経営者に聞く革新のストーリー【橋本 行秀氏】~Vol.6~
先人から受け継いだ知見と経験を次世代に継承し、新たな技術により、さらなる革新へと繋げていく。
そんなリーダーたちのインサイドストーリーをご紹介。
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チケット・セゾンから株式会社イープラスまで
チケットビジネス業界で革命を起こしてきた橋本行秀氏。
2020年からはエージェントビジネスも開始。
歩みを止めない姿勢と気力はどこから来るのでしょうか。
チケットビジネスの変遷とともに、忘れられない言葉や
今、気になっているターゲットについてうかがいました。
Text:Fumiko Teshiba
Photograph:Keisuke Nakamura
チケット・セゾン誕生秘話
立教大学に通っていましたので、西武池袋本店は地元。西武百貨店は学生たちの憧れで、若者ファッションの最先端でした。
ちょうど多角化を進めている時期で、美術館や劇場の展開といった文化面にも力を入れている珍しい流通系グループという印象もあり、エンタテインメントが好きだったので百貨店以外の事業にも携われるのではと期待し入社を決めました。
最初の配属先は西武渋谷店。
公園通りには渋谷パルコができ、西武渋谷店と渋谷パルコが街の流れを大きく変えました。だからやはり、ちょっと自慢でしたね。最先端にいる感覚があったし、急成長していきましたから。
若い世代が活躍できる空気が充満していて、とても居心地が良かった。
その後、西武有楽町店の開業に際し、チケット販売に携わることに。
ちょうどその頃「銀座セゾン劇場」を開設するという話が出ていて、銀座セゾン劇場のプロデューサーから、劇場にはアメリカのようなコンピューターチケッティングが不可欠、どうしてもやりたいという熱意を伝えられました。
「もし堤さん(セゾングループ創業者・堤清二氏)がやれと言ったら、やってくれるか?」と。
何もわからないながらも、会社としてやる意思があるなら、と答えました。
2週間ほどして、自社でチケット事業を始めることが決まったんです。決定の場に立ち会っていないのでどのような会話がなされたのかわかりませんが、それ以外にないと思っていました。
堤さんは「カードとリザベーションの時代になる。生活に密着した祭りなどのチケットもリザベーションできる時代、モノをコト化する時代が絶対来る」という話をされていました。
それにすごく共鳴したんです。
そうして「チケット・セゾン」をスタートさせました。
それまでは、店舗の数をひとつの武器として成長してきましたが、これからは情報が武器。とにかく情報の数を集めなければならない、これから発売されるものが重要で、発売中のものとは分けて考えなければならない。
試行錯誤で進めていきました。
常識を超えた大転換
チケット・セゾンでは、初めてコンビニと提携しました。当時ファミリーマートは5000店舗ほど。あえて拠点数で勝負しようと考えたのです。
店内にポスターを貼ったり、プロモーションという意味でもほかとは違った展開ができ、想定以上にうまくいきました。
ただ、5年くらい経ってくると、これでは儲からないという思いが膨らんでいきました。
第一の誤算は、膨大な広告宣伝費です。
当時、広告と言えば新聞の社会面下でしたから、社会面下を毎週買うことになる。
第二の誤算は、チケット販売店舗に支払う手数料です。
プレイガイド業界に続々と競合が生まれ、チケット・セゾンが受け取るマージンを下げることを余儀なくされた。場合によっては逆ざやになる状況が生まれていました。
有限市場であることも影響しました。パイが決まっているので、それを取り合うことになる。
手数料ビジネスは、ある規模を超えないと大赤字なんですよ。
チケット・セゾンは15年続きましたが、ファミリーマートがチケット・セゾンと提携を解消してチケットぴあと提携することになったとき、このままではだめだと。
元々この事業形態では難しく、リセットしないとなかなか変えられないと思っていたので、各社をまわり、新たなチケット事業のあり方をプレゼンしました。株式会社クレディセゾンとソニー株式会社が主要株主となり、株式会社エンタテインメントプラス(現株式会社イープラス)が始まりました。
当時普及率10%台のインターネットに対応し、ビジネスモデルを大きく転換。新たに考案したプレオーダーシステムでは、チケットが用意できたお客様からチャージを頂戴して、主催者からいただく手数料を引き下げながら、新たな収益を得る仕組みを生み出しました。
また、資産がないビジネスなので、何を資産にするかと考えると、顧客しかない。当時インターネットはパソコンのみ、しかも普及率は10%ほどでしたが、会員制で100万人集めれば顧客と相互につながるビジネスのスキームができると試算し、やるしかないと思いました。
会員制のさらなるメリットは、データベースマーケティングができる点です。
プレオーダーシステムによって抽選をおこない、チケットを求める人の数を把握できるので、もう1公演追加できるといった予測が立てられます。お客様からチャージをいただくことが成り立てば、これまでとは様変わりしたビジネスモデルができると確信していました。
とはいえ、最初は様子見の企業がほとんどで、すべて預けてもらえたのはわずか3社のみ。
それでも巨人戦など人気のあるイベントを任せてもらえたので、徐々に会員数が増えていき、1年ほどで100万人のめどが立ち、現在は2200万人に達しています。
従来では考えられない、店舗も持たないビジネスモデルにも関わらず、その後一気にイープラスのスタイルが確立していきました。
ほかのプレイガイドも同じ形に切り替えていきましたよね。
エージェントビジネスの展望
2020年より開始したエージェントビジネスは、芸能事務所の意味がどんどんなくなっていることと、YouTuber の出現が契機でした。
まずはひとつのジャンルを制覇しなければと、最初に取り組んだのがクラシック音楽です。
2018年に横浜の赤レンガ倉庫で「STAND UP! CLASSIC FESTIVAL(通称スタクラフェス)」を開催したのが始まりで、クラシック YouTuber にも出演してもらいました。クラシックの方々はあまり集うことがないようで、出演者も盛りあがっていましたね。
現在エージェント契約しているアーティストは30歳前後の方が多く、考え方も、情報の深さも異なる世代が育ってきていると実感しています。
今後は海外での活躍もサポートしたいと考えていますが、最初はアジアに限定するなど、一歩ずつ進めていきたいですね。
計10名の アーティストとエージェント契約を結んでいる
イノベーションし続ける
イノベーションの気持ちを持ち続けることが大切。堤さんの言葉では「現実否定」ですね。
5年、10年でまるっきり変わっていく時代に、同じことをずっと続けていたら継続はあり得ないと思います。
継続とは同じことをやることではなく、イノベーションし続けること。
そのためには、好奇心を持ち続けることも必要です。私にとってはそれが若い人と接するということで、そうした時間を惜しまないようにしたいですね。
次にどのジャンルでNo.1になれる可能性があるかと考えると、Z世代かなと思っています。わかっているようで、まったくわかっていないからこそおもしろい。
それから、エージェントビジネスに関わる中で強く感じているのは、ライブマーケットを動かしているのは女性だということです。
マーケットもそうですが、ターゲットを追う。ターゲットを見定め、集中させる必要があると感じています。
※インタビューの情報は2024年11月1日現在のものとなります。
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