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〈世界のなでしこ・女子サッカーのスタイルと文化・後編〉世界で輝く「個」の力

2011年、なでしこジャパンがFIFA女子ワールドカップで優勝に輝いたとき日本中が歓喜に沸いた。あれから12年。

2023年7月22日、なでしこジャパンはワールドカップの舞台で再び世界の強豪国と対戦する。優勝奪還を狙う日本はいかなる戦いを見せてくれるのか。

前後編の2回に分け、日本女子サッカーについて改めて見つめる。

後編では、世界で活躍する選手となでしこジャパン監督が、世界を見据える日本女子サッカーを語る。

※この記事は後編です。前編はコチラ

Text:Junko Hayashida
写真:JFA


◆世界で輝く「個」の力
 ~長谷川 唯選手~

移籍して3年、イングランドの女子サッカーの隆盛を現地で感じてきた長谷川唯選手。

現在、ビッグクラブで活躍する彼女から見た日本女子サッカーの現在地、ワールドカップで再び世界一を奪還するために、日本が誇るべき強みなどを語ってもらった。

長谷川 唯 (はせがわ ゆい)マンチェスター・シティWFC
1997年生まれ。小学校入学を機に、サッカーを始める。2009年、日テレ・東京ヴェルディベレーザの下部組織、日テレ・メニーナに入団。13年ベレーザの公式戦に初出場、21年イタリアのACミラン、イングランドのウェストハム・ユナイテッドFCウィメンを経て、22年よりマンチェスター・シティWFCに所属。2017 年に日本代表初出場を果たし、19年FIFA女子ワールドカップなど、数々の国際試合に出場。

男子とは違う女子サッカーの
魅力をワールドカップで伝えたい

2022年のUEFA EURO(欧州サッカー連盟主催のナショナルチームによる大陸選手権大会)でイングランド代表が優勝したこともあり、同国の女子サッカーは急速に人気を高めている。

今ではビッグマッチともなれば、観客動員数が5万人を超えることもある。

「移籍した2021年はリーグがちょうど盛りあがり始めた時期でしたが、当時から設備、スタッフの人数などは日本よりも環境が良いと感じました」

最近は女子チームの強化に多額の予算を投入するクラブも少なくない。

「ただ、観客数が増えていない現状の日本で、単純に投資をしたら人気が出るというわけでもないでしょう。理想は選手たちがパフォーマンスをあげ、環境も少しずつ良くしていく。両方が共にあがることによって、観客数や認知度があがっていくのではないかと考えています」

ヨーロッパの男子サッカーでは、クラブに情熱的な愛情を注ぐサポーターも多い。それゆえ、地元クラブの熱心なサポーターが同クラブの女子チームも応援するかと思いきや、現状は少し違う。

「もちろん男子も女子も応援してくださる方もいますが、女子のサッカー自体に魅力を感じ、応援してくれる人が多い。男子と比較されることも多いですが、女子ならではのおもしろさがあるということ。ワールドカップでは普段サッカーを見ない方々にもこうした女子サッカーの魅力を伝えたい」

では、日々強豪と戦う長谷川選手にとって、日本の女子サッカーはどう見えているのか。

「よく海外選手とはスピード感が違うと言われますが、プレーの質や戦術に関しては日本人が長けていると思います。例えば、イングランドサッカーはスピードはありますが、もう少し冷静にプレーをすることを大切にしたほうがいいときもある」

「実際、私も落ち着いたプレーがチームに評価される強みとなっています。自分で考えてプレーをできるところ、味方をうまく使えるところ、献身的にハードワークができるところ、そして個とチームとのバランスの良さが日本の強みです」

日本で8年プレーをした長谷川選手。海外でしかできない経験もあるが、日本でしかできないことも多いと語る。

「特に最近の若い子は、身体能力が高く、スピードでも外国人選手に負けないような選手も多い。日本で自分のプレーを確立してから海外に出ることで、世界で輝くハイブリッドな強さを手に入れられるのではないかと思っています」


◆世界で輝く「個」の力
 ~熊谷 紗希選手~

長くヨーロッパでプレーをし、これまで多くの外国人選手としのぎを削ってきた熊谷紗希選手。

彼女はワールドカップを目前にヨーロッパと日本の女子サッカーをどのように見ているのか。

熊谷 紗希(くまがい さき)ASローマ
1990年生まれ。小学生よりサッカーを始め、2009年浦和レッドダイヤモンズ・レディースに加入。11 年、FIFAワールドカップドイツ大会の決勝ではPKで決勝点を決め、優勝に貢献。17年よりなでしこジャパンのキャプテンを務める。2011年ドイツの1.FFCフランクフルトに加入、13年にはフランスのオリンピック・リヨンに移籍。21年FCバイエルン・ミュンヘンに加入。来季からはイタリアのASローマでプレーする。

世界と戦うために
ときには大胆さが必要となる

2011年にドイツに移籍し、熊谷紗希選手のヨーロッパ生活は12年に。この間、熊谷選手はヨーロッパにおける女子サッカーの成長を肌で感じていた。近年、ヨーロッパでは男子のビッグクラブが女子チームを有することがステイタスのひとつとなっている。

またUEFA(欧州サッカー連盟)は22年、欧州女子サッカーのビジネスレポートを発表。今後10年で欧州における女子サッカーの商業的価値は6倍、ファン数は3億2800万人に増加すると予想。

「10年前はテレビ中継など全くありませんでしたが、今ではほぼ全試合放送されていますし、観客動員数も増えました。また、以前は10対0など、国やクラブによって力の差も大きかったのですが、ビッグクラブはどこが勝ってもおかしくないほどレベルがあがっています」

23年のFIFA女子ワールドカップメンバーに選出されたなでしこジャパン選手で、現在ヨーロッパのクラブに在籍する選手は7人。

だが、熊谷選手はかねてよりもっと多くの選手が海外でプレーをしたほうがいいと説いてきた。

「それは、日本よりも海外のほうが個で戦う力を求められるからです。日本も決して個の力をないがしろにしているわけではありませんが、戦術があって、チームで戦うという色が強いように感じます。ただし、個の力があがれば、必然的に全体のレベルアップに繋がります」

世界と日本では何が違うのか。そう尋ねると熊谷選手は「大胆さ」と答えた。

「日本人はどちらかというとミスをしない、ボールを失わないプレーを選択しますが、外国人選手はチャンスがあるならシュートを打つ。闇雲にシュートを打てというわけではありませんが、打たないと点は取れないし、無茶なシュートと思っていても決まることもある」

「また、ディフェンスとしてはどのタイミングで打つかわからない相手と対峙するのはとても怖いんです。海外で普段からこういう相手と試合をすると読みの引き出しがすごく広がりますし、そこでの学びを日本代表では還元していけたらと考えています」

キャプテンとして迎える2度目のワールドカップ。チームをまとめる役割も熊谷選手は担っている。

「年齢などは関係なく意見を言い合って、良い意味でぶつかり合えるチームづくりを意識しています。そして自分がやりたいことではなく、すべきことに自分の力の全てを出し尽くす。個の力を輝かせるためにはそれが一番大事だと思います」


◆世界で輝く「個」の力
 ~池田 太監督~

日本女子プロサッカーが発足してから初めて迎えるワールドカップ。日本代表に選出されたのは海外組9人、WEリーガー14人。

キャリアも環境も違う23人を率いる指揮官は、個々の力をいかにまとめ、世界の強豪との熾烈な戦いに挑もうとしている。

池田 太(いけだ ふとし)
なでしこジャパン(日本女子代表)監督

1970年生まれ。武南高等学校、青山学院大学を経て、93年浦和レッドダイヤモンズへ入団。センターバック、左サイドバックとしてプレーする。96年現役引退。97年より浦和レッドダイヤモンズのユースチームのコーチ。2002年同クラブのトップチームのコーチ、12年アビスパ福岡のヘッドコーチを歴任する。17年にはU-19日本女子代表監督に就任、21年よりなでしこジャパンの監督を務める。

個性や経験の多様性が
日本の結束を強くする

日頃から顔を合わせているクラブチームとは違い、代表チームは国際試合に合わせてスポットで選手が招集されるため、いかに短期間でチームをまとめあげるかという難しさがある。

特に近年は海外でプレーする選手も増え、チームマネジメントの重要性は高まっている。

「ただ、僕は色々な経験を積んだ選手が集まることが強みになると捉えています。海外組は外国人選手との戦いに慣れていて経験値も高いので、それを還元してくれるでしょう。WEリーガーにはワールドカップのピッチに立てたことに誇りを持って、アイデアや忌憚のない意見を発信してくれることを期待します」

「ただ、そのためには選手たちの意見を受け止められるチームであることが大切です。安心して発言できる環境が整っているからこそ、建設的な意見が出るものだと考えています」

受け止めるだけでなく、「自分のタイミングで言わない」ことも、池田氏のチームづくりの柱になっている。

「伝えたいことをバンッと伝えても、選手に受け取る余裕がなければ伝わりません。言いたいことはあっても、話しているうちに今じゃないと思ったら言わない。そもそも選手たちは強いなでしこジャパンをめざすという志を持って集まっていますから、無闇に指示する必要はないと考えています」

「とはいえ、これまではワールドカップで代表入りしたい、ピッチに立ちたいなど、選手によって想いはさまざまでした。それがワールドカップのメンバーが決まったことで、今回は全員が勝つことにフォーカスする。そのときにチームに生まれる一体感を僕も楽しみにしています」

近年、世界の女子サッカーのレベルは凄まじい進歩を遂げている。体格やスピードにハンデのある日本人選手はいかに世界と戦うべきなのか。

「もちろん個の力で勝つということも譲れない部分ではありますが、加えて日本人選手の献身性や柔軟な対応力は、世界と戦ううえでの強みだと思っています」

もうひとつ大切なことはチャレンジをし続けることだという。

「試合では失点もあるし、1対1でやられることもある。でも、それを跳ね返すメンタリティを持って、諦めずに挑戦していくこと。それを繰り返すうちに、少しの運を引き寄せることができる」

「少しやられることは大したことではないのだから、積極的な姿勢を見せていきたいですね」

〈世界のなでしこ・女子サッカーのスタイルと文化・前編〉世界で活躍する「なでしこ」になるために はコチラ


※掲載の情報は2023年7月1日現在のものとなります。


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