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ビジネスに効く 新・読書術

いまさら読書なんて、と思う人こそ参加すべき「リードフォーアクション」。混迷を極める社会の変革期に求められる新時代の知的創造力を磨く読書会とは?
創設者の国際的マーケター神田昌典氏がその真価を語る。

Text:Miwa Matsumoto

神田 昌典(かんだ まさのり)アルマ・クリエイション株式会社 代表取締役
世界最大級の読書会リードフォーアクション創設者。経営コンサルタント・作家・国際的マーケター。上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。『GQ JAPAN』(2007年11月号)では日本のトップマーケターに。2012年アマゾン年間ビジネス書売上ランキング第1位。18年国際的マーケティング賞「ECHO賞」の国際審査員に選出される。

人生100年時代、
本は自分自身を取り戻す
最強のコミュニケーションメディア

読書会「リードフォーアクション」を始めたのは10年前、東日本大震災によってどう生きていけばよいのか呆然としていた時期。参加した方々から「自分自身を取り戻すことができた」という声がたくさん届きました。

なぜ、私たちが読書会を始めたのか。それは、時代の変革期に本が極めて重要な役割を果たすからです。戦後の食糧事情も厳しい1947年、『西田幾多郎全集』発売時にも、200人の徹夜組が出るほどでした。

そして今、コロナ禍によって仕事はリモート、不要不急の外出は自粛となり、人間関係の分断が社会に影を落としています。SNSでは一見つながっているように思えても、実際に日々コミュニケーションを取る相手は数えるほどでしょう。世の中は、大きく変わっているのに狭い輪のなかにいると、人は不安になるし疑心暗鬼も生じかねない。

1947年7月10日午前2時、西田幾多郎全集第1巻の発売を前に3日前から行列ができ、
当日未明は200人の徹夜組が並んだ。
出典:福間良明著 岩波新書『「勤労青年」の教養文化史』

狭まった世界をもう一度広げるツールとして、本は非常に効果的ですが、読書に苦手意識をもっている人も多い。本は最後まで読んで正確に理解すべきといった読解力重視のパラダイムが原因かもしれません。でも、〝正しく〞読む必要なんかない。

リードフォーアクションは、今までにない「本を読まなくても参加できる読書会」です。未読のまま参加して、読書会で目次などから興味をもった部分や、たまたま開いたページを読めばいい。本を読まない時代にこそ求められる読書会なのです。

全部読まなくても、本をきっかけに自分の意見を伝えることはできます。そうすると、おもしろいことに一冊の本から全く違った感想が飛び交います。人によって注目するところが違うので、自分が読まなくてもほかの人からいくらでも学べるのです。

また、ほかの人が注目しなかったこの部分に、自分はどうして惹かれているのか、そこに気づいて深く掘り下げることが肝要。「この部分に惹かれた自分」という表現が始まり、語ることで強みがどんどん発見されていく。そこには、自身のルーツである家族や故郷、母校、会社に対する誇りといった、大切なものすべてが蓄積され、未来に対して提供できるあなたの価値になるのです。

無料の情報がいくらでも手に入るのだから、本を買う時代ではないという意見も根強くあります。確かに、情報はあふれている。けれども、本当に正しいのかどうかわからない情報を単に受信しているだけだと、身動きが取れなくなります。

2020年、オンラインで中国・シンガポール・日本をつないで開催された
リードフォーアクション読書会。
出典:アルマ・クリエイション株式会社

キラキラした情報を発信している人が眩しく見えて、自分が取るに足らない存在に思えてきて、その感情が批判へと転じることもある。そういった危うさが本能的に感じられるのか、本の販売数はコロナ前よりも伸びています。

不思議なことに、初対面の集まりで会話を成立させるのは難しいけれど、本が一冊あればそれが可能になります。本を媒介にすると、ひとりの人間として立場を超えてつながることができ、自分の感動した部分を伝えて表現力を磨く場にもなります。そのためにも、自分は本から何を得たいのか目的を明確にしておきましょう。

コミュニティは、今後ますますパーパスドリブン型が主流になり、リードフォーアクションで自分の目的を表現すると、会社を超えた大きなコミュニティや世界とつながり始めます。だから、「本を手に取るときは目標を定める」を習慣化するのです。すると、仕事上でもこれは何を目的にして自分はどういう価値を提供できるのだろうと考え、大きな効果が発揮されるようになります。

もうひとつ、小さな一歩でよいから本から得たことを行動に移すのが大切。それによって、はじめて知識が身になるからです。例えば、感動したことを仲間に語るうちに、本という鏡に映し出された才能が解き放たれ本来の力が発揮される。本から得られた感動を日常的に体現できるようになるのは、非常に楽しいプロセスです。

人生100年時代に自分で生計を立てていくのはなかなか難しい。それは、自分が何に向いているかわからないからです。

ところが、読書会に何度か参加していると、このトピックスについて自分は意外に経験を積んでいるなということを周りから気づかされる。その分野の専門性を深めるために、読書会のファシリテーター(※)になって周りに声をかけてみましょう。すると、リーダーシップが発現し、多様な意見をまとめる自分自身のコミュニティが生まれ、やがて周囲から専門家としてみなされるようになります。会社の複雑な人間関係に左右されない、理想的なリーダー養成トレーニングでもあるのです。

こうして、自分の強みを生かした専門分野をもてれば、選択肢ができるわけです。それを足掛かりに会社のなかでプロジェクトを起こすもよし、社外で能力や生きがいを存分に発揮するもよし。ファシリテーターから起業した、著者になったなどという事例もたくさんあります。

※ファシリテーター(リーディング・ファシリテーター)は、読書会などを企画・開催し、参加者が多くの気づきを得られるよう導く。

看護師として生涯現役で幸せに働き続けられる自分と看護師の理想的な在り方を考えるをコンセプトに活動する「me&nurse」では、16人の看護師がファシリテーターとなって活動しています。有資格者でありながら看護師をしていない人は約70万人。その背景には、献身的な介護や夜勤もこなさなければならず離婚率も高い、人のためには尽くせるけれど自分には自信がもてない、といった現実があります。

そこまで追いつめられていた看護師たちが、「me&nurse」で自分を取り戻し、日々の仕事にもう一度取り組めるようになったのです。

現在も、職場や患者さんとのコミュニケーションを向上させ、地域社会に貢献し続けています。さらに、フィンランドの大学院で医療を学んでいる看護師がオンラインでつながり、現地の医療情報を発信するフィンランド発の読書会を継続しています。

日本では、読書といえば秋ですが、ワールドリーディングデイは4月23日で、世界中で本のイベントが開催されます。リードフォーアクションも2018年から中国のパートナーとともに読書会を開催し、コロナ禍の20年はオンラインで日本と中国、シンガポールをつないだ読書会を実現、参加者数も増えました。

22年は、アジア圏を超えた全世界とつながるリードフォーアクションにするべく、わくわくしながら計画しています。


ビジネスに活かせる知的創造型読書には
シンプルな3つの原則がある

世界のビジネスエリートが例外なく身につけている幅広い教養は、哲学から経済学、自然科学といった膨大で多岐にわたる読書から得たもの。

「知的筋力」を鍛えるために、まずは知的創造型読書をマスターしよう。

①目的志向型の読書をする

読む前に、「なぜ、この本を読むのか」。読書の目的を明確にする。

ただ漠然と読む(受動的読書)
 ▼
脳は情報の「要・不要」を判断できない。得られるものが少なく、結果や行動に結びつかない。

明確な目的をもって読む(能動的読書)
 ▼
必要な情報が目に飛び込んでくる。膨大な情報から正しい情報や、読まなくてよい場所も見つけられる。オリジナルの知識を創造できるようになる。

②複数の人と読む

最初にその本を読む目的をお互いに発表し、数分読んだら内容を話し合うことを繰り返す。

ひとりで読む
 ▼
時間をかけても自分が読んだ部分、理解した範囲の知識にとどまる。

複数人で読む
 ▼
参加者それぞれの異なる視座や感性、知識をもとに得た知識をもとに得た知見を共有することにより、驚くほど短時間で本の理解度を深めることができる。

③即、行動に結びつける

読書から得た有益な知識や情報は、行動に移してこそ真価を発揮する。

読んだだけで満足する
 ▼
読了することが目的になっていると、読書の価値を充分に引き出すことができず、仕事や日常生活に活かせない。

目的達成に向けて行動に移す
 ▼
読書会で気づいた自分自身の強みや解決すべき問題、改善の糸口から、具体的な行動計画を立てて目的の達成へとつなげられる。

知的創造型読書への第一歩は、無意識のうちに刷り込まれている既成概念から自由になることだ。例えば、本はひとりで読むもの、読書は孤独なものだと思い込んでいないだろうか。

あるいは、最初から一字一句、すべて読んで著者の主張を正しく理解するべきである、と。こうした旧来型の読書観から解き放たれると、一冊を読む時間は圧倒的に短くなり、求めている情報に対する感度が格段にアップする。

3つの原則を実行すれば、誰でも知的創造型の読書ができるようになるのだ。


※掲載の情報は2021年9月1日現在のものとなります。