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〈SAMURAI BLUEの礎を築くもの・後編〉SAMURAI BLUE STAFFのチカラ

サッカー日本代表を形作るのは選手や監督、コーチだけではない。多くのスタッフがそれぞれの専門分野を活かし支える。

4名のスタッフの4つのチカラを、中後編に分け紹介する。

※この記事は後編です。前編はコチラ
 中編はコチラ

Text:Takaomi Matsubara,Rie Tamura
タイトル写真:JFA

準備するチカラ
~キットマネージャー・麻生 英雄~

キットマネージャーの「キット」とは用具のこと。その名のとおり、用具の準備や管理をするのが主な仕事だ。

そんな裏方を長年務め、日本代表を支えてきた麻生英雄氏。その献身的な仕事ぶりはチームの力の源でもある。

麻生 英雄(あそう ひでお)
SAMURAI BLUE(サッカー日本代表)キットマネージャー

1975年生まれ。中学時代は野球部、高校時代はバドミントン部に所属し、就職求人誌で横浜フリューゲルス(のちに横浜F・マリノスに合併)のアシスタントマネジャー募集を知り、応募。1995年から同クラブで働き、1997年から日本代表スタッフに。初出場した1998年のフランス大会から6大会連続でW杯に帯同。

手間と努力を惜しまず
一歩先を考えて支え続ける

練習が始まる2時間前にグラウンドに到着し、ボールに空気を入れたり、用具を準備する。練習中もすべてが滞りなく進むようボール拾いや片づけで忙しい。練習が終わったら洗濯。大量の練習着をコインランドリーで洗い、翌日の練習に備える。

これがキットマネージャーの普段の仕事であり、麻生英雄氏が20年以上続けていることだ。

「試合の日も2時間前にはスタジアムへ行きます。ロッカールームでユニフォームの準備、そのあとはピッチでウォーミングアップのフォロー。試合が始まったらロッカールームでハーフタイム中の着替えの準備、それもシャツだけ替える人、ソックスまで替える人と選手それぞれなんですが、きっちり選手ごとに用意します。後半は帰る準備ですね。速やかに撤収できるようどんどん片づけていきます」

試合中はほとんどロッカールームの中。テレビで試合経過は確認するが、それも後半は片づけで忙しくほとんど見ることはない。

「いい試合、いい練習をするための準備をするのが自分の仕事ですから」

と自らの役割をまっとうする、まさに仕事人だ。

日本代表が出場した6回のW杯すべてに帯同し、海外遠征の経験も誰より豊富。

「選手、スタッフ合わせて総勢50人以上で移動するので、海外へ行くのは空港で荷物を預けるだけでも一苦労です。時間もかかるし、きちんと預けないとユニフォームだって失くしかねない。また、国によって異なる環境にも対応しなくてはなりません。それには過去の経験が活きてきますね」

「例えば前回のW杯予選で行ったミャンマーは練習会場にロッカールームがなかった。というか、青空ロッカールーム(笑)。選手たちは着替えもままならない……というときに、ちょうど持っていたビニールシートが目隠しに役立った。いつも何枚か持ち歩いていますが、結構便利なんです。
些細なことですが、そういうものを遠征時には準備しておきます。そのとき使わなかったとしても、絶対どこかで役に立ちますから」

試合前の慌ただしいロッカールームで黙々と作業をする麻生氏(左)。
各選手のオーダ ーに合わせてユニフォームなどを準備。
©JFA

自身の体調管理にも余念がない。遠征前には生ものは食べない。怪我をしないよう普段から自転車にも乗らない。

「元気じゃないと人のサポートなんてできません。体調が良くないと他人のことまで気が回らないものです」

常に一歩先を考えて準備する姿勢は一貫して献身的で、周りからの信頼も厚い。それをうかがわせるエピソードがある。97年、W杯フランス大会最終予選を前に代表監督が加茂周氏から岡田武史氏に替わったときのことだ。

「そのときの合宿で岡田さんが言った言葉が忘れられません。『監督である自分は家の大黒柱だ。でもいくら大黒柱が立て直そうとしても、基礎がしっかりしていなければ柱も倒れてしまう。サポートスタッフが基礎となって柱である自分を支えてほしい』。そう監督から熱く語られ、スタッフの重要性を改めて感じましたし、監督のためチームのために頑張ろうと決意しました」

陰で支える裏方であり、表舞台に立つ選手と立場は真逆だが、「気持ちは同じ」だと感じることもある。

「試合後に荷物を運んでいると、その日試合に出られなかった選手が『これ運びますよ』って手伝ってくれることがあります。試合に出た選手より少し時間が余りますから。悔しい思いをしているはずですが、その少しの時間でチームのために何かしたいと手伝ってくれる……」

チームのため、そしてチームの勝利のために何ができるか。選手もサポートスタッフもめざすものは一緒だ。それがサムライブルーの底力でもある。


蓄えるチカラ
~専属シェフ・西 芳照~

トップアスリートにとって食事は大切だ。選手が求めているのは、栄養面の充実はもちろんのこと、気分があがるおいしく楽しい食事。

大会がどんな国で行われようとも、それを叶えてくれるのが専属シェフの西芳照氏だ。

西 芳照(にし よしてる)
SAMURAI BLUE(サッカー日本代表)

1962年生まれ。1997年に開所したJ ヴィレッジでレストランの総料理長を務める。2004年より日本代表の専属シェフを兼任。2006年以降のW 杯4大会を含め、130回以上の日本代表の海外遠征試合に帯同し、選手やスタッフに食事を提供する役割を担っている。

食欲も心も満たす料理で
90分間走れる体を作る

日本代表の専属シェフを務めるようになったのは2004年。その年の中東でのW杯最終予選中、選手の間で食中毒が発生し、当時のジーコ監督が大会中の調理場の衛生管理を徹底してほしいと願い出たのがきっかけだ。

以降、専属シェフとして西芳照氏が帯同することになった。

「たいてい滞在するホテルのスタッフと一緒に作りますが、メニューは私と管理栄養士、ホテルのシェフで考えます。朝昼晩とすべてブッフェスタイル。朝は6時頃から準備してご飯と味噌汁とおかず1品、それと卵料理を目の前で作ります。お昼は13時くらい。肉料理、魚料理、副菜が各2品、温野菜、パスタ、味噌汁、サラダ、デザートなど」

「昼食後は夕食の準備をし、少し休憩をとって17時半くらいから夕食の仕上げに取りかかります。午後からの練習量が多いので食事も多めです」

言うまでもなく栄養面にも細心の注意を払っている。試合の3日前からは炭水化物中心のメニューに切り替える。

グリコーゲンローディングといい、肝臓と筋肉にエネルギー源のグリコーゲンを蓄え、90分間走れる体にするためだ。

「夕食はいつもパターンが決まっていて、試合の3日前はハンバーグ、2日前は銀だらの西京漬け、試合前日はうなぎ。どれもご飯がいっぱい食べられるおかずです」

試合の直前、直後はおにぎりを握って持って行く。そして、試合のあとの夕食は選手も心待ちにしているという〝アフターマッチカレー〟。

「試合が終わった夜にカレーを出すのが恒例になっていて、選手たちも『カレー楽しみにしてるよ』と言ってくれます。肉や緑黄色野菜がたっぷりで栄養も充実しているし、ご飯で炭水化物も摂れる。それからサッと短時間で食べられるのもいい。試合後は早く部屋に戻って、家族と電話したり体を休めたりしたいでしょうから」

目の前で調理する「ライブクッキング」は西シェフならではのもの。
作り立てのパスタが 選手たちの食欲をそそる。
©JFA

心がけているのは選手皆が食べやすく、箸が進むような料理を出すこと。朝は目の前でオムレツを作ったり、夜は肉を焼いたりと、なるべくライブで調理するのもそういった配慮からだ。

「目の前で作っていると、選手の顔色とか食べっぷりから今の調子が見てとれます。落ち込んでるなと思ったら声をかけたり、『調子どう?』なんて話をしたり。皆家族のようなもので、海外遠征は必ず一緒ですから自然と選手との距離も近くなります」

西氏のコックコートの右下には「24」という番号がある。サポーターナンバーで、特別に名前にちなんだ数字をもらった。そこには、西氏の心のこもったサポートへの言い尽くせない感謝が込められている。

今回のカタール大会も、西氏はいつもと同じように選手に先立って現地入りする。食料を調達したり、現地のシェフと打ち合わせをしたりするためだ。

「前もって材料を注文しても、当日になって届かないことが海外ではよくあります。今回はそんなことがないよう抜かりなく備えたい」

W杯では毎回、西氏が考案するサプライズメニューが登場する。現地の食材を見繕って、選手たちがあっと驚くような料理を出すのだ。

「ロシアではたまたま冷蔵庫にあった牛タンをライブで焼いたり、確か寿司を握ったこともあります。でもそれは初戦からはやりません。勝ちあがってきてからのお楽しみです」

中東のカタールで出るサプライズメニューは果たしてどんなものになるのか。日本代表が勝ち進んだ暁には、それを想像して楽しみたいものだ。


〈SAMURAI BLUEの礎を築くもの・前編〉サッカー日本代表を支える真のチーム力 はコチラ


〈SAMURAI BLUEの礎を築くもの・中編〉SAMURAI BLUE STAFFのチカラ はコチラ


※掲載の情報は2022年11月1日現在のものとなります。


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