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〈世界のなでしこ・女子サッカーのスタイルと文化・前編〉世界で活躍する「なでしこ」になるために

2011年、なでしこジャパンがFIFA女子ワールドカップで優勝に輝いたとき日本中が歓喜に沸いた。あれから12年。

2023年7月22日、なでしこジャパンはワールドカップの舞台で再び世界の強豪国と対戦する。優勝奪還を狙う日本はいかなる戦いを見せてくれるのか。

前後編の2回に分け、日本女子サッカーについて改めて見つめる。

前編では、日本を栄冠へと導いた指揮官と選手が、優勝時の舞台裏と日本女子サッカーの現在を語る。

※この記事は前編です。後編はコチラ

Text:Junko Hayashida
Photograph:Keisuke Nakamura


司会を務めたのはJ-WAVEのナビゲーター、nicoさん。

本対談は2023年6月16日(金)高円宮記念JFA 夢フィールドにて、クレディセゾン ブランデッドPodcast 番組「THIS IS US Powered by SAISON CARD」でもナビゲーターを務めるnico(ニコ)さんの司会で行われた公開インタビューをまとめたものです。

佐々木 則夫(ささき のりお)日本サッカー協会女子委員長
1958年生まれ。98年よりNTT関東サッカー部(現・大宮アルディージャ)監督に就任。2006年、日本代表コーチおよびU-17日本女子代表監督に就任。07年より日本女子代表監督を務める。11年FIFA女子ワールドカップドイツ大会で優勝、12年ロンドン五輪で銀メダル、15年FIFA女子ワールドカップカナダ大会で準優勝。16年に代表監督を退任。19年、女子新リーグ設立準備室室長に就任し、WEリーグの創設に貢献。21年より現職。

写真左

宮間 あや(みやま あや)元なでしこジャパン
1985年生まれ。小学校1年生でサッカーを始め、中学2年生で読売メニーナに入団、99年、NTVベレーザ(現・日テレ・東京ヴェルディベレーザ)に昇格。2001年に岡山湯郷Belleに入団、09年アメリカ女子プロサッカーチームのロサンゼルス・ソルに移籍。10年、岡山湯郷Belleに完全移籍。2003年に日本代表に初選出、11年FIFA女子ワールドカップドイツ大会で優勝、12年ロンドン五輪銀メダルなどに貢献。同年、日本代表の主将に任命。16年、現役引退。

写真右

◆代々培われてきたなでしこジャパンの強さ

大会が進むごとに強まる
チームの結束力

佐々木
宮間と会うのは4月にポルトガルで行われた親善試合に来てくれたとき以来だよね。

宮間
そうですね。

佐々木
今のなでしこジャパンのメンバーで、2011年の優勝時にいたのは熊谷紗希ひとりだけ。一方、世界からは「優勝、準優勝、銀メダルを取った国」と見られている。選手の多くは、世界の評価と自分たちの実績のバランスの悪さに、気持ちをどう持っていけばいいのか悩んでいて。

ポルトガルに来た宮間が「あなたたちはあなたたちらしく。持っているものがあるんだから、気にしないで」と言ってくれた。選手たちがホッとした表情をするのを見て、僕も安堵しましたよ。さすがOGです。

宮間
いやいや、熊谷や岩渕(真奈)から若い選手が悩んでいると聞いて、それは良くないと思っていたんです。大会が終わって後悔が残ることのないように、準備を整えて臨んでほしいですから。

佐々木
そうだね。それに最初から完成されているチームなんてそうそうなくて、大会が進んでいくごとに結束力は高まっていくもの。特に2011年は東日本大震災があって、みんながサッカーをできる喜びを共有していたし、勝ち進むごとにNHKが視聴者からのメッセージを送ってくれて。それを見た選手たちは、僕が「頑張ろうぜ!」なんて言わなくても、自然と結束力が高まっていった。

宮間
メッセージを読んで、みんな泣きながらピッチに向かっていましたよね。

佐々木
ところで、予選リーグでイングランドに負けたときのこと覚えている?

宮間
ふふふ(笑)。

佐々木
負けて、予選リーグを2位通過になったことで、決勝1回戦で一度も勝ったことのない開催国ドイツと戦うことになって。そのプレッシャーから、前線のフォワードとうしろのディフェンスが、あれはダメだ、これはダメだと揉め出して。

宮間
あの争いは凄かったですね。マスコミではきれいな私たちしか見せませんでしたけど、勝利に向かうプロセスは人それぞれなので、揉めるときは揉めますよね。丸山桂里奈の性格のおかげでうまく収まりましたが(笑)。

佐々木
気持ちを切り変えて、仲間を信じて頑張ろうという雰囲気の中、ドイツ戦を迎えられたのは大きかったですね。

宮間
ただ、その信頼関係は選手間だけでは難しく、やはり則さんが作ってくれたオープンな雰囲気が大きいと思っています。だってどの合宿でも、則さんの部屋のドアは全開になっていましたから。部屋の前を通るたびに、則さんの姿が見えると、ふっと寄りたくなる。ああいうのは、私たちにとってすごく助かりました。

佐々木
なでしこジャパンのコーチをやっていたときは、選手たちの兄貴分みたいな立ち位置でよく相談されていたのですが、監督になると選手選考の決定者になるので、選手は思ったことを言ってくれなくなる。

だからこちらから呼び掛けるなど、選手の気持ちを引き出せるように気は配っていました。あとスタッフは僕だけではありませんから。メディカルがマッサージしているときに、選手がリラックスしてポロッと言った情報などは結構重要で、そういう意見はなるべく吸いあげるようにしていました。ただ、澤(穂希)と宮間だけは変わらずガンガン言ってきたけど(笑)。

宮間
上から支配されている感覚が一切なかったですからね(笑)。あと練習でも則さんは意図の見えないメニューはしなかった。例えば、私たちはサッカー選手なのでただ走る練習は好きじゃない。だけど則さんは常にボールを使って走らせてくれて。夢中になって打ち込んで、気がつくとすごく体力があがっているんです。

佐々木
ボールを蹴らせて、転がっていけば走るんだから、それが一番効率的でしょ(笑)。僕は練習を始める前に映像を見せて、今日の練習ではこういうことを獲得したいと説明をして、練習後にまた映像を見せながら、できたこと、できなかったことを振り返る。この3つをセットにしていました。

これは自分自身の指導でも行っていて、練習中、「なんでこいつらダメなんだよ」って注意ばかりしていたけれど、あとで見返すと僕のオーガナイズが悪いことがあるんです。そういうときは次のミーティングですぐ謝る。選手たちに「でしょ?」って顔をされて(笑)。

宮間
だって練習のときから、絶対これ間違ってるよなって思っていましたから(笑)。

佐々木
監督だからすべて正しいわけではない。だからこそ失敗したときは謝って、「また明日もお願いします」と言うことが大事ですね。

連携やセットプレーが
なでしこジャパンの強さ

佐々木
今のなでしこジャパンのメンバーを見て思うのは、本当にうまくなっているということ。

宮間
うまく、強くなってますよね。

佐々木
我々のときに大切にしていた〝連携・連動〟と似ているだけでなく、全員攻撃、全員守備をさらに密にやっている。

宮間
則さんは本当に厳しかったですよね。1m、1㎝、1㎜レベルの指示がきて、いかに忠実にやるかが求められた。

佐々木
最近は日本以上にヨーロッパの成長が早い。日本の持ち味である連携プレーを取り入れる国も増えていて、パワーやスピードがあるのに、細かいサッカーができる。日本人はどうしても体格では劣る分、連携の質をいかにあげられるかが重要だと思います。

宮間
ただ、予選リーグには強豪国スペインもいますが、メンバーを見る限りでは日本のほうが強いと思うので、勝てると信じています。

佐々木
強いて言うなら、フリーキック、コーナーキックのスペシャリストだった宮間のような選手がいるといい。宮間は試合前の練習で納得がいかないと試合後、宿舎に戻るバスが出発してもひとりで練習をしていた。世界と戦うためには、そういうストイックさは大事です。

宮間
あと合宿で男子の大学生や高校生と一緒に練習させてくれたじゃないですか。海外の選手って若い日本人男子と同じぐらいパワーや身長があるから、あの練習は自信に繋がりました。

佐々木
2011年のワールドカップでは全チームの中で、日本の平均身長が一番低かったんです。そうなると、相手国は高さがものをいうセットプレーをチャンスだと思う。そこで我々はセットプレーの練習を重点的にしました。その結果、日本は大会中セットプレーからの失点がゼロ。今のなでしこもセットプレーがすごく良いので、予選リーグ突破は間違いないでしょう。

女子サッカーを文化として
根付かせるために

佐々木
先日、ドイツのテクニカルダイレクターに、「日本は女子サッカーの競技人口が5万人にも満たないのに、ワールドカップやU-17で優勝できているのはなぜなんだ」と聞かれました。アメリカは160万人、ヨーロッパは10万人
を超えていますから。

日本は人数が少ないけれど、さまざまな組織で情報を共有して、吸いあげていくというすばらしい育成システムがある。それを発展させるためにもプロ化は悲願でしたが、ようやくWEリーグ(日本女子プロサッカーリーグ)が開幕して、選手たちがサッカーに打ち込める環境も整ったと思います。個人的には11年の優勝からすぐに動くべきだったと思いますが、まずは第一歩です。

宮間
則さんはWEリーグ立ちあげの室長をやられていましたよね。

佐々木
日本はほかの競技でも女子のプロリーグがほとんどないので、色々と右往左往する部分はありましたね。また、コロナ禍があって、このタイミングでの開幕を疑問視する声もあったのですが、日本が世界に再度挑戦するためには、とにかくスタートすることが大切だというのを強く主張しました。観客動員数など、まだまだ厳しい面もありますが、まずは立ちあげることが大事だと。

宮間
個の力をつけるために、わかりやすいのは海外のトップリーグでプレーをすることだと思うのですが、私としてはそろそろ日本に海外のスター選手が来るようになってほしい。そうすれば、海外に出た選手だけでなく、国内でプレーする選手たちにも個を伸ばすチャンスが与えられますから。

佐々木
リーグの発展のためには競技人口を増やすことも大切です。WEリーグでは2030年に選手登録を20万人にすることをめざしています。
例えば、ワールドカップ優勝後は、アマチュアリーグでありながら2万人の観客が入る試合もありました。

今回、日本代表に選ばれた藤野あおば選手も、12年前の優勝を見てサッカーをやろうと思ったそうです。日本は男子も含めて、さまざまな競技が行われている特殊な国。少子化の中で、どうしても競技同士で選手の取り合いになる面がある。

だからこそ、今回のワールドカップで日本が活躍してくれることが、今後の競技人口やファンを増やすのに繋がると思っていますし、我々も裏方として選手をサポートしていきます。

宮間
ワールドカップでの活躍は絶対に必要なものですが、文化として定着させるためには、どの世代でも結果を出し続けることも重要かなと思います。

佐々木
優勝したとき、僕たちは勝った勝ったと浮かれていたけど、宮間だけは「ブームで終わらせるのではなく、女子サッカーを文化にしなくてはいけない」って吠えていたよね。

宮間
これまで先輩たちもアテネ五輪やワールドカップ予選でブームを起こしてくれてはいたんですよ。ところが注目されてからの下げ幅というのが悲しいぐらい凄かった。

「こんなに先輩たちが頑張っているのに、なんで見に来てもらえないんだろう」と思っていて。その経験があったので、常にみなさんに見ていただけることが、私の思う文化だったんですよね。

佐々木
今回のワールドカップもぜひ多くの方に見ていただきたい。日本は本当に全員で守備をして、全員で攻撃する。その切り替えの早さとフェアプレー、そして最後まで諦めない姿勢はなでしこジャパンの伝統でもあります。こういったところに着目して、ぜひ応援してください。

宮間
私も精一杯応援します。

◆世界で活躍する『なでしこ』なるために
 ~公開対談インタビュー~

今回掲載の公開インタビューの模様は、YouTubeにて動画を配信しています。

2011年、世界一に輝いた「なでしこジャパン」。その監督としてチームを率いた佐々木則夫さんと、ミッドフィルダーとして優勝に貢献した宮間あやさんの対談を行いました。 世界一から12年、今後の日本女子サッカー発展に欠かせない、なでしこジャパン強化の課題を語っていただきながら、世界レベルの「個」の力について考えます。

〈世界のなでしこ・女子サッカーのスタイルと文化・後編〉世界で輝く「個」の力 はコチラ

※掲載の情報は2023年7月1日現在のものとなります。


❖このインタビューを音声でCHECK!
 Podcast「THIS IS US Powered by SAISON CARD」

『SAISON PLATINUM AMERICAN EXPRESS CARD NEWS』との連動プログラム、「THIS IS US Powered by SAISON CARD」。
このポッドキャストでは、様々なフィールドの第一線で活躍する、エキスパートをお招きして、その世界の魅力について、たっぷり、お話を伺っていきます。

佐々木則夫さん × 宮間あやさんのインタビューは、下記をタップ!