見出し画像

〈JFA100周年 特別インタビュー〉JFA佐々木則夫理事 ~世界で勝つためのマネジメント術~

なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)が世界制覇を成し遂げてから早10年。彼女たちを率いた佐々木則夫氏は、いかにして強いチームを作りあげたのか。人を育て結果を出す、マネジメントの秘訣を探っていく。

Text:Rie Tamura
Photograph:Shuichi Utsumi
タイトル写真:JFA、AP/アフロ


佐々木 則夫(ささき のりお)サッカー指導者
1958年、山形県出身。NTT関東サッカー部でMFとして活躍。98年、大宮アルディージャ監督に就任。
2006年にサッカー日本女子代表コーチ、翌年には監督に就任。08年に北京五輪4位入賞、11年に女子W杯ドイツ大会優勝を果たし、同年にFIFA女子年間最優秀監督賞受賞。12年、ロンドン五輪で銀メダル獲得。15年、女子W杯カナダ大会準優勝。19年、日本サッカー殿堂入り。

強い組織をつくる
コミュニケーション

2011年、FIFA女子ワールドカップドイツ大会決勝。強豪アメリカの猛攻撃をしのぎ、PK戦を制して世界一に輝いたのは、なでしこジャパンだった。指揮官を務めた佐々木則夫氏は、10年前の映像を見返し、組織の結束が生み出す力を再認識したという。

「人と人との融合のなかでひとつに結束すると、こんなに大きなことができるんだなと改めて感じています」

「当時は東日本大震災の直後で、日本の皆さんへ元気を送りたいという想いがパワーになり、優勝を後押ししてくれました」

強い組織を作るうえで、コミュニケーションは欠かせない。初めて指導する女子選手相手に、佐々木氏はさまざまなアプローチを試みた。

「親子ほど年齢の離れた女性ですから、かしこまって話をすると心の奥にあるものは出てきません。話の入り方が重要で、『おはよう。よく眠れたか?』と軽い雰囲気で当たりをつけるのが私の手でした」

「話のなかでは、全般的に同調し、『聞いてくれる』という感覚を与え、それから本質を突くのです」

監督には「観察力」が求められ、「しっかり見ている」というサインを選手に送ることも良いコミュニケーションにつながるという。

「試合や練習中のプレーについて言葉を投げかけるのはもちろん、ピッチ外の行動にも『気が利くね。サッカー選手は気が利かないとだめなんだよ。君はもっとうまくなるよ』といったり。ちゃんと見て、伝えることが重要です」

当然、褒めるばかりがコミュニケーションではない。欠点を伝える際には、「2対1」を心掛けたと佐々木氏は語る。

「良いところをふたつ、足りないところをひとつ指摘するというバランスです。『攻撃でのフェイントとスピーディな動きがすごいね。その動きをディフェンスでできたら、もっとすごいんだけどなあ』という具合です」

「選手は欠点だけを指摘されるよりも聞く耳をもち、変わろうと努力してくれます」

個人の自主性を養い
組織の力にする

サッカーチームという組織は、監督、スタッフ、選手という三層で成り立っている。そのため、監督が選手に直接伝えるのではなく、第三者をとおして間接的に言葉を届ける手法が有効な場合もある。

「トレーナーがスランプの選手の体をメンテナンスしながら、『最近元気がないけれど、なんでかな。プレーは全然悪くないのに、って監督が言っていたよ』と私の評価を伝えます」

「すると、『私をちゃんと見てくれているんだ』と気づいて気持ちが晴れ、実際に復活したという例もありました」

世界で勝てるチームを作るために、佐々木氏は「自主性」をキーワードにしていたという。


「サッカーは試合が始まったら、自分で判断して実践することの連続です。ですから、選手たちには自主性をもたせたかった。まず、ミーティングでは選手同士でディスカッションさせました。自分で意見する習慣が身につけば、試合中も自分で答えを探しだせるようになります。また、目標設定も選手たち主導で行いました」

「『今、何ができていて、何ができていないか』という現状を認識し、皆でどこをめざすのか、選手たちに責任をもって掲げさせました。『W杯優勝』を掲げて船出し、実際にそれを叶えたのですから、本当によくやってくれたなと感じます」



※掲載の情報は2021年8月1日現在のものとなります。