経営者に聞く革新のストーリー【坊垣 佳奈氏】~vol.5~
先人から受け継いだ知見と経験を次世代に継承し、新たな技術により、さらなる革新へと繋げていく。
そんなリーダーたちのインサイドストーリーをご紹介。
◇
今回登場するのは、Makuake(マクアケ)の共同創業者である坊垣佳奈氏。
Makuakeを通じて応援購入サービスという概念を広めました。
サイバーエージェント新卒1年目から子会社を立ち上げたり
70人以上のスタッフと1 on 1 コミュニケーションを実践し続けたり。
エピソード満載の経営者人生から、
ビジネス戦略のヒントが見えてくるかもしれません。
Text:Fumiko Teshiba
Photograph:Keisuke Nakamura
自立心の芽生えは大学時代
生まれは母の里帰り出産で兵庫県姫路市ですが、父が研究学園都市となったつくば市で研究者をしていて、高校生までをつくばで過ごしました。
新たに作られた都市なので歴史もなく、誰もが新参者のような環境。
だからこそ、さまざまなアイデンティティを持つ人たちが集まってきていたのでしょう。クラスに外国籍の友だちがいたりと国際色も豊かで、幼い頃から「みんなそれぞれ」という価値観の中で育ちました。
「こうしたい」と自分の明確な意思をアクションにし始めた認識があるのは大学時代。潰れそうなサッカーサークルを立て直した忘れられない思い出があります。
試合ができる人数ですらなかったので、新入生が入る時期にとにかく男子部員を集めるためにまずは女子マネージャーを募るという異色の作戦に。その結果、男子部員を多く集めることができました。チーム名やユニフォームまで変えてイメージも一新。
このサークルは、今でも存続する大きな団体のひとつになっています。
この経験は、「アントレプレナーシップがある」と評されたり、就職活動で大きなインパクトを与えることができたエピソードだと思います。
ありがたいことにいくつかの内定をいただくことができたのですが、当時はもっとも知られていなかったベンチャー企業、サイバーエージェントへ就職。大手に入ることが当たり前とされていたのでもちろん悩みました。
しかし、女性が管理職として活躍したり、こどもがいても両立して働いたりするイメージが湧かない時代だったので、個の力をつけなければと思ったのです。会社のレールに乗っているだけでは、選ぶ権利さえ得られないのではと。その時の選択は間違っていなかったと、今では自信を持って言えます。
新卒から会社経営に携わる
サイバーエージェントでは、1年目から子会社の立ち上げに関わりました。
会社の作り方、人を雇うこと、従業員を背負って働くこと、アルバイトのマネジメント。子会社なのでゼロからの創業とはまた違った状況だったとは思いますが、経営の一端を担うという稀有な経験をさせてもらいました。
本来であれば下積みの期間に先輩から教わることを、完全なる前線で自ら考えてやらなければなりませんでしたが、失敗してもそれ以上に学ぶことが大きいと身をもって体験しました。
おかげで、そのあとも足を踏み出すことへの恐怖心がなくなりました。
豊かな購入体験を提供する
Makuakeは、クラウドファンディングの業態で11年前にスタートしました。
日本では、東日本大震災をきっかけにクラウドファンディングが脚光を浴び、始まっています。そのため、寄付というイメージが一般に強く根づいています。
そうした使い方も重要である一方、寄付ではなく消費を担うプラットフォームとして、日本産業の支援にこの仕組みを使えないかと考えました。しかし、同じ言葉で語ってしまうと正しい理解が進まないと思い、創業3年目くらいでビジョンやタグラインを策定し直しました。
以降はクラウドファンディングという概念の中でサービスを提供するのではなく、オリジナルのあり方を模索する方向にシフト。
〝アタラシイものや体験の応援購入サービス〟として運営しています。
購入型のクラウドファンディングは、実はEコマース(EC)と同じで、物を売る側と買う側を仲介する立ち位置。
Makuakeでも、商品や体験を一般販売する前に掲載して、テストマーケティングやロイヤルティの高い顧客獲得のために活用するほか、PRやブランディングへの期待も込めて支持いただいているところがあります。
消費者の皆様をサポーターと呼んでいますが、サポーターの方々にとってMakuakeは、新たな商品や体験を世に出る前にいち早く得られるサイトと認識いただいていると思います。
いわゆるEコマースが商品をいかに最短でカートに入れてもらえるか、いかに早く手元に届けるかに重きを置いたサイト構成になっているのに対し、Makuakeは非常にページが長く、じっくり読んで買ってほしいというスタンスです。〝応援購入〟を掲げる所以はここにあると思います。
ほかでは買えないものが買える、購入体験自体が豊かなものであるというところが、オリジナリティの部分かなと。これが「Makuakeっておもしろい」「なんだか気持ちがいい」につながって、サポーターの定着をうながせる。そんなイメージで運営しています。
サイトの信頼性を高めるための丁寧な審査
特に日本は、購入して届いたものがすぐ壊れる、イメージしていたものと違う、書かれてた規定と違うといったことにお客様は非常に敏感。そうした厳しい目にさらされる以上、ちゃんと作らなければならないので、新しいものが生まれづらいところがあります。
ただ、私たちは新しいものが生まれやすいサイトでありたいので、仕組みでしっかり担保しながら、厳しい目にも応えていく、そのバランスを考えた審査を丁寧にしています。
例えばモビリティなど、まだ法整備が十分でない領域も扱っているので、何か事故があった時には、直接責任を問われる立場ではなくてもサイトの信用性に関わってきます。
化粧品も食品も飲食店も扱っており、刻々と変わるそれぞれの領域の法律を、都度把握しておく必要があります。法だけでカバーできないところは独自のルールで整理しています。
非常に大変な部分ですが、安心してマクアケでお金を出せるという状況をどう作っていくかが、サービスの根幹。上場審査の際にも、その部分を一番見られていたように思います。
1 on 1のコミュニケーション
組織マネジメントにおいては、可能な限り直接話すことを最重視しています。今は執行役員が実施してくれていますが、以前は毎月70〜80人の社員とひとりずつ、直接対話する場を設けていました。
社員が200人を超えてくると、話したことがないという人が出てきますが、私にとっては自分の目と耳で確かめることがとても大切です。社員にとっても、私がどんな人間で何を考えているのかわかっているという安心感は大きいのではと思っています。
会社を動かすのは社員であり社員の働きである以上、彼らが気持ちよくパフォーマンスを出せる状況をどう作るか。組織戦略や経営戦略も大事ですが、それをどう遂行していくか。そのエネルギーを生成するのは、コミュニケーションだと思うのです。
これはサイバーエージェント時代から行っていることです。一度上司に、「何人までやればいいですか」と尋ねたことがあるんですよ。大事に思う気持ちは変わらないけれども、目がまわるほど忙しい。どうしたらいいだろうって。すると、「自分のパフォーマンスがこれ以上重要なところに割けなくなるまで、何人でもやるべきだ」とアドバイスされました。それくらい大事にしていますね。
多様な個性が活躍する社会実現のために
XTalent(クロスタレント)という会社の経営戦略アドバイザーを務めているのですが、この会社のテーマはワーキングペアレンツを支援すること。
私自身、現在1歳になるこどもがいるのですが、主人と協力し合わないと全く成り立たないので、女性だけが頑張る、男性が育休を取ればいい、そんな単純な話ではないと思うことが多々あります。
個人が頑張らないとどうにもならない状況をもっと変えていけると思っているので、多様な価値観のもと、多様な個性が生きる社会をどう作っていくかは私自身にとっても今後の大きなビジョンのひとつです。
また、父からもらった
「この世に生まれたからにはこの世に生まれた証を残せ」
というメッセージを心にいつもとどめています。
社会にプラスになる何かを残せた、人との深いつながりの中でポジティブな影響を与えられた、そう思えることを積み重ねていきたいですね。
そうして自分が生きてきた証を残すという感覚で生きられると、死ぬときにやりきったと思えるのかもしれません。
※インタビューの情報は2024年10月1日現在のものとなります。
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