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SAMURAI BLUEを支えるもの ~サッカー日本代表ユニフォーム プロジェクト~

1930年、「国土を取り巻く海」をコンセプトに、サッカー日本代表のユニフォームカラーは青に制定された。

以来、さまざまなブルーで表現されてきたユニフォームは、今年、歴史と願いが込められた幾何学模様のスタイルに生まれ変わる。

アディダス ジャパンの高木将氏にユニフォーム開発秘話をうかがった。

Text:Rie Tamura
Photograph:Keisuke Nakamura


高木 将(たかき しょう)
アディダス ジャパン株式会社
アディダスマーケティング事業本部 カテゴリープランニング

入社後、主にフットボールカテゴリーの商品企画を担当。これまでにサッカー日本代表100周年アニバーサリーユニフォームや横浜F・マリノスのユニフォームの開発を手掛け、今回、サッカー日本代表 2022ユニフォームを担当。自らも幼少期からサッカーを続け、今でも定期的にプレーしており、サッカーを日本のカルチャーとして根づかせるために日々業務に励んでいる。

270万羽の折り鶴が舞った日韓W杯から20年、
カタールの地では、
歓喜の中心にサッカー日本代表がいてほしい。

日本サッカー史にヒントを得た
〝ORIGAMI〟

4年に一度のFIFAワールドカップ(W杯)が、2022年11月にカタールで開幕する。それに先立ち、決戦の地でサッカー日本代表〝サムライブルー〟の選手たちが身にまとう最新のユニフォームが発表された。

開発を担当した、アディダスジャパン株式会社の高木将氏は、ユニフォームを作るうえで次の3つが大切だという。

「選手たちが優れたパフォーマンスを発揮できるように、というのが商品開発の大前提です。そのうえで、日本を代表して戦う選手たちがまとうユニフォームですから、日本の伝統的な要素を取り入れています」

「さらに、日本はまだまだサッカーが文化として根づいているとは言い切れないため、なるべく多くの人たちをサッカーに取り込めるようなコンセプト作りを大切にしています」

アディダスジャパンは1999年より、日本サッカー協会とオフィシャルサプライヤー契約を締結し、サッカー日本代表ユニフォームを提供してきた。13モデル目(※)となる今回のユニフォームのコンセプトは〝ORIGAMI〟。そこに込めた想いを高木氏は次のように語る。

「カタールを歓喜の地にしたい、という想いがありました。その歓喜をもたらす祈りの象徴として『折り紙』をデザインコンセプトに、ホーム・アウェイユニフォームともに作っています」

「なぜ折り紙かというと、韓国と共催で行われた2002年のW杯決勝の地に、優勝チームを祝福するかたちで270万羽の折り鶴が舞ったんです。ちょうど20年後の今年、そのような歓喜の中心にサッカー日本代表がいてほしいな、という想いを込めて、折り紙をデザインコンセプトにしました」

※ 100周年などの記念ユニフォームを除く。

サッカー日本代表 2022 ユニフォームのコンセプトは"ORIGAMI"。

本社のあるドイツのプランニングチームと開発していく中で、コンセプト作りが最も重要であり、頭を悩ませ、時間をかけた工程だった。

サッカーファンに刺さり、ファンではなかった人たちも応援したいと思うきっかけになるようなフックを高木氏は探し続けていた。

時を同じくして高木氏が開発に携わっていた、サッカー日本代表100周年アニバーサリーユニフォームが打開策を与えてくれることになる。

「初めて日本代表チームが編成された1930年、そして世界的な大会で初のベスト8に勝ち進んだ36年のモデルをベースに、日本サッカー協会創立100周年をお祝いするユニフォームを作ることになりました」

「記念すべきユニフォームを担当できることに大きな責任を感じ、その歴史をしっかり勉強すべきだと思ったんです。日本サッカー協会秘蔵の書物や画像で学んでいくと、先人たちの築いてきた功績が、線として今につながっているんだ、と腹に落ちました」

歴史から糸口を掴んだ高木氏は、日本サッカーが最も盛りあがったタイミングのひとつである「日韓W杯」にインスピレーションを得て、カタールで起きた「ドーハの悲劇」を塗り替えていきたいと考えた。そして行き着いたのが、最新ユニフォームの〝ORIGAMI〟というコンセプトだった。

「折り紙に山折りと谷折りがあるように、日本サッカー100年の歴史も、山あり谷ありで今につながっていると思っています。だからこそ、折り紙が新たな形に生まれ変わるように、サッカー日本代表もまた新しくて強い姿に生まれ変わってほしい、という願いを込めました」

「ORIGAMIは、言葉としてもドイツチームにすぐに伝わり、『文化のストーリーに親和性があってすごくいいね』と言われました。国内だけでなく、世界にアピールできるコンセプトだと自負しています」

高校までサッカーに打ち込んできた高木氏。
その経験が、選手からのフィードバックを理解するうえで役立っている。

積み重なる歴史や想いを
幾何学グラフィックで表現

コンセプトが決まれば、次はデザインに反映させる工程だ。

「ホームユニフォームでは、折り紙を折ったときに内側にできる折り線を部分的に採用し、幾何学的なグラフィックに落とし込んでいきました。異なる2色のブルーと、ホワイトをベースにし、グラフィックを積み重ねています。こうすることで、これまで積み重ねてきた歴史や、選手たち、サポーターが抱く積み重なる想いを表現しています」

日本人が好む、規律や規則性のあるデザインを今回のユニフォームに取り入れるため、高木氏はインスピレーションになりそうな画像や動画をかき集め、デザインチームにイメージを共有し、すり合わせていった。

「募る想いはあったのですが、それをシンプルに表現したかったので、なるべく削りながら、削りながら、という感じで作っていきました」

デザイン性の高さもさることながら、実際に着用して戦う選手たちにとっては、機能性こそが重要になる。

「選手仕様のユニフォームである、オーセンティックユニフォームでは、アディダス最高峰のテクノロジー『HEAT.RDY(ヒート・レディ)』を採用しています。これは、通気性や除熱性に優れ、プレーヤーの衣服内環境を快適に保つ機能です。また、脇の部分にメッシュ素材を加えることで、カラーブロッキングでデザインのアクセントをつけながら、プレーヤーをサポートしています」

「機能として進化するだけでなく、環境にも配慮したサステナブルな素材を使うことにもこだわっており、海沿いから回収したプラスチック廃棄物をアップサイクルして生まれた素材、パーレイ・オーシャン・プラスチックを50%含む糸を採用しています」

サッカー日本代表100周年アニバーサリーユニフォーム。
1930年代のユニフォームのライトブルーを基調として、
クラシックなスタイルを採用した歴史を感じさせるデザイン。

最後に、サムライブルーを支えるオフィシャルサプライヤーとしての今後のビジョンを高木氏に聞いた。

「サッカーを一過性のトレンドではなく、文化として根づかせていくような商品開発に取り組んでいきたいと思っています。より多くの人がサッカーに興味をもてるような新しい企画を考えているので、そういったものにもチャレンジしていきたいです」

「ゆくゆくはW杯でベスト8、ベスト4、そして優勝という目標をチームとして掲げているはずですので、高い目標を達成するためのサポートを積極的に行っていきます」

真新しいユニフォームの背には、日の丸がプリントされている。文字どおり、日の丸を背負った選手たちが、カタールを歓喜の地にしてくれるはずだ。

左胸に掲げるエンブレム

ボールを押さえる3本足のカラス。この日本サッカー協会のシンボルマークは、1931年に協会創設に尽力した漢文学者、内野台嶺氏らの発案により、彫刻家の日名子実三氏が図案化したものだ。

87年よりサッカー日本代表のエンブレムに採用され、数度のマイナーチェンジを経て、2017年からは現在のデザインとなっている。大きく開いた翼はチャレンジ精神やスピードを、足でキープする赤いボールは太陽、情熱、日本を表現している。

SAMURAI BLUE の選手たちは、左胸のエンブレムを誇りに、カタールの地へと羽ばたいていく。

サッカー日本代表 2022 ユニフォーム
"ORIGAMI"徹底解剖

「カタールを歓喜の地に」との願いが込められたSAMURAI BLUEの最新ユニフォーム。ホーム、アウェイ、それぞれのディテールをひもといていこう。

オーセンティックユニフォーム
【左】アウェイ/【右】ホーム
【左】パイピングには「日本」「JAPAN」の文字。/【右】毛先のタッチでスピード感を表現。

ホームユニフォームは、背面にも使われている「ジャパンブルー」をベースに、青2色と白の3色による複雑で繊細なグラフィックで「折り紙」を表現している。

「参考にしたのは、漫画の躍動感を描く技法。繊細な毛先のタッチを取り入れ、スピード感を表しています」(高木氏)

歴代ユニフォームの要素として、01年「FUTURE PROGRESS」の裾のパイピング、10‐11年「革命に導く羽」の胸元の赤いパネルを採用したのも特徴だ。

「脇から裾にかけての赤いパイピングに『日本』『JAPAN』の文字を入れています。また、11年にカタールの地でアジアの頂点に輝いたときに着用されていた縁起のいいモデルから採り、襟裏に赤いパネルをつけました」(高木氏)

アウェイユニフォームは、白をベースに、青と赤の2色からなる幾何学的なグラフィックを肩と袖に採用している。

「折り紙を折っていく過程の形を表しています。青と赤を組み合わせた『アナグリフ』という立体的に見える色使いは斬新で、若い世代にも着ていただけるように、という想いを込めて作りました」(高木氏)

細部にまで想いが宿った、洗練されたユニフォームの誕生だ。

Footballers in the Blue
日の丸を背負う責任

サッカー選手なら誰もが憧れる日本代表のユニフォーム。それをまとい、長年プレーしてきた日本サッカー協会理事の宮本恒靖氏に、SAMURAI BLUEのユニフォームを着ることの重みをうかがった。

宮本 恒靖(みやもと つねやす)日本サッカー協会理事
1977年、大阪府出身。同志社大学経済学部卒。95年、ガンバ大阪入団。レッドブル・ザルツブルク、ヴィッセル神戸を経て2011年に現役を引退。日本代表では年代別代表からA 代表のすべてで主将を務め、2002年日韓W 杯、2006年ドイツW 杯に出場。2013年、FIFA マスター修了。2017~2021年、ガンバ大阪の監督を務める。22年、日本サッカー協会理事に就任。

U-17(17歳以下)の大会でサッカー日本代表ユニフォームに初めて袖をとおして以来、A代表では99-00年「機能美」から06-07年「刃文」までの歴代モデルを着用し、世界を相手に戦ってきた日本サッカー協会理事の宮本恒靖氏。

「初めて日本代表ユニフォームを着たときのうれしさやドキドキした感じは、簡単には形容できないぐらいのものでした。そこから何年も代表チームで着続けると、見えてくるものがあるんですよ。日本代表として戦うことの意味を知り、うれしさは、誇りや責任感に変わっていきます」

着用したユニフォームのその後が気になるところだが、自宅に飾ったりするわけではない、と宮本氏は言う。

「選手にとっては、自分が着た代表ユニフォームはどんどん過去のものになっていく。自分を高めないと次は着られないという想いがあるので、立ち止まらずに常に次のものを求めていくんです」

「自分では飾りませんが、日本サッカーミュージアムにシドニー五輪や日韓W杯で着たユニフォームが飾られていて、たくさんの人に見てもらえるのは誇らしく思います。最近の代表戦では『5 MIYAMOTO』の刃文のユニフォームを着ているサポーターを見かけてうれしかったですね」

SAMURAI BLUEのユニフォームは、選手たちが自己研鑽の末に身につけられる誇り高きものであり、サポーターとのつながりを実感できるものでもあるのだ。


※掲載の情報は2022年9月1日現在のものとなります。


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