〈SAMURAI BLUEの礎を築くもの・中編〉SAMURAI BLUE STAFFのチカラ
サッカー日本代表を形作るのは選手や監督、コーチだけではない。多くのスタッフがそれぞれの専門分野を活かし支える。
4名のスタッフの4つのチカラを、中後編に分け紹介する。
※この記事は中編です。前編はコチラ
後編はコチラ
Text:Takaomi Matsubara,Rie Tamura
タイトル写真:JFA
分析するチカラ
~テクニカルスタッフ・寺門 大輔~
スカウティングとは、対戦チームの情報を入手し分析すること。情報戦が激しいサッカーにおいてスカウティング担当は不可欠な存在だ。
前回のW杯もスタッフとして支えた寺門大輔氏に、スカウティングが果たすべき役割をうかがった。
肝心なのは分析した情報を
選手にどう伝えるか
16年のリオデジャネイロ五輪の頃からスカウティング担当として日本代表に関わる寺門大輔氏。W杯ロシア大会など大舞台を経験してきたベテランだが、その仕事内容はどのようなものなのか。
「どれだけ対戦相手の情報を事細かに探れるか、それをどれだけわかりやすく監督や選手に伝えられるかが重要となります」
「試合の前は、対戦相手の試合を映像で観たり、実際に観に行ったりしますが、その際も相手が日本代表に対してどのように向かってくるかを想定しながら観察しなくてはならない。試合中はスタンドにいて、インカム越しにベンチにいるコーチへ状況分析を伝えたり、ハーフタイムには映像を見ながら選手に修正点を示したりします」
もちろん試合が終わったあとの分析も重要な仕事のひとつだ。
「今は試合後にあらゆるデータがフィードバックされてくるので、それを参考に監督やコーチと修正すべき点を洗い出し、選手に伝えるためのデータや映像をコーチと一緒に作ってミーティングのサポートをします」
端的にいうと、対戦相手の強みと弱みを把握すること、そのうえで日本代表の強みを最大限に引き出す方法を模索する。それが分析作業のカギとなる。
けれども、スカウティングの仕事は資料や映像でそれを示して終わりではない、と寺門氏は言う。
「最終的な目標は選手が勝利につながるプレーをすることです。だから、われわれの仕事は選手にどれだけ伝わったかがすべてなんです」
ヨーロッパでプレーする選手も多く、クラブチームによって戦術もコミュニケーションの取り方もさまざまだ。
「ミーティングが多い監督もいるし、数分しかやらない監督もいる。それぞれ普段プレーしている状況が違うので、一人ひとりの現状をリサーチして、その人にとって入りやすい話し方をします。伝える中身は同じでも、選手によって伝え方を変えたりしますね」
そんな寺門氏は今回のカタール大会のグループリーグ対戦国について、どのように分析しているのだろうか。
「まずドイツは初戦で日本を圧倒したいと思っているでしょう。その想いを逆手にとって、彼らのメンタルを覆せるかどうか。また、強豪国のドイツ、スペインは情報もオープンですが、2戦目のコスタリカはその点では難しい。柔軟に戦い方を変えられるチームでもあるので、それを想定したうえで、その先を行く戦術が必要。結果いかんで状況が変わる大事な試合です」
アジア最終予選の最初の3戦では、1勝2敗と日本代表は予想外に苦しんだ。しかし、その苦い経験がチームを強くしていると寺門氏は見ている。
「あのときは苦しかったですけど、むしろ次勝つためにはどうしたらいいか、という話が活発に出てきた。短い期間で監督、選手、スタッフが考え抜いて出した答えが、あのオーストラリア戦の勝利だった。戦術も大事ですが、チーム全体が諦めずに一丸となって次の試合へ向かったことが、今後に活かされていくだろうと思います」
チームも個々の選手も、良いときもあれば悪いときもある。だが、どんなときも変わらず次の試合に向けて最善を尽くすことが自らの使命だと語る。
「やっぱり選手がいいプレーで結果を出して笑顔でロッカールームに帰って来るのを見ると、本当に良かったなと思いますね。その瞬間のためにやっているといっても過言ではない。笑顔でゲームを終える。それが一番のよろこびだし、最終的なゴールです」
整えるチカラ
~ フィジカルコーチ・松本 良一~
試合で最高のパフォーマンスを発揮するには、試合前の準備が必要。準備とは、選手たちの体を整えること。それを担うのがフィジカルコーチの松本良一氏だ。試合に向かう選手をどのように支えているのだろうか。
最高のパフォーマンスを求めて
個々の選手の体を調整する
サッカー経験は大学3年までという松本良一氏。その後、コーチ業に興味をもち大学院へと進学した。当時、この分野は仕事として確立されておらず、大学のチームから始めて徐々に結果を出し、Jリーグで仕事をするまでになった。現在は日本代表のコンディショニングを担う専任フィジカルコーチとして活躍している。
コンディショニングとは、まずひとつは選手が実際にボールに触れるまでの準備だ。例えば練習では、柔軟性を高めるエクササイズや心拍数をあげる運動などをこなし、体を慣らして本格的なボールを用いたトレーニングに入る。
「普段の練習でも行うことですが、これが試合になると最高のパフォーマンスを発揮するための準備に変わってきます。まず、先発メンバーとサブの選手で分かれ、試合にすぐ出る場合はどんどんペースをあげていきますが、サブの選手は多少抑えながらウォーミングアップします」
「試合中もいろいろなトラブルがあるので、逐一試合をチェックしながらトップパフォーマンスに導く準備をさせる。そこが難しいところです」
実際のメニューについては選手のポジションに合わせて細部にわたり設定される。怪我明けの選手のケアなど、個々の選手に対して綿密にメニューが組まれるが、なかでも難しいのが海外遠征時のコンディショニングだ。
「今はヨーロッパでプレーする選手が多いので、調整が非常に大変です。同じチームなのに2つの国に分かれているように感じますね」
「例えばW杯最終予選のオーストラリア戦では、現地は気温20℃前後で湿度も低く、日本から行く場合は快適な天候です。でも、ヨーロッパから来る選手は24時間近い長距離移動で時差もあるうえ、5~10℃も高い気温の中でプレーすることになります」
「調整の時間は1~2日しかないので、飛行機の中でどのタイミングで寝て、どのタイミングで食べるかなど、移動中も究極の調整をしなくてはいけない。でも、時差や気温との闘いは国際試合にはつきもので、気温の高いカタールで行われるW杯でも同じですね」
また監督と選手、双方とのやりとりが多い仕事ゆえの難しさもあるという。
「試合に出場する選手としない選手ではモチベーションに差が出ます。その辺りの選手の気持ちを汲み取って、監督やコーチングスタッフにつなげるのも私の重要な役目です」
「あとは監督に対しても言わなくてはならないときがある。時差や気温差の問題で、監督がイメージしているトレーニングができない場合があります。監督にも培ってきたイメージがあるので、それを伝えるのは一番キツイ仕事ですね」
そう笑いながら話す松本氏だが、森保一監督には特別な想いがある。監督とはJリーグのチームでもともに戦い、続いて東京五輪、そしてA代表の監督に森保氏が就任することでW杯という夢の舞台へと一緒に踏み出すことになった。
「大学生の頃、日本サッカーが一番W杯に近づいた試合がありました。ドーハの悲劇。私は勝った負けたで泣くタイプではないのですが、最後の最後でゴールを決められたとき号泣してしまって。あのときプレーしていた選手に森保監督もいて、それが今、一緒にW杯に臨もうとしている。本当に感慨深いものがあります」
選手にとってW杯は人生の大一番であり、それに関われることに深い感動を覚える、と松本氏は話す。
「ですから、自分の知識や経験、持てるものすべてを選手に捧げられるよう万全の準備をしています」
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※掲載の情報は2022年11月1日現在のものとなります。
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