顧客満足主義の信念から生まれる新たなビジネスの未来像
今や日本を代表する文化である「まんが」。そこに目をつけ、クレディセゾンでは革新的なサービス「まんがセゾン」を立ちあげた。
共同で手掛けたメディアドゥ代表取締役社長 CEO 藤田恭嗣氏と、クレディセゾン常務執行役員/セゾンAMEX事業部長 足利駿二氏にその経緯を語っていただき、顧客サービスのあり方やデジタルコンテンツの未来を探る。
Text:Ryoichi Shimizu
Photograph:Keisuke Nakamura
25年の節目で生み出した
オープンイノベーション「まんがセゾン」
デジタルコンテンツを世に広めた
メディアドゥとの出合い
——「セゾン・アメリカン・エキスプレス・カード」の誕生から25 年、顧客満足主義を第一に掲げサービスを展開してきた歴史に、新たな一歩が加わった。
社内若手の活気ある声から、まんがコンテンツにスポットライトが当たり、電子書籍サービス「まんがセゾン」がスタートしたのだ。
今回は電子書籍に代表されるデジタルコンテンツを世に広め、上記サービスでコラボレーションを行ったメディアドゥ代表取締役社長CEO藤田恭嗣氏を迎え、クレディセゾン常務執行役員/セゾンAMEX事業部長 足利駿二氏とともに、まずは「まんがセゾン」サービス誕生の経緯について語っていただいた。
足利
そもそも「まんがセゾン」のサービスは、社内で若手社員が新サービスについて議論するうちに発案されたものでした。まんがを含む電子書籍サービスを展開することで差別化を図りたいという声が高まったのです。
たしかにまんがというものは、日本が世界に誇るカルチャーのひとつですし、若手の熱い志を聞いているうちに、私自身もすっかり感化されてしまいました。
その結果、私は情報交流会で出会うさまざまな企業の社長に、「まんがのサービスを始めたい」と言って回ったのです。それがきっかけで、日本で電子書籍などのデジタルコンテンツを世に広めたメディアドゥのCEO藤田さんと出会うことになりました。
その理由は、こうした革新的なサービスは、社内だけでまかなえるものではないと、思ったからです。私たちの力では限界がある。サービスを完成させるためのオープンイノベーションを求めて、変革者の視座がある方と組む必要があると感じたのです。
藤田さんは大学在学中から携帯電話事業を起業し、音楽配信も含む電子書籍などのデジタルコンテンツを世に広めた方です。トーハンや日販のような出版取次のようなかたちで、電子取次という新たな事業に進出し、電子書籍の隆盛を確実に後押ししたその功績は計り知れません。メディアドゥの存在なくして現在の電子書籍ブームはあり得なかったと言っていいでしょう。つまり、手を組む変革者として藤田さんは、理想的だったのです。
ただ実際に直接お話しさせていただいたのはそんなに以前の話ではなく、今年の3月、オンラインミーティングという場でしたね。
藤田
そのときは私も、足利さんにイノベーターの印象をもちました。大きな企業体の中で、新たなサービスを開始しようとする。言葉にするのはたやすいですが、実際にアクションを起こすのは大変なことですから。
そして実際にコラボレートしてみて驚いたのは、その段取りの早さです。巨大事業グループの中でコンセンサスを素早くとることは難しいものですが、とにかく早かった。
新規事業を成功させるには、内容も当然大切ですが、誰と行うかが成否を決めるものです。その点で理想的な連携だと感じました。何しろ実際のサービス構築までにかかった時間はわずか4ヵ月。異常なまでのスピードでローンチにこぎ着けたのです。いままで手掛けた事業の中でも、異例の早さでしたね。
25年を経たもの同士ならではの
連帯感
——セゾン・アメリカン・エキスプレス・カードの誕生から25年の月日が経ち、現在ではグローバルでトップレベルの規模をもつまでに成長した。
足利
遡れば1997年、アメリカン・エキスプレスが単体事業だけでなく、金融機関などに事業を開放したことが日本での躍進の発端でした。
私は2011年より、AMEXカード事業部を担当しているのですが、そこでキャリアを紡ぎながら考えたのは、どれだけ先人のバトンをきれいに磨いて、後の世代に渡すことができるかということです。
顧客をどれだけ大切にし続け、顧客自身に「大切にしてもらえている」と感じてもらえるのか。それがアメリカン・エキスプレスのアイデンティティです。
その想いはもちろん、セゾンAMEXにも受け継がれています。そこで大切なのが、顧客の期待を超えることです。カード会員様のよろこぶサービスを生み出し続けることで、顧客はワクワクし、セゾンAMEXカードを通じて、「大切にしてもらえている」と感じると思うからです。
——メディアドゥもまた、昨年設立25周年を迎えた。当初は携帯電話事業での起業だが、04年に着うた配信サービスを開始し、その後も電子書籍配信サービス、コンテンツ配信プラットホーム「Contents Agency System(CAS)」の提供を次々にスタート。そのシステムは時代の要請で、12年にスマートフォン向け電子書籍配信ストアソリューションとして進化、国内大手書店に続々とコンテンツ取次を開始し、16年には東証一部上場(22年、東証プライムへ移行)。その歴史の中で、まんがは紙で読むものから、スマートフォンでも読むスタイルが浸透していった。
足利
四半世紀を超えた事業運営では、それこそさまざま思われることがあったのではないでしょうか。
藤田
そうですね。出版取次同様に、私たちはBtoB事業で流通の裏方を担っており、普段読者に直接接することはありません。そのためリクルート面も考慮して、社会貢献活動なども行っています。
今年の4月に徳島県で初のBリーグ参入をめざすバスケットボールクラブ「徳島ガンバロウズ」の運営を始めたのもその流れです。
ただ本業はあくまでも出版社からお預かりしたコンテンツを、各電子書籍配信サイト(電子書店)に配信する役目です。一見地味に見えるかもしれませんが、社会にとって必要なものだという信念はありました。
人々が読書を自由に楽しめる豊かな生活のためには、なくてはならないものなのです。
メディアドゥの歴史、特に上場経験を経てわかったのは、社会から必要とされていなければ企業は生き残れないという現実です。社会に生かされていると言ってもいいかもしれません。
足利
そうした役目を果たしながら事業を継続する大変さは、身に染みてわかっています。信念をもって重ねた年月の重みをともにわかっているからこそ、「まんがセゾン」を生み出せたのかもしれませんね。
「まんがセゾン」とは
どのようなサービスか
——わずか4ヵ月という短い期間でローンチまでたどり着いた「まんがセゾン」というサービス。その原点は06年にフィーチャーフォン向け電子コミックストアとしてサービスを開始したメディアドゥの電子書店「コミなび」だ。それがメディアドゥとの資本業務提携によって、クレディセゾンの会員向けプラン「セゾンコース」を主軸とする「まんがセゾン」へと生まれ変わった。セゾンカードなら常に50%ポイント還元を受けられるという特典がつく。当然その対象に「セゾン・アメリカン・エキスプレス・カード」も入っている。
足利
一度購入した作品は、閲覧期限が設定されているもの以外はずっと読むことができるし、専用ビューアを使用することでオフラインで楽しむことも可能です。ずっと読むことができる安心感、これこそがまんがファンにとって何よりのものだと考えています。
藤田
実際にローンチして驚いたのは、通常の電子書店に比べて、「まんがセゾン」の利用者の平均使用額が4倍以上だったことです。特にヘビーユーザーが集まっている印象です。デジタルコンテンツは需要に供給が追いついていないと言われますが、まさにその事実を体感しましたね。
これからのクレジットカードに
求められるもの
デジタルコンテンツの未来には
どのような変化が待っているのか
——次の25年に向けて踏み出したメディアドゥ、そしてセゾン・アメリカン・エキスプレス・カード。その先に、どのような未来をそれぞれ思い描いているのだろうか。
藤田
私は来年50歳という人生の節目を迎えます。だからこそ重要な挑戦をしたいと考えています。デジタルコンテンツがWindows95を搭載したパソコンで楽しまれていた時代から、携帯電話に移行し、さらにスマートフォンにその軸足が変わる変遷をずっと見てきました。
ただ常に電子書籍は紙の本を電子化したものであり、利用はできても所有はできないという特徴がありました。
しかし現在ではWeb3.0前提のブロックチェーンテクノロジーによるNFT化により、デジタルでもまた所有が可能な時代に変わり始めています。電子書籍もまた、買うだけでなく売ることもできる存在として、新たに生まれ変わるはずです。その実現が次の事業のカギになると思っています。
足利
私はそうしたWeb3.0前提では、決済のかたちがより多様化すると思います。ファイナンス会社としては、この領域に未来のチャンスを見出しています。
そこで私たちの決済機能が役立つのではないかと考えています。
それと同時に私たちはカード事業に囚われずに、さらに顧客に豊かな人生を送ってもらうための存在として、変貌しているかもしれません。
その意味で今回のメディアドゥとの結びつきは、大いなる示唆をはらんでいるように感じるのです。
藤田
今後、決済方法のバリエーションは重要になるでしょう。もちろんデジタルコンテンツも例外ではありません。私たちはその意味で、今回の提携に大きな期待を抱いています。これまで決済機能を提供する企業とパートナーとなることは珍しいことでした。だからこそ、未来の可能性に期待しているのです。
足利
ちなみに、出版業界や書店を含む紙の本の分野も、決済のDXなどで貢献できるのでは……と考えました。
藤田
それはおもしろいですね。DXの力でデジタルの苦手と出版の苦手を相互補填する仕組みを一緒につくり出せれば、全く新たな未来が待っているかもしれませんね。
——Web3.0という新しい世界で、新たなビジネスを生み出そうとしている両社。アメリカン・エキスプレスから受け継ぐアイデンティティは、デジタルコンテンツの時代にどんなワクワク感をもたらすのだろうか。イノベーションとアスピレーションの信念は、これからも引き継がれていくだろう。
世界に誇るアイデンティティ 「セゾン・アメリカン・エキスプレス®・カード」25年目の新たな歩み
センチュリオンの風格
AMERICAN EXPRESSストーリー
ローマ軍団のセンチュリオンを冠する「アメリカン・エキスプレス」。印象的なマークには、「大切なものをお守りする」「信頼される」「尊敬される」という想いが込められている。
その172年にわたる歴史は、どのように刻まれてきたのだろうか。
ゴールドラッシュの真っただ中
さらに未来を見つめる男たちがいた
世界的なブランドとして確固たる地位を築きあげたアメリカン・エキスプレス。ブランド名に〝エキスプレス〟の言葉が入っているとおり、元々は1850年に荷馬車により貨物を運ぶ運送業として、アメリカのニューヨークにて創業したのが始まりだった。
創業者はヘンリー・ウェルズ、ウィリアム・G・ファーゴ、ジョン・バターフィールドの3人だ。
日本は当時、江戸末期。徳川家慶が世を治めていた時代だ。アメリカでは、折しも大勢の人が一攫千金を夢見て西部をめざしていた1848~55年の真っただ中。人の移動は活発で、ヨーロッパからの移民も大量に押し寄せ、治安は非常に不安定だったという。
当然荷物を遠方に送ることは簡単ではなく、その中身が金目のものであればなおさら困難だった。
その時代にアメリカン・エキスプレスは、運送業として複数の会社が合併して生まれた。当時のアイコンは「犬と拳銃」。象徴するのは、荷物をそれらでしっかり守り、顧客に安心と信頼を与えることだった。
儲けを優先して金脈に走るのではなく、安心と信頼を実現するために、時代の要請に応える。アメリカン・エキスプレスはその発端から、現在に引き継がれるスピリットを備えていたのである。
すべては荷物の「全額保証」
から始まった
では安心と信頼をどのように荷物を発送する顧客に届けられるのだろうか。アメリカン・エキスプレスは革新的な施策を実現する。それが「運送時の全額保証サービス」である。
治安が悪く、強盗などの被害にあう地域も多い時代に、金目のものを運び、保証する。それにより人々の熱い支持を受け、運送業の範囲は国外に拡大するまでに成長した。
そして現金を運ぶ危険性に着目し、1882年、世界で初めて、クーポンの端を切り落とすことで金額の改ざんを防いだ「マネー・オーダー(郵便為替)」サービスを開始する。
現金を代替して郵便局で金銭を受け取ることのできる仕組みは、「紙幣・貨幣」を目的地まで運ぶことを不要にした、いわばキャッシュレスの原点とも言える。そしてここからアメリカン・エキスプレスは、金融業としての歴史が始まる。
1891年には外国人旅行者向けの旅行小切手(トラベラーズチェック)を発行、紛失時に再発行可能な特徴から、国境をまたぐ旅行者が大金を持ち歩かなくて済む安全性と利便性に大きく寄与した。その絶大な人気は、「貨幣よりも安心な貨幣」と称されたほどである。
そうした功績は、1895年、パリに初の海外事務所の設置につながった。すでに19世紀の段階で、アメリカン・エキスプレスはグローバルへと大きく羽ばたいていたのである。
20世紀に入ると、1915年に旅行サービスに事業を拡大、その2年後の17年(大正6年)には日本で初めて、横浜に事務所が開設された。
クレジットカードの発行
より直接的に現在につながるのは、1958年のアメリカとカナダでのクレジットカードの発行だ。創業当初から一貫した安心と信頼の提供が、一枚のカードとしてかたちになったのである。
当初は紙での発行だったが、のちに耐久性を考えてプラスチック製に切り替えられた。カードのカラーは、ゴールドが金貨由来で、グリーンはドル紙幣由来と伝えられている。
当時から、券面に輝くのはセンチュリオン(Centurion/市民から大きな敬意を得ていた古代ローマ軍の百人隊指揮官)。大切なものを守り、信頼され、尊敬されるそのシンボルは創業から変わらず、アメリカン・エキスプレス・カードの歴史を見守り続けている。
日本でも引き継がれる
アメリカン・エキスプレスの魂
「お客様に安心・信頼を届ける、お客様の信頼を裏切らない、誠意を尽くす、というのが、アメリカン・エキスプレスの一貫したフィロソフィーです」
そう語るのは、1984年にアメリカン・エキスプレスに入社後、コンシューマーマーケティング/営業を主体に30年勤めあげ、クレディセゾンとアメリカン・エキスプレスが提携を開始した時点で副社長を務めていた山中秀樹氏だ。
「アメリカン・エキスプレスに入社した当時、ニューヨークにてブランドトレーニングを受け、私自身ものちに日本で講義を行うようになりました。そのスピリットが表現されたのが『THE BRAND IS IN YOUR HANDS』というフレーズです。
2001年にCEOになったケネス・I・シェノルトの言葉を借りると、〝あなた自身がブランドそのものであり、ブランドに対する責任があります。〟というメッセージになります」
その象徴的なエピソードは、古くは第一次大戦に遡る。ヨーロッパに旅行していたアメリカ人を帰国させるために、トラベルオフィスをギリギリまで営業し、帰国の船を手配したエピソードが伝えられている。
そして2001年の9・11(アメリカ同時多発テロ事件)。誰の指示を受けるでもなく、アメリカン・エキスプレスの社員たちは、被害に遭った人々の救済のために奔走したという。
「日本の3・11(東日本大震災)のときも、食糧や毛布などの必要な資材を提供するために、各社員が自発的に会員様へ連絡を行いました。自社が床まで水に浸かっているときにでも、顧客の安心を優先したのです。こうした安心・信頼のためのアクションが自然発生的に起きること、それこそがアメリカン・エキスプレスのフィロソフィーです」
25周年を迎えた
「セゾン・アメリカン・エキスプレス」
大正時代に日本に事務所を開いたアメリカン・エキスプレス。クレディセゾンは、25年前に提携を開始、セゾン・アメリカン・エキスプレス・カードが誕生する。山中氏が当時を振り返る。
「流通のクレディセゾンは圧倒的なカバレッジを誇りながらも、自身のクレジットカードに足りないプレミアム感、歴史、格式を求めていました。
一方でアメリカン・エキスプレスは、伝統保守のイメージが強く、クレディセゾンの中にイノベーション(革新)とアスピレーション(野心)を見たのだと思います。その組み合わせは、実に好ましいベストなカップリングでした」
そして08年、ついにセゾン・アメリカン・エキスプレス・カードの券面にセンチュリオンの姿が描かれることとなる。世界中のアメリカン・エキスプレス提携カードが、実現できなかったことをクレディセゾンは実現したのである。
「伝統と格式に、アスピレーションが加わりました。これにより新たな時代が始まったのです。大切なのはマニュアルに載っていないこと。目先の利益を排し、本当に最終的な顧客の満足を考えて動くこと。
例えば似合わない服を似合わないと言える勇気こそが、将来的な顧客のメリットにつながることもあるのです。それがブランドとしての信頼感であり、価値です」
次の25年に向けて、変わらぬ魂とともに、セゾン・アメリカン・エキスプレス・カードが、新たな時を刻み始める。
※掲載の情報は2022年10月1日現在のものとなります。