバイヤーとして手を出してみるとおもしろいかもしれませんね。
草野
そうですね。自分が支援したいクリエイターや、好きな作品があったらまず買ってみて、そのクリエイターやファンの方と交流してみたり。そうやって参加して感覚をつかむのが一番です。
さまざまな業界の方がNFTの使い方や将来について考えてくれることで世界が変わっていくと思うので、まずは体感していただきたいです。
川田
NFTのビジネスへの展開についてはどう考えていますか。
草野
NFTにユーティリティが付与できるという点で、会員権との相性が非常にいいですね。例えば、ライブチケットも誰が誰に転売したかわかるので、本当に行きたい人にマッチします。今あるプロジェクトやサービスと会員権をつなげるには、何ができるかを考えてみるのがひとつだと思います。
もうひとつは、NFTのシーンで活躍している人のスポンサーになったり、コラボレーションすること。例えば、購入したギャルバースを自社CMに出演させてみるとか。主にバーチャルスニーカーを制作するNFTプロジェクトのRTFKT(アーティファクト)は、Nikeに買収され、そのNFTを買うとバーチャルとリアルのNikeの靴が両方もらえたりします。
川田
すごくカジュアルな、デジタルを介したストックオプションとか株主優待ということですね。
草野
まさにそうです。NFTによってデジタルアイテムが流通できるようになった今、未来のコマースを考えると、すべてのプロダクトに流動性が加わり、シェアリングエコノミー化するんじゃないかなと思っています。
今のZ世代は、洋服のタグを取っておいてメルカリで売れるようにしている。私の息子も、ポケモンカードの相場を常にチェックしている。そういうことがすべてのデジタルアセットに対して行われるようになるのではと考えています。
川田
AR三兄弟としては、ARに関するガジェットが一般化してくる中で、例えばワッペンがNFTでもいいと思うんですよ。服にワッペンをただつけているけれど、現実の価値とは別に、NFTとしての価値もある。
デジタルの価値も織り込まれていて持ち歩ける。そういうひとつのレイヤーができていくというのが、未来のコマースだと思います。
草野
そうですね。あとはIP(知的財産)に対する考え方も変わってくるかもしれません。みんなが自分だけのキャラクターを持っていたり、そのキャラクターからプロダクトを作って商売を始めたり。
ゼロから資金を集められて、そのコミュニティで物語を作っていくという制作手法が一般化していくんじゃないかなと思いますね。
◆エンターテインメント×テクノロジー
エンターテックの革新
エンターテインメントとテクノロジーを掛けあわせた言葉「エンターテック」。その発案者であるParadeAll株式会社代表取締役の鈴木貴歩氏に、テクノロジーの発展がもたらすエンタメ分野の進化についてうかがった。
◆エンタメ表現とビジネスモデルの民主化
最先端テクノロジーが生む
次世代のクリエイター
「エンターテインメントとテクノロジーのより幸せな結びつきを推進するキーワードになればと、2016年に造語『エンターテック』を発表しました」
エンターテック・コンサルタントである鈴木貴歩氏は、エンターテインメント、特に音楽は、テクノロジーによって変化を余儀なくされてきたと話す。
「当時、最先端のテクノロジーだった蓄音機がやがてCDになり、その後、プロデューサーチームの活躍で小室ファミリーのような多くのアーティストグループが生まれました。最近ではYouTubeやTikTokといったインターネット発の新しいスターが出てきています。新たなテクノロジーやプラットフォームで活躍したアーティストが次世代のアーティストになる。そういう意味で、次にWeb3やNFT、メタバースという領域が来ると考えています」
超高速、超低遅延、超多接続が特徴であるモバイル通信ネットワーク、5G時代の到来もエンターテックの革新を後押ししているという。
「サッカーW杯の配信を成功させたAbemaTVやモバイルオンラインゲームなど、高速かつ低遅延によるリアルタイム性と、多接続を生かしたサービスが大きく成長しています。その延長線上にメタバースのようなネットワーク上の3D空間があります。データ的に重い空間ですが、そこにリアルタイムに人が集まり、没入感の高い体験やコミュニケーションを楽しむ、というようなことが今まさに生まれ始めているのです」
テクノロジーの中でも、とりわけAIの躍進によるエンタメ分野の変化には目を見張るものがある。その例として、AI音声合成やAI作曲が挙げられる。
「初音ミクに関しては、その音声合成ソフトとアーティスト自体の存在について、欧米の音楽業界人も新たなエンタメの形としてリスペクトを抱いています」
「AI作曲ソフトを使うのも徐々に当たり前になってきていると感じています。変わったところでは、AIで楽曲のヒットを予測し、ブレイク前のアーティストに契約金を払ってその後の利益をシェアするといった、AIレーベルともいえる機能を提供するスタートアップも出てきています」
これほどクリエイティブなことができてしまうと、近い将来、AIはクリエイターの仕事を奪うのではないか。しかし、鈴木氏は次のように語る。
「『製作』と『創作』に分けて考えてみましょう。前者は、音声合成や作曲も含めて、AIが簡単かつ早く終わらせる、ある種の共同作業者になってくれるという実感があります。後者については、世間ではイラスト自動生成AIに人間が取って代わられるのではといわれていますが、それを楽しむ、消費するのは結局、人間ですから、AIは創作者にインスピレーションを与えるような存在になるのではないでしょうか」
「そういったクリエイターとAIのコラボレーションで、今後、音楽や映像などの新しいジャンルやスタイルが多く生まれてくると予測しています。
一方、AI自体が人気のクリエイターになることもあり得るでしょう。ただ、そのプロモーションやマーケティングは、やはり人間が担うところです」
今後、テクノロジーの進化によってエンタメはどう変わっていくだろうか。
「音楽や動画の制作ソフトが安価になり、表現する人の裾野が広がって、エンタメ表現の民主化がさらに進んでいくでしょう。音楽や映像、デジタル空間、デジタルファッションといったものを総合プロデュースするような、私の想像を軽々と超えるクリエイターが現れると思っています」
「同時に、Web3やNFT、メタバースの出現によってビジネスモデルの民主化も進み、売り方や表現の仕方をクリエイターが自ら決められるようになるでしょう。今までになかった活躍の仕方やマネタイズをするクリエイターがどんどん出てくるのではと期待しています」
〈イノベーションジャパン・前編〉Web3がもたらす新たな未来価値 はコチラ
※掲載の情報は2023年2月1日現在のものとなります。
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