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現代の切子が生まれる工房

今日のビジネスと江戸時代から続く伝統工芸。ベクトルが異なる分野のように見えて、実は未来を見据えるビジョンは同じだ。

江戸切子を継承する職人として活躍中の三澤世奈氏が働く工房を訪ね、現代における日本の伝統文化について語ってもらった。

Text:Kumiko Suzuki
撮影:Manabu Oda, Masahiro Dozaki

三澤 世奈(みさわ せな)江戸切子職人
1989年、群馬県前橋市に生まれる。明治大学商学部卒業。大学在学中、三代秀石 堀口徹氏の作品に感銘を受け、門戸を叩く。2014年、株式会社堀口切子に入社。江戸切子を継承する者となるべく、日々研鑽に努める。19年に自身が制作·プロデュースするブランド「SENA MISAWA」を設立。これまでにない色や質感を取り入れた切子作品を作り続けている。

(タイトル写真について)
大正10年に初代秀石が創業した堀口硝子からはじまり、現在は三代秀石の堀口徹氏が代表を務める株式会社堀口切子。4人の職人が日々切磋琢磨しながら、美しい江戸切子を生み出している。

伝統という文脈に沿って
自分らしさを表現する

東京の下町、江戸川区の住宅街にひっそりと佇む堀口切子の工房。一歩足を踏み入れると、カットガラスの作業台や研磨途中の作品を並べた木箱が目に飛び込んでくる。

〝White Base〞と名付けられたこのクールな空間が、三澤氏の仕事場だ。親方の堀口氏がデザインしたという作業用のコートを身に着け、まずは江戸切子がどのようなものなのかを解説してくれた。

「江戸切子は、ガラスの表面をカットして模様を施していくのが特徴です。2層構造のガラスになっていて、外側の色ガラスを削ることで内側の透明ガラスが模様として浮かびあがってきます」

江戸切子が誕生したのは江戸時代後期の天保5年。大伝馬町でビードロ屋を営む加賀谷久兵衛という人物が、切子細工の技法を考案したことがはじまりとされている。

昭和60年には東京都の伝統工芸品産業に指定、平成14年には国の伝統的工芸品にも指定された。

デザイン考案から、割り出し(目安の線を引くこと)、カッティング、研磨、
完成まですべて手作業。
カッティングは工業用ダイヤモンドを練り込んだ回転盤で行う。

「江戸切子には4つの定義があります。ガラスであること、手作業で作られること、主に回転道具を使用すること、指定された産業区域で生産されること。この定義に則っていれば、デザインや色の自由度は高いんですよ」

「文様には代表的なものがいくつもありますが、例えば大正時代にはモダンなパターンが流行ったりなど、時代によって変化してきました。伝統という文脈を理解して自分らしく表現できるのが、江戸切子の魅力ですね」

木箱に整然と並べられた制作途中のグラス。
デザイン画を描くこともあるが、カットしたほうがイメージを掴みやすいそう。
試作品を実際に使ってみることで、完成度を見極める。

江戸切子の可能性を広げて
未来へ継承していく

180年以上も脈々と続く伝統技法をリスペクトしながらも、常に自分なりの新たな表現方法を模索していく。それは、三澤氏の江戸切子に対する情熱の証ともいえる。

「代表的な文様は、江戸切子が人々に認知されるために重要な役割を果たしていると思います。その魅力を理解しながら、新しい形を生み出すことが大切だと考えています。先人たちが時代ごとにアップデートしてきた文様や技術を、継承していくのが目標ですね」

そんな三澤氏の情熱を具現化したのが、2019年に設立した「SENA MISAWA」という堀口切子の新ブランドだ。自身の名を冠し、コンセプトに〝日常空間に『心地の良い』トーンの切子〞を掲げて、今までになかった新しいカラーリングやマットな質感の切子を提案。後押ししてくれたのは、親方の堀口氏だった。

「切子はお酒を飲むためのものというイメージがありますが、もっと自由に使えるものなんですよ。私は、朝起きて水やアイスコーヒーを飲むときにも使っています。光の具合で表情が変わるので、ぜひ太陽の光でも楽しんでいただきたいですね」

〝ものづくり〞の伝統を守りつつ、可能性を広げていくことが、三澤氏のミッションといえるだろう。


※掲載の情報は2021年12月1日現在のものとなります。