見出し画像

意思決定を左右するメディアとの付き合い方~ 不確実・非連続時代のメディア論~

プロアマ問わず多くの人が自身の作品を自由に発表し、個がメディアとしてあらゆる情報を発信する時代。

それゆえに受け取る側の「情報を選ぶ力」も試される。ビジネスと学びの映像コンテンツを発信する

PIVOT株式会社 代表取締役社長 / CEO の佐々木紀彦氏に、
不確実・非連続時代における情報収集・取捨選択のコツについてうかがう。

Text:Fumiko Teshiba, Natsuko Sugawara
Photograph:Keisuke Nakamura


PIVOT株式会社
代表取締役社長 / CEO
佐々木 紀彦(ささき のりひこ)

「東洋経済オンライン」編集長を経て、NewsPicksの初代編集長に。
動画プロデュースを手がけるNewsPicksStudiosの初代CEOも務める。
スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。
『米国製エリートは本当にすごいのか?』(東洋経済新報社)、『日本3.0 2020年の人生戦略』(幻冬舎)、『起業のすすめ さよなら、サラリーマン』(文藝春秋)など著書多数。


極論に惑わされず
良質な情報を得るバランスと知力

性質の異なるメディアとどう向き合うか

紙からデジタルへ。活字から動画へ。
メディアの中心は、予想以上のスピードで移り変わっている。
YouTubeの普及、コロナ禍を経て、とうとう動画の時代になったのではないか。活字から動画まで、メディアの第一線で活躍し続けるPIVOT株式会社の佐々木紀彦氏はそう分析する。

「ビジネスの分野では当分の間、活字の時代が続くと予想していたのですが、これから10年、20年は動画が主流になるでしょう」

東洋経済オンラインの編集長時代は、紙からデジタルへと移行する時代。
佐々木氏は、限られた紙面では掲載できない取材対応者の意見を余さず紹介するなど、独自のコンテンツ作りでPV数を伸ばした。

「紙とオンラインは媒体としての性質が違うので、置き換えるだけではなかなか成功しません。
その時代の旬のプラットフォームに合わせて作り方を変えることが大切で、テレビからYouTubeへの変換も同様です」

文字数や時間が決まっているメディアには情報が凝縮されている。集中して短時間で要点を掴めるという点においては強い。
しかし、完全版を求める人にとっては物足りない。

オンラインやYouTubeは制限がないだけに、長く無駄な要素も多い。一方、カットされるところが少ないのでより深く知ることができる。
それぞれのメリットを使い分ける必要がある、と話す。
紙メディアのDX(※1)成功例のひとつに、『ニューヨーク・タイムズ』を挙げる。

「デジタルファーストを掲げ、読者をデジタルに慣れさせていった功績は大きいでしょう。日本の場合は紙を中心にしたために、デジタルシフトが遅れてしまった。
編集者や記者一人ひとりでの対応のみならず、経営者が旗を振って、会社がサポートする体制がなければ難しいでしょう」

自身が初代編集長を務めたソーシャル経済メディア『NewsPicks』では、活字だけに捉われず映像や会員制教育といった多角的なコンテンツとサービスを発信。
求められているものは何か、時代を見ながら会社に提案していったという。
その後、新たに立ちあげた『PIVOT』で、あまり好きではなかったYouTubeを主軸にビジネス動画を展開するのもその経験からだ。

「ほかの商売と同じだと思うんです。一番売れる店舗で売る。
今一番人に刺さる、伝わる場所に柔軟にシフトしていく、ただそれだけですね」

※1 DX=デジタルトランスフォーメーション。デジタル技術の活用によって
業務やビジネスモデルそのものを変革し、企業価値を高める取り組み。

デジタル化に成功した『ニューヨーク・タイムズ』。
電子版の購読者は現在1000万 人を突破している。

ガラパゴス産業から脱却するとき

佐々木氏が、日本が唯一、世界に通用する一大産業として成功を収めたと評価するのは漫画とキャラクターだ。その一方で、テレビは苦戦を強いられている。
話題の作品を次々と生み出すNetflixやAmazon Prime Videoに、地上波が押されている現状をどう見ているのだろうか。

「ほかの業界ではすでに起きていたことですよね。
スポーツだとさらに明確で、海外を見て世界との差を埋めようとしてきました。映像で言うと、グローバルプレイヤーは制作費が圧倒的に違いますし、役者主義ではなく脚本主義。

しかし日本も学び始めていて、例えばNHKの『3000万』というドラマは、複数の脚本家がチームで執筆する形をとっています。ガラパゴス化から少しずつ抜け出そうとしているのではないでしょうか。
日本のクリエイターは優秀なので、予算や場を与えられれば花開く才能があるということは証明されていると思います」

3局+1を意識して情報を配分する

動画やSNSでの極論が拡散する傾向にあるなか、バランスの取れた意見に触れるのが難しくなっていると危惧する。だからこそ、3つの局面から情報を得ることを提言する。

「食事にたとえると、ジャンクフードや味の濃いものが流行って、栄養バランスのいい幕の内弁当を食べる機会が減っている。
この幕の内弁当を作っているのはマスメディアだと思うんです。しっかりとした裏付けを持った日本の伝統的なメディアは、まず1つめの情報として入れておくべきです」

さらに、英語で情報を得られるかどうかで劇的に差がつくと続ける。

「英語圏にある情報と日本語圏にある情報には大きな差があります。
2つめとして、英語の情報にアクセスできるかどうかで、ビジネスパーソンとしての力はまったく違ってくると思います。

英語が苦手な人もいるかもしれませんが、翻訳ツールも発達しています。
アメリカの『ニューヨーク・タイムズ』や『ウォール・ストリート・ジャーナル』、イギリスの『フィナンシャル・タイムズ』や『エコノミスト』などはもちろん、専門家同士の対話や討論が充実しているPodcastもおすすめです」

3つめが、自分の好きなSNSや動画、本などだ。

「日本の話題の中心、世界の話題の中心、信頼する人が発信していること。
この3つの配分がうまくできると、バランスが崩れないと思うんですね。
ひとつの視点だけだと、偏った意見が世の中の中心だと錯覚してしまう。特にYouTubeは洗脳力が強く、アルゴリズムで似たような動画が並ぶため、現実が歪曲していく可能性があります」

そのうえで、人から直接受け取る情報を加える。

「やはり現場はメディアの情報よりも進んでいるので、『この人の意見は鋭いな』と思う人たちと話しながら情報を得ていく。
日本の場合は特に会社が強いだけに、閉じられた中でコミュニケーションを取っている人が非常に多いと感じています。世の中や世界はこんなに動いているのに、村社会だけの情報がすべてだとする傾向があります。
これも、ある意味洗脳なんですよね。世代も偏りがちです。
同世代に留まらず、さまざまな世代と付き合いがあるほうがいいかもしれません」

基礎知力のために活字を読み続ける


メディアから情報を収集しても、基礎となる知識がなければ自分のものにはできない。

「本を読んでいるかどうかは、動画の時代になったとしても決定的に重要だと思います。
動画の問題点は、雰囲気に流されること。理性よりも感情が優先されるメディアなので、たとえ嘘を言っていても、外見や声に惑わされて何となく信じてしまう。
動画優位の時代だからこそ、活字を読み続けている人のほうがブレのない意思決定ができるという傾向も、よりはっきりしてくるのではと思います。
こどもにとっても、YouTube中毒やTikTok中毒は絶対に良くないですよね。学校や家庭でも、本をどう楽しませるか考えていかなければ」

TikTokを筆頭に、ショート動画に感化される若者は多いが、あくまでもCM的な存在と捉えて、それだけで完結せず思考力を高めることに時間を使うべきだと提唱する。

洗脳性、中毒性があると認識しているからこそ、PIVOTにおけるYouTubeは「学び」に特化している。

「YouTube自体は悪いものではなく、世界最大の動画のお店だと思っているんです。何でもあるけれども、品ぞろえがまだ十分じゃない。
特にビジネス領域は少なく、過激なことを言うほうが盛りあがるという土壌がある。そこに信頼できる学びのコンテンツを出していきたいのです」

勉強に投資してみよう、マネジメントに活かしてみよう、子育てに応用してみようなど、「知恵と勇気」を視聴者に届けるコンテンツ作りにこだわる。
紙からオンラインへとシフトした頃のように、実践と失敗の日々だ。

「実はYouTubeは、最初の30分くらいでウケるかどうか把握できるんです。1日3本ほどの動画を投稿しているので、1年で1000回はPDCA(※2)を回していることになります。
毎日トレーニングをしている感覚ですね。視聴者からの反響、数字を見ながら随時アップデートしていく。その頻度が多いのがPIVOTの最大の強みなのかもしれません」

※2 PDCA(Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)のプロセスを繰り返し、生産管理や品質管理などの管理業務を継続的に改善していく手法。

佐々木氏おすすめの
今、押さえておくべきメディア

活字、映像、音声と、それぞれの特性を活かした佐々木氏おすすめのメディアを紹介。
これらを押さえておけば、刻々と変わりゆく"今"という時代が見えてくる。

🔵BOOK

国家はなぜ衰退するのか
権力・繁栄・貧困の起源(上・下巻)

ノーベル賞を受賞したダロン・アセモグル教授による国家論。
日本の未来を考えるヒントが満載

著者のひとりは、2024年ノーベル経済学賞を受賞したマサチューセッツ工科大学教授のダロン・アセモグル氏。
ローマ帝国はなぜ滅びたのか? 共産主義が行き詰まりソ連が崩壊したのはなぜか? なぜ世界には豊かな国と貧しい国が生まれるのか––––歴史における最大の疑問を明快に解きつつ、新たな国家論を示す必読の書。

ーーーーー

著者:ダロン・アセモグル&ジェイムズ・A・ロビンソン
訳者:鬼澤 忍
出版:早川書房
価格:上・下巻ともに1,540円(税込)

🔵BOOK

ホワイトカラー消滅
私たちは働き方をどう変えるべきか

今後の仕事の中心がホワイトカラーから
アドバンスト現場人材に変わることがよくわかる

深刻な人手不足とデジタル化による加速度的な人余りが同時進行する日本。
ホワイトカラーの仕事が生成AIなどによって取って代わられるなか、われわれはビジネスの現場でどう生き残っていくのか。
企業再生支援の第一人者である著者が新しいホワイトカラー像を示すとともに、国、組織、個人のレベルでの抜本的再生を提言する。

ーーーーー

著者:冨山和彦
出版:NHK 出版
価格:1,133円(税込)

🔵YouTube

The Circuit with Emily Chang

ブルームバーグの著名アンカーがザッカーバーグなどの
大物経営者にロングインタビュー

ブルームバーグでアンカーを務めるジャーナリスト、エミリー・チャンによるYouTube番組。
ザッカーバーグ、イーロン・マスクといったアメリカを代表する企業の経営者のほか、レイオフされた元従業員などにもインタビュー。さまざまな角度からアメリカ経済を俯瞰し、世界的なビジネスのトレンドをあぶり出す。


🔵YouTube

起業チャレンジ!覆面ビリオネア

大富豪の起業家が正体を隠して見知らぬ町で起業にチャレンジ。
人生物語としても秀逸


🔵Podcast

The Daily

アメリカを軸とした注目テーマを30分程度で深掘り。
ニューヨーク・タイムズ記者の視点が参考になる

いち早くデジタル化に成功したニューヨーク・タイムズが提供するPodcast 番組。アメリカはもとより、国境を越えて多くの視聴者を抱える。
国内の話題ほか国際情勢にも鋭く反応し、世界的なニュースを掘り下げて根本からわかりやすく解説。
1回の短い時間に、老舗メディアならではのジャーナリズムが詰め込まれている。


🔵Podcast

FT News Briefing

世界の経済ニュースを約10分間で解説。
世界のホットな話題をざっくり知るのに最適


佐々木氏プロデュース
ビジネス映像メディア「PIVOT」

2021年に佐々木氏が立ちあげた「ビジネス」と「学び」に特化した映像メディア「PIVOT」。
時代を先どる新進気鋭のメディアに触れ、自己の成長へとつなげたい。

選りすぐりのコンテンツを通じて
ビジネスパーソンを支援する

PIVOTがめざすのは「大人がいきいきと学び続けて、自分と時代に合った仕事に挑むこと」ができる社会。
それを実現すべく、YouTube や専用アプリといった時代にフィットした手段で、深く学びながらも実用性の高い情報を得られるビジネスコンテンツを提供している。


‐‐‐‐‐

〈番外編〉
 本とPodcast の活⽤術

著書『起業のすすめ さよなら、サラリーマン』で、起業における失敗法則を紹介している佐々⽊さん。

「成功は難しくても、みな失敗は同じようにしている。
⽇本では恥ずかしいこととされあまりシェアされませんが、失敗を共有して進化していくために、ぜひ参考にしていただければと思います。
40代の起業が⼀番成功しやすいと書いていますが、若い⼈だけでなく、これから社会経験を積んだ起業家もどんどん増えてくることを期待しています


新著も待たれるところですが、ご⾃⾝は忙しくてその時間はないそう。
代わりに、PIVOTでマネジメント、マーケティング、キャリアといったビジネスジャンルから、教育、テクノロジー、オタクを公⾔するサッカーまで、幅広いテーマで語っていらっしゃいます。

「どうしてもしゃべっちゃいますよね。
でも⼿を動かしたほうが絶対に頭の中はまとまりますし、⾎⾁にもなるので書いたほうがいいとは思っています。思考の体⼒がどんどんなくなっていくような気がして。
やっぱり話し⾔葉っていい加減なんですよ。論理⽴っていなくても、流れが良ければいいことを話しているように聞こえるもの。
動画ばかり作っていますが、⾃分で動画を観るかと⾔われればそれほど観ません。それよりも、本を読む時間を⼤切にしています」


また、Podcastも愛聴。歩くときに聴いているのは、⼤抵⾳楽か英語のPodcastだそう。

「英語⼒が完璧なわけではないので聴き取れないこともよくあるのですが、⾳声のために作られたコンテンツなので、話のうまい⼈たちが30 分くらいで要点を話してくれている。
ミーティングでプレゼンを聴いているような感覚です。もしくは、カフェでやっているトークショーを覗き⾒しているような楽しさがありますね。
効率的に情報をインプットするのに活⽤しています」


※インタビューの情報は2024年11月1日現在のものとなります。


🎧インタビュー記事を音声でCHECK!
     通勤中、お仕事中など「ながら聴き」がオススメ!ぜひお聴きください!

Podcast 「THIS IS US Powered by SAISON CARD」にてインタビュー配信!

佐々木紀彦さんのお話を、音声でお聴きいただけます。
インタビューは、下記をタップ!!


👇こちらの記事もおすすめ!