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ラグジュアリージャパン® ~人生を変える旅をしよう~

2022年、「Luxury Japan Award」が開催され、日本の文化や自然を色濃く映す宿がノミネートされた。ここ数年、旅の価値観は大きく変わり、〝ラグジュアリーな宿〟の定義も様変わりしている。

今、求められる旅体験とは何か。また、それを実現する宿とは? 日本を代表する建築家であり、今回審査委員長を務めた隈研吾氏に、新時代における旅についてうかがった。

Text:Natsuko Sugawara
タイトル写真:坐忘林


隈 研吾(くま けんご)建築家
1954年生まれ。90年、隈研吾建築都市設計事務所設立。慶應義塾大学教授、東京大学教授を経て、現在、東京大学特別教授・名誉教授。30を超える国々でプロジェクトが進行中。自然と技術と人間の新しい関係を切り開く建築を提案。主な著書に『全仕事』(大和書房)、『点・線・面』(岩波書店)、『負ける建築』(岩波書店)、『自然な建築』、『小さな建築』(岩波新書)、ほか多数。

◆ラグジュアリーな宿
 ~非日常体験のすすめ~

その場所と自分の体が
一体となる旅体験

旅とは何か。コロナ禍を経て、多くの人が旅に対する意識を新たにしたのではないだろうか。数々のホテルを手がけてきた建築家の隈研吾氏もそのひとりであり、旅することを長らくライフワークにしてきたという。

「コロナの影響で一時旅が制限されましたが、あれは私にとってすごく大きなことでした。むしろ、〝旅=人生〟だと再定義するきっかけとなった。人間という生き物はときに違う気候、風土に自分の体を置きたくなる」

「ホモサピエンスの歴史を考えたときによくわかるのですが、寒くなったら暖かいところへ行ったり、採集するものがなくなったら別の場所へ行ったり、そういった生きるために〝移動する〟本能が、おそらく好奇心という形で遺伝子に受け継がれていると思うんです」

場所を移動し違う環境に身を置くことで、生物としてのリズムを保っているのではないか。そう隈氏は考えるが、旅で心身がリフレッシュされるのも確かにそのせいなのかもしれない。

「砂漠へ行ったら砂の上を進む歩き方をしたり、山だったら傾斜に体を合わせて登ったり。そうやって場所のリズムに体をアジャストする。いわば、そこで自分が生存できるかどうかを自分の体で試すような」

「旅の醍醐味というのは、ただ新しいものを見るだけでなく、その場所と一体となるような体験にあるのではないでしょうか」

その醍醐味がよくわかるエピソードがある。隈氏がはじめてサハラ砂漠を旅したときのことだ。

「忘れられない旅ですが、なかでも印象的なのは砂漠の中で用を足すという経験。朝になるとそれぞれ自分が用を足す場所を探しに砂漠へ散っていくわけですが、何もない広大な砂漠の真ん中にひとりでいると、まるで獣に還ったような錯覚すら覚える」

「朝焼けを浴びて砂漠を歩き、解放された感覚でまた戻ってくるあのときのシークエンス全体が、ひとつの建築だったと感じますね」

旅人を土地への同化に誘うような建築。それは隈氏が考える〝ラグジュアリーな宿〟のあるべき姿とも言える。

「数学的な言葉で言うと、その場所に自分の体を〝代入する〟ための装置が建築なんです。だからこそ宿の建築はその土地土地で違わなくてはいけない」

「宿が土地やその自然としっかりつながっていないと、旅行者がわざわざ遠くまで行っても結局その土地に代入できず、フラストレーションを抱えたまま旅を終えることになってしまう」

自然を取り込むような佇まいが印象的な「COMICO ART HOUSE YUFUIN」。
©NHN JAPAN Corp.

自然と無防備につながる
サステナブルな日本建築

実際、サステナブルな機運の高まりとともに周囲の自然との共生をテーマにした宿が増え、「Luxury Japan Award 2022」においてもそれが審査基準のひとつとなっている。

しかし、その土地の自然に融け込むような建築様式をもつ宿は、実は昔から日本に存在したと隈氏は言う。

「日本の建築はある種、無防備に自然とつながっている。そこが西洋とは違うところで、例えば障子などは和紙一枚で外とつながっていますよね。こんなこと西洋ではセキュリティ的にあり得ない」

「でも日本には独特のルールや習慣があって、それによって紙一枚でも安全が保てるようになっている。私はこれがサステナビリティの基本だと思うんです。お金やエネルギーを費やして物質的に解決するのではなく、もっと別の道具を組み合わせて性能を確保しようとするやり方。これが本来の日本のやり方で、この中に自然と共生するヒントがたくさん隠されている」

サステナビリティという意味では、その土地特有の素材を建築資材に利用することも有効だ。隈氏が手がけた万里の長城の脇にある「竹屋」と呼ばれるホテルには、中国で古来より親しまれる竹がふんだんに使われている。

「『竹林の七賢(ちくりんのしちけん)』という故事があるほど竹は中国の文化に根差したものですが、建築的装置になることはあまりなかった。こういった素材を活かす建築は日本のほうが歴史は長い」

また、「COMICO ART HOUSE YUFUIN」や「那珂川町馬頭広重美術館」などに代表されるように、隈氏の作品には「焼杉」が度々使われる。焼杉とは、杉板の表面を焼き焦がして炭化させたもので、それによって資材としての耐久性が格段にあがる。

「焼杉は特に関西ではポピュラーな、木を長持ちさせる方法ですが、新建材が取って代わって一時は忘れ去られていました。でも今また、サステナブルな観点から見直されていますね」

「それもひとつの流れですが、もっと建築プランの根本からサステナビリティを追求する方法もある。例えば、ホテルの廊下はすべて屋外にして空調をなくすとか、全体は広くてラグジュアリーだけど客室はうんとコンパクトにするとか。そういうアプローチができたら、宿もさらに進化していくかもしれません」

万里の長城の脇に立つホテル「竹屋 Great(Bamboo)Wall」。
竹は中国では反都市的 なライフスタイルの象徴でもある。
©Satoshi Asakawa

非日常の体験が
日常となる時代へ

宿のあり方が変われば、旅のスタイルも変わってくる。今後、旅は私たちの暮らしの中で、どのような位置づけになっていくのだろうか。

「旅をしてラグジュアリーな宿に滞在することが、ひとつの日常になる時代が来るのではないかと。もちろん宿は非日常の異空間ですが、異空間を自由に回遊することが日常になるような時代」

「その日常には仕事も含まれるから、リモートワークをどうするかもすごく重要になってくるし、今まで二項対立だった住居と仕事場が、住居でもあり仕事場でもあるという新たな形式に生まれ変わっていくでしょう」

20世紀は画一化の時代で皆が与えられたものに従って生きてきた。しかし、それらがすべて無効になる時代が近い将来訪れるだろうと隈氏は指摘する。

「それぞれが快適さを求め、自分自身で新しいライフスタイルをデザインする。それが可能となる世の中に変わりつつある気がしています」

私たちのライフスタイルがまるごと旅になるような、そんな新時代がこれから到来するのかもしれない。

栃木県の那珂川町にある「那珂川町馬頭広重美術館」。
地元特産の杉に不燃処理、防腐処理を施し、屋根材に利用している。
©Mitsumasa Fujitsuka


◆日本の価値を再発見する宿
 Luxury Japan Award 2022

“Luxury Japan Award 2022”は、日本を代表する素晴らしい宿や地域が世界の富裕層にまだまだ知られていないことから、そうした宿や地域を世界の富裕層に発信する取り組みとして、一般社団法人ラグジュアリージャパン観光推進機構が今年初めて主催するものです。

審査委員長に世界的建築家の隈研吾様にご就任いただき、総勢7名からなる審査委員会において、厳選に審議を行い、Luxury Japan Hotel of the year 2022およびLuxury Japan Destination of the year 2022を決定いたしました。

◆Luxury Japan Hotel of the year 2022
 ホテル・旅館大賞

侘び寂びの心を感じつつ
大自然を満喫する

【北海道 ニセコ】
坐忘林
北海道虻田郡倶知安町76-4

雄壮な羊蹄山を望む原生林の中に佇む「坐忘林」。屋号の〝坐忘〟は、「座して現前の世界を忘れ、天地と一体になる」という意味の禅語に由来。

オーナーはイギリス人夫妻だが、日本の伝統文化を愛する心が宿の隅々まで行き届いている。モダンでありながら随所に禅の精神を感じる建築、ニセコの大自然に融け込むような空間、そして適度な距離感が心地良いおもてなしなど、すべてが上質でゲストの心に安らぎを与える。

客室の湯船を満たすのは、敷地内より湧く良質な自家源泉。贅沢にもかけ流しで注いでおり、豊かな森を眺めながらのんびりと楽しみたい。


モダニズムとの融和で
古き湯治文化を今に

【山口県 長門湯本温泉】
大谷山荘 別邸 音信
山口県長門市深川湯本2208

「大谷山荘」は、開湯600年を誇る長門湯本温泉に古くから構える老舗湯宿。原点である「湯治宿」を礎にモダニズムを融和させ、現代の湯治として表現したのが別邸「音信」だ。

「湯に浸かる」「裸足で歩く」「座る」といった日本文化の〝粋〟に独自の開放感、高級感を織り込み「湯治モダン」の世界を確立した。広々とした館内に客室はわずか18室。贅沢と言えるほどゆったりとした造りの室内には、それぞれに専用の露天風呂を備える。

料理もまた秀逸。夕食には海の幸をはじめとする地元の旬を盛り込んだ季節会席が用意され、長門の夜に彩りを添える。


昔ながらの別荘の贅を
美しい森とともに味わう

【大分県 由布院温泉】
亀の井別荘
大分県由布市湯布院町川上2633-1

大正10年、別府の実業家である油屋熊八翁の別荘として建てられた。九重連山からつながる自然林の中に、本館洋間6室と離れ14室とが点在する。3万平米の広大な森の庭園が併設され、内装や造りがそれぞれ異なる離れからは四季の移ろいが手に取るように楽しめるのも特徴だ。

各客室には源泉をかけ流しにした露天風呂があるが、ガラス張りの天井と自然石を配した大浴場は特に人気。陽射しがたっぷりと降りそそぐ中で湯に浸かり、至福のひとときが味わえる。入浴後は浴衣をまとい、美しい庭園をそぞろ歩くのもいいだろう。


真田家ゆかりの宿坊で
僧侶の日常に触れる

【和歌山県 高野山】
高野山 真田坊 蓮華定院
和歌山県伊都郡高野町大字高野山700

「蓮華定院」とは、鎌倉時代初期に行勝上人によって開創され、その後、真田家ゆかりの寺として「真田坊」と呼ばれるようになった真言宗の寺院である。

真田家の家紋の「六文銭」が随所に見られるこの寺院には美しい宿坊があり、参拝者はここに宿泊できる。しかし、あくまで寺をお参りすることが目的。

朝夕のお勤めに参加し、僧侶とともに瞑想をしたり、住職の法話を聞いたりといった僧侶の生活そのもののような非日常体験が何よりの魅力だ。客室は襖絵が施された和室のほか、ベッドを設えたタイプもあり、海外から訪れる人も快適に過ごせる。


すべてがスーパーラグジュアリー
究極のヴィラ体験

【北海道 ニセコ】
HAKU Villas 白鳥山荘
北海道虻田郡倶知安町山田183-38

ニセコの中心地に聳える贅を尽くしたコンドミニアム。客室のタイプは、ワンフロア全面を使った「フルフロア・ヴィラ」と3フロアを占有する「スーパー・ペントハウス」の2つ。

特にペントハウスは国内でも前例がない7ベッドルームもの部屋数があり、さらにメイド部屋までを備える。専用の露天風呂はもちろんのこと、マッサージルーム、サウナ、全面窓から大自然が体感できる多目的ルームまでを完備。プライベートを完璧に確保しつつも、専用のコンシェルジュ、運転手、シェフが常駐しているので常にハイクラスのサービスが受けられる、まさに世界基準の宿だ。


◆Luxury Japan Destination of the year 2022
 地域・エリア大賞

「ニセコエリア」
~ニセコプロモーションボード

魅力的な地域や地域のために活動する団体などに贈られる地域・エリア大賞を受賞したのは北海道のニセコエリア(倶知安町、ニセコ町、蘭越町)。スキーリゾートとして知られるニセコだが、多彩な魅力を世界各国に発信し、アジアNo.1の通年型リゾート地へと発展させた。

その立役者となったのが一般社団法人ニセコプロモーションボード。地域の事業者と連携し、夏のアクティビティや食、温泉などにもスポットをあて、国際的なプロモーション活動を行っている。


◆隈研吾氏の建築作品

アートと自然を体感しながら
過ごす空間

【大分県 由布院温泉】
COMICO ART HOUSE
YUFUIN

大分県由布市湯布院町川上2995-1

同敷地に現代美術館があり、日本を代表する作家たちの作品と温泉地・湯布院の自然を同時に体感できる構成がおもしろい。建築は、Luxury Japan Award 2022の審査委員長を務めた建築家・隈研吾氏によるもの。

宿泊施設は2棟に分かれ、内装はそれぞれ「土」「竹」といった自然素材がテーマ。外壁には黒い焼杉が使われ、湯布院の深い緑を引き立てるとともに里山の風景に絶妙に調和している。

敷地内の源泉から湧く温泉の熱を床暖房に利用するなどのサステナブルな試みも、訪れる人に「自然との共生」を想起させる装置となっている。


※掲載の情報は2023年1月1日現在のものとなります。


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