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〈美意識を紡ぐ旅・京都で出逢う豊かな伝統文化・後編〉世界が振り向く伝統工芸

西陣織という伝統にイノベーションを起こし、世界のトップブランドを魅了するテキスタイルへと発展させた老舗「細尾」の若き後継者、細尾真孝氏。はたして細尾氏は、どのようにして日本の美意識を海外へ知らしめたのだろうか。

※この記事は後編です。前編はコチラ

Text:Natsuko Sugawara


細尾 真孝(ほそお まさたか)株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。12年、「GO ON」を結成。19年、ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。20年、「The New York Times」にて特集。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD 「ネクストリーダー2019」選出。著書に『日本の美意識で世界初に挑む』(ダイヤモンド社)。

伝統産業を
クリエイティブ産業に

創業300年以上という西陣織の老舗「細尾」。その12代目として伝統を受け継ぐのが細尾真孝氏だ。京文化に囲まれて育った細尾氏だが、当初は家業に興味がなく、伝統工芸とは全く異なる音楽やファッションの分野で働いていた。そんな細尾氏の心を変えたのが、海外進出への試みだ。

「着物を着る人も、着る機会も減って、国内の需要が先細るなか、先代の父が試験的に海外展開しようとしたんです。それを聞いて僕も手伝いたいと思いました。今まで保守的に見えた伝統産業もやり方次第でクリエイティブ産業に変えられるかもしれない。伝統工芸と海外、これはおもしろいなと」

しかし、それは簡単なことではなかった。パリのメゾン・エ・オブジェを皮切りにニューヨークやミラノ、フランクフルトなど世界規模の見本市へ出展するが、ことごとく結果が出ない。そんな状況が続くなか、パリで行われる日仏交流150周年を記念した展覧会への出品依頼があった。

「『日本の感性』がテーマで、工芸以外に任天堂のゲーム機やチームラボのアニメーションなどもありました。ビジネスではなく、ただ単に多くの人に西陣織を見てほしいという想いで伝統的な琳派の帯を2本出品したんです」

ところが、この出品が成功への足掛かりとなる。2本の帯がニューヨークの著名な建築家、ピーター・マリノ氏の目に留まり、西陣織をテキスタイルとして開発してほしいと依頼された。ディオールの店舗の内装に使うためだ。

「マリノ氏の依頼は重要な気づきを与えてくれました。まず、テキスタイルという依頼。僕はソファやクッションなどに製品化しないと海外展開できないと思っていた。でも彼が注目したのは西陣織の素材としての価値でした。もうひとつ、彼から届いたデザインは、和柄ではなくモダンなパターンだった。これも、『和柄でなくては差別化できない』という固定観念を覆してくれた」

その後、テキスタイルとして提供すべく150㎝幅用の織機を開発する。

「従来の西陣織の生地幅は32㎝。それでは内装に使えないので、新たに150㎝幅が織れる織機を制作しました。難しい挑戦でしたが、ここを越えれば成功するという直感が働いた。1台の織機からスタートして、今では14台、職人も3人から15 人に増え、20代〜30代の若手が中心になっています」

西陣織に宿る
美意識と革新の精神

現在は高級ブランドや5つ星ホテルにも採用され、アーティストとのコラボレーションも行うなど新たな境地を切り拓いている。その一方、脈々と受け継がれるものづくりへの信念は一貫して変わらない。細尾氏は、西陣織の根幹を成すものとして「美」「協業」「革新」の3つを挙げる。

「最も大切にしているのは美へのこだわりです。西陣織の起源は平安時代に遡りますが、その頃の顧客は天皇や貴族といった人たち。合理性や効率を度外視して美を追求してきたところに西陣織の強みがある。また、その美意識を支えるのが職人たちの協業です。西陣織の制作工程は細かく分かれていて、それぞれに卓越した技術をもつ職人がいる。その連携プレーがあってこそ、美が成り立ちます」

そして、革新は今に始まったことではなく昔から繰り返されていた。時代の変化のなかで変わり続けること。ひいては、それが伝統を守ることに繋がるのではないか、と細尾氏は考える。

「京都にはほかにも多くの伝統工芸があって、その同世代の後継者6人で『GO ON』というプロジェクトチームを結成しました。茶筒や木桶、茶碗など分野はさまざまですが、共通するのは伝統に革新を起こそうという気概と精神。前例のないことをやって固定観念を壊すことで、伝統産業を活性化していきたいと思っています」

◆テキスタイルブランド「HOSOO」が展開する新たな西陣織

ラグジュアリーなホテル空間に
京都の趣を醸す

©︎Hosoo Co.,Ltd.

フォーシーズンズホテル京都では客室のほか、館内随所に自社ブランド「HOSOO」が独自に開発したテキスタイルを使用。
日本の文化をふんだんに取り入れ、古都の趣を表現している。

店舗の壁紙として映える
モダンなオリジナルデザイン

©︎Hosoo Co.,Ltd.

2017年にオープンしたMIKIMOTO 銀座4丁目本店のブライダルサロンやフロアの壁紙として使われる「HOSOO」のテキスタイル。
真珠を育む海の泡や波をイメージしたオリジナルデザインが美しい。

伝統工芸の美意識が詰まった
「HOSOO」の旗艦店

©︎Hosoo Co.,Ltd.

伝統工芸の魅力を世界に発信する「HOSOO」の国内唯一の旗艦店「HOSOO FLAGSHIP STORE」。
1階は「HOSOO」のホームコレクションがオーダーできるリテールストアとなっている。


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※掲載の情報は2023年8月1日現在のものとなります。


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