見出し画像

経営者に聞く革新のストーリー【斎藤 佑樹氏】~vol.7~

先人から受け継いだ知見と経験を次世代に継承し、新たな技術により、さらなる革新へと繋げていく。
そんなリーダーたちのインサイドストーリーをご紹介。

    ◇

注目を集めた高校時代。
苦しんだプロ野球時代。
それでも野球界への想いは果てしなく
「野球未来づくり」を掲げて会社を立ちあげた斎藤佑樹氏。
 
野球場づくり、ニュースキャスター、
手打ち野球「Baseball5」のスーパーバイザーなど
さまざまな活動を展開しています。
可能性を感じたことには全て挑戦するマインドで
野球への〝想いを投じ〟続けています。


Text:Fumiko Teshiba
Photograph:Keisuke Nakamura


株式会社斎藤佑樹 代表取締役
斎藤 佑樹(さいとう ゆうき)

早稲田実業学校高等部3年時の2006年、エースとして夏の甲子園に出場し全国制覇。「ハンカチ王子」として大フィーバーを巻き起こした。
2010年ドラフト1位で北海道日本ハムファイターズに入団。ルーキーイヤーから6勝をマークし、プロ2年目の2012年には開幕投手も務めたが、度重なるケガに悩まされ、2021年10月に引退を発表。
引退後、「株式会社斎藤佑樹」を設立し、「野球未来づくり」をビジョンに掲げて多岐に渡り活動している。

文武両道を貫く

父と3歳年上の兄が野球をやっていたので、その影響で小学1年生から野球を始めました。
4年生からピッチャーに。それからずっとピッチャーでした。

両親から文武両道を説かれていたので、当時の漠然とした夢は、プロ野球選手、弁護士、救命救急士の3択。
一本化したのは高校時代で、早稲田実業学校高等部を受験しました。ここに来たからには野球を頑張ろうという気持ちが強くなり、甲子園も視野に入って、目標がプロ野球選手になりました。

とはいえ、文武両道を貫くべく、勉学にも力を入れ、小学5年生から塾に通っていたのですが、試験であまり良い成績を収めることができず、一度「こんな点数だったらもう塾には通わせない」と、両親にとても怒られた経験があります。

野球で怒られた以上にショックで、野球と勉強の両立を意識するというより、とにかくスパルタの中やってきたという感じでした。

苦しい時間を糧に

高校野球・大学野球、そして憧れていたプロの世界へ。
「どれだけ活躍できるか」と生意気なことを考えていましたが、すばらしい選手たちに高校野球や大学野球との圧倒的な差を感じて、「どうすれば生き残れるんだろう?」と、現実を突きつけられることになりました。

それまではある程度、思い描く打ち取り方ができていたと思います。多くの三振が取れたし、完投や完封もありました。しかしプロでは、なかなかそうはいかない。
すべての投球を弾き返されたり、ときには見送られたり、打ち込まれたりすることが何度もあって、技術を高める努力はもちろん、相手の分析も必要だと痛感しました。
 
引退後の2021年に設立した「株式会社斎藤佑樹」のビジョンは、「野球未来づくり」です。
おそらく私は、ほかの選手とは異なる野球人生を歩んできたと思っています。
高校時代には、多くの方に注目していただきました。
その後、大学に進学してプロ野球に進みましたが、ケガがあったり、活躍もできなかったりする中で、11年間もプレーさせてもらいました。プロ野球選手は結果を出せなければクビになるもの。苦しい時間でしたが、やっぱりその11年という時間は大きな経験だったし、ほかの選手が得られなかっただろう貴重な体験です。

そのときの自分を課題として捉えたときに、その課題解決ができるような、野球界への恩返しをしたいなと思い、そこで会社を立ちあげました。

こどもたち専用の野球場を提供したい

特に東京は、キャッチボールできる場所も少ないので、「外苑前野球ジム」を運営する株式会社Knowhere(ノーウェア)と一緒に環境づくりをしたり、北海道の長沼町で野球場づくりも進めています。
これは自分自身の経験でもあるのですが、日本のこどもたちの多くは、河川敷や小学校の校庭で野球をするので、フェンスがない。ランニングホームランばかりになるんです。

でもアメリカにはこどもたち専用サイズの野球場があって、フェンスをオーバーするホームランが打てる。プロ野球選手と同じようにダイヤモンドをゆっくり一周してホームに戻ってくることができます。それはきっと、ランニングホームランとは違うよろこびです。

こどもたち専用サイズの野球場があれば、野球への関わり方も変わる。
アメリカやオーストラリアの球場を視察しながら、自分の夢でもあり、野球人であれば誰しもが夢見る野球場を叶えたいと、活動しています。

一番印象に残っているのは、フィラデルフィアの野球場です。夏の期間だけ開かれていて、リトルリーグの世界大会が行われる1〜2週間の間には、世界中からチームが集結し、約4万人が観戦に訪れます。

2022年の決勝戦を見に行ったのですが、サヨナラホームランでゲームが決まりました。その瞬間、ベンチが沸き、ホームランを打った選手が、ガッツポーズをしながらホームベースまでゆっくり走ってチームメイトに迎えられていました。その姿を見たときに、こんな野球場にしたいと思いましたね。
 
野球の最大のよろこびは、打って遠くに飛ばすことと、三振を取ることだと思っています。
初めてバットを持って、父が下から投げるボールを打ったときのよろこび。
初めてピッチャーをやって、三振でワンアウトが取れたときの感動。

その経験の連なりをこどもたちに感じてもらいたい想いが、野球場づくりの根本にあります。
「なぜピッチャーだったのに、バッター側から考えるのか?」とよく聞かれるのですが、ホームランは非常に悔しかったけれども、その瞬間こそ盛りあがりますから。それを阻止するために、ピッチャーはもっともっと頑張ろうと燃えるはずです。

プロセスエコノミーを共有する

長沼町の野球場は、現段階で30%ほどの完成率です。あたたかくなって雪が溶けたら、急ピッチでまずは野球ができる状態にしたいと考えています。
理想はフェンスやベンチ、スタンドまであるといいのですが、少しずつ進めていきます。また、野球に興味がなくても楽しんでいただけるように、町の皆さんや多くの方に開かれたコミュニティの場にしたいと思っています。

同じように少年野球場をつくられた栗山英樹(元 北海道日本ハムファイターズ監督)氏には、「急いでつくったらおもしろくないよ。野球場をつくっているときの過程を楽しんで時間をかけて」とアドバイスをもらいました。
一つひとつのパーツの成長を観察する。そして、できあがった球場を眺めて、コーヒーを飲む。それまで丁寧に時間をかけて、楽しんでいきたいですね。そのプロセスエコノミーを、周りの皆さんにも見てもらいたいです。

建設コストをおさえるため、自分でも作業できるよう建設重機や電動ノコギリの資格を取得しました。もちろんプロの方と比べてクオリティに差はありますが、挑戦したいという思いです。
映画「フィールド・オブ・ドリームス」のケビン・コスナーになりきって。

こどもたちのための野球場が全国にひとつでも多くできたらいいけれども、100ヵ所をつくるのは難しい。自分が実践した野球場づくりのハウツーをYouTubeなどで共有することで、「お金をかけずにできるんだ、自分の町にもつくりたい」と思ってもらえたらうれしいですね。

ネクストキャリアの描き方

日本テレビ「news every.」のニュースキャスターのお話をいただいたときは、本当に驚きました。
自身でも感じていた滑舌の問題、スポーツではなく報道を担当することも含めて、「自分でいいのか?」と悩んだのですが、誘ってくださった方々の熱い想いに共感し、やってみようと思い切りました。優秀なスタッフの皆さんに助けられ、日々勉強しながら挑戦しています。

地方ロケに行くことも多く、野球界以外の方と会う機会が増えました。それまでは広がってもスポーツの分野に留まっていましたが、むしろ私を知らない方とお会いすることで、新しい発見があります。こうした発見を野球界に活かしたり、野球未来づくりにもつなげたりできるので、非常に得がたい経験だと思っています。
 
今年の1月に、手打ち野球「Baseball5(B5)」のスーパーバイザーに就任しました。野球に似ていますが、まったく異なる競技でもあります。
1チーム男女混合5人制で、コートサイズも21メートル四方で、野球場ほど広いスペースを必要としません。まさにこれからのアーバンスポーツとして、エンターテインメントとしての可能性を秘めています。
組織づくりも含めてB5だからこそできる取り組みは、野球界にとってもプラスになると信じています。

支えになっている言葉

引退を決めたとき、真っ先に栗山英樹氏に電話をしました。
「悔いはないか?」と尋ねられ「ない」と答えると、すぐに「わかった。もう後ろを振り返るのはやめよう。前だけを見て、明るく笑顔で頑張っていこう」と言ってくれたんです。
一度考えてみよう、会ってもう一回話そうではなく、決断の背中を押してくれた。だから前を向くことができましたね。
 
現役時代に読んで刺激を受けた本にスティーブン・R・コヴィー『7つの習慣』(キングベアー出版)と岸見一郎、古賀史健『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)があります。
いずれにも「自分にコントロールできないことを考えるのはやめて、コントロールできること、変えられることだけを考えて行動しよう」と書かれています。

例えば、自分に変えられることは、何を着ていくか、どんな言葉や表情で相手に接するか。変えられないことは、他人からの評価や、審判のジャッジなど。これらをはっきり分けると、今抱えている悩みや困難は自分ではどうしようもないから、一旦手放してできることだけに集中しようと思えます。
変えるべきことをメモに書き出してみると、意外と少ないことに気づいて、メンタルが安定するような気がします。

その中でひとつ、毎日心がけているのは、ファーストコンタクトや挨拶の際は、絶対に笑顔でいること。
取材を受けてきた側として、相手が笑顔かそうじゃないかで、話すコンディションは変わると実感してきましたから。

※インタビューの情報は2025年2月1日現在のものとなります。


🎧インタビュー記事を音声でCHECK!
通勤中、お仕事中など「ながら聴き」がオススメ!ぜひお聴きください!

Podcast 「THIS IS US Powered by SAISON CARD」にてインタビュー配信!

斎藤佑樹さんのお話を、音声でお聴きいただけます。
3月7日(金)・14日(金)
の更新をお楽しみに!



👇経営者インタビュー「経営者に聞く革新のストーリー」
 毎月連載中!