〈JFA100周年 特別インタビュー〉川島永嗣氏 ~心の体力を高めるマインドセット~
日本人ゴールキーパー(GK)としてヨーロッパの第一線で活躍するフロントランナー、川島永嗣選手。彼には、苦しいときに耐え、信じる道を切り拓く心の強さがある。その極意に迫っていこう。
Text:Rie Tamura
Photograph:Shuichi Utsumi
タイトル写真:JFA、AP/アフロ
チャンスをつかむため自分を信じ、
隙なく準備する
これまで3大会連続でFIFAワールドカップ(W杯)に出場してきた、日本代表の守護神、川島永嗣選手。2010年の南アフリカ大会では「達成感」、14年のブラジル大会では「虚無感」、18年のロシア大会では「日本サッカーの未来」を感じたという。
「南アフリカ大会では、ブブゼラの鳴り響く満員のスタジアムのなか、かなり完成度の高いプレーができ、達成感がありました。結果はベスト16。その後、海外クラブに移籍し、自信をもって臨んだブラジル大会でしたが、一勝もできず、虚無感ばかりが残りました」
そして、ロシア大会。ベスト8進出をかけた強豪ベルギーとの一戦で激闘を演じ、あと一歩及ばず惜敗した。
「今までにない領域が見えた試合。日本サッカーはもっと上に行ける、と未来を感じることができました」
川島選手は、海外クラブでの12シーズン目を迎える。GKはヨーロッパでは花形のポジションであり、パフォーマンスに対するファンの目は厳しい。
「リスクを冒してでも、味方を助けてチームに貢献しなければ評価されません。GKには、『安心して後ろを任せられる』という存在感やリーダーシップ、強いキャラクターが求められます」
そんなベルギーで5年間プレーし、GKとしてさらなる成長が望めるクラブを求め、移籍を選択。しかし15年夏、川島選手は所属クラブが決まらない〝浪人時代〟を過ごすことになる。
「『もっとできる』という感覚を信じるのか、自分が行きたいクラブはないという現実を受け入れるのか。試されていた時期でした」
「自分にできることは何でもやりました。エージェントをとおさず、クラブと直接交渉したことも。プライドは捨て、自分の想いを形にするため、自分で行動し続けました」
二転三転する移籍話に翻弄され、どん底まで追い込まれた川島選手は、それでも自分を信じることをやめなかった。
「本当の意味で踏ん張らなければいけないのは、今だ」と、気持ちを奮い立たせて—。そして10月の終わり、スコットランドのダンディー・ユナイテッドからのオファーを受け入れる。
16年夏には、念願だったヨーロッパ5大リーグのひとつ、フランス1部リーグのFCメスへの移籍が実現した。
「チャンスは、いつ来るかわからない。それが大きな展開になるか、小さな変化なのかも、僕たちは選べない。だからこそ、自分が何をめざしているのかをはっきりさせて、隙なく準備し続けなければいけません。そうすることで初めて、時機が来たときにチャンスをつかむことができ、それが大きなターニングポイントになるのだと思います」
川島選手は、18年夏から在籍するフランス1部、RCストラスブールとの契約を2年延長した。
「クラブでは、ここからがまた自分のスタート。試合に出なければ意味がないので、レギュラー争いをもう一度勝ちあがるため、昨季のレベルを超えていかなければなりません」
「日本代表は、選手層が厚く、競争の厳しさを感じます。GKは海外でプレーする選手や、若くてもJリーグでレギュラーを務める選手がいるので、僕ひとりではなく、皆で日本人GKのレベルを押しあげていけたらと思っています」
※掲載の情報は2021年8月1日現在のものとなります。