〈対談:クリス・ペプラーさん×清水直樹さん〉音楽に見るリアルの価値 ~LIVEでしか得られないもの~
いつでも、どこでも音楽を楽しめる時代にあって、なぜ人々はライブに足を運ぶのか。
長く音楽シーンを見続けてきたクリス・ペプラー氏とサマーソニック生みの親でもある清水直樹氏が、ライブだけが持つパワーや、ライブシーンの最前線を語ってくれた。
Text:Junko Hayashida, Kumiko Suzuki, Natsuko Sugawara
Photograph:Hiroyuki Tsutsumi
表紙写真:©SUMMER SONIC All Copyrights Reserved.
◆デジタルが進化するほどに高まる
リアルに体験することの価値
パンデミックが世界の
音楽シーンに与えたものとは
クリス
ようやくライブのできる日常が戻ってきましたが、パンデミックの間はライブも中止になったり、大変でしたか?
清水
大変でしたね。まず、当初は邦楽への助成金はあったものの、洋楽プロモーターに対してはいっさいなかったんです。このままでは日本の洋楽シーンは廃れてしまうと危機感を持ち、洋楽プロモーターが連携してマスコミや議員の方に働きかけ、ようやく助成金が給付されました。これまでは各社バラバラに動くことが多かったのですが、これをきっかけに横の連携が強くなったのは、パンデミックのおかげです。
クリス
配信ストリーミングも進化しましたよね。以前はタイムラグがあって、各国からリモートでアンサンブルを行うなんて不可能だったのに、いろいろなシステムが開発されたことによって可能になりましたし。
清水
コロナ禍のときに、これからのライブはストリーミングが主流になると言う人も結構いたんです。ただ、僕は絶対にそうならないと思っていた。実際、今これだけ海外のアーティストがライブをして、ソールドアウトが続いているというのはパンデミックの反動でしょう。それと、今までは「今回見逃しても次がある」と思っていたのが、「これを逃したら見られなくなるんじゃないか」と、観客の思考も変わってきたと思います。
クリス
パンデミックはリアルの価値を教えてくれましたよね。デジタルテクノロジーがどれだけ進化しても、我々人間は本来動物であるわけで。肉眼で見て、肉声を聞いて、フィジカルに同じ空間をシェアすることが、人間の本能みたいなものに火をつける部分があると思うんです。
清水
ライブって貴重だと人々が認識してくれたのは、うれしいですよね。
ところでクリスさんは、コロナ禍のときはリモートでラジオもしていたと思うんだけど、どうだった?
クリス
最初は違和感がありましたけど慣れましたね。ラジオはもともと音声だけで、リアクションが見えるわけでもなく、どこでも同じというか、むしろリモートのほうが楽かもしれない。
清水
なるほどね。僕らの場合はすべてリモートで対応できるかというと、やっぱりリアルで話しているときとは微妙に肌感覚が違って。これからはうまく使い分けることが必要だと思っています。
聴いたことのないアレンジに
出会えるのがライブの醍醐味
クリス
最近のライブはみんな有名な曲を聴きたがるじゃないですか。でも、昔は「なんだこの曲は! 聴いたことがない!」というのが、すごい得した感じがしていたんですよね。
例えば、レッド・ツェッペリンのライブでジミー・ペイジがレコードと違うリフを弾き始めたり、違うジャムセッションになると、それだけでもう「ありがたやー!」って。
清水
ツェッペリンはライブ映画もありましたよね。ジミー・ペイジがバイオリンの弦みたいなものでギターを弾き始めたり、ジョン・ボーナムのよくわからないドラムがあったり。
クリス
昔のライブ映像は今見ると陳腐なものもあるけど、ツェッペリンはいまだに衝撃を受けます。
清水
あと、ボブ・ディランなんて何の曲をやっているかわからないですからね。終わってから「あの曲だったんだ」って判明する(笑)。
クリス
そうそう。テンポも違うし、メロディーも違う。でも、僕の中ではそれがライブ。だから「知らない曲やられちゃって」なんて聞くと、「わかってねえな!」と思っちゃう(笑)。ところで、清水さんの人生初ライブは何でしたか?
清水
僕はちょっと恥ずかしいんだけど、松田聖子さん。
クリス
すばらしい。
清水
静岡県の焼津市が地元なので、外タレってまず来ない。静岡の市民会館まで、松田聖子さんや佐野元春さんを観に行っていました。
クリス
僕は生粋の東京っ子だったので、初めてのライブはブラッド・スウェット&ティアーズ。日本武道館で行われた初来日公演でした。
清水
本当そういう話を聞くと羨ましくて。
クリス
当時、従姉妹がはいていたつぎはぎのベルボトムが格好良くて、母に同じようなものを作ってもらい、それをはいて一人で観に行ったんです。
今でもあの辺に座っていたなとか、舞台演出も脳裏に焼きついてます。
清水
東京と地方の差がはっきり出ましたね(笑)。
世界にも類を見ない
日本のライブマーケット
クリス
当時は武道館イコール世界みたいな図式で、海外のビッグアーティストはみんな武道館でライブをしていましたよね。
清水
僕がどっぷりとライブにハマったのは、そのあとの時代。1990年代にクラブクアトロやクラブチッタ川崎など、大箱のライブハウスが誕生して。それまでの日本のライブは座席で見るものでしたが、海外のライブのようなオールスタンディングが楽しめるようになった。
クリス
確かに会場はその時代を映していますよね。
90年代はGOLDやスタジオコーストなど、クラブでもあるけどコンサートもできて、サウンドシステムが充実したハコができたし、最近だと歌舞伎町タワーのように大手のディベロッパーが、ライブ施設を誘致して複合施設を造るようになった。
清水
今、東京近郊には8,000〜2万人のキャパを持つ、いわゆる大型アリーナが15ぐらいあります。先日ロンドンやニューヨークでこの話をしたら、音楽関係者はびっくりしていて。実は世界の主要都市で、こんなに大型アリーナが多いところはほとんどない。もちろんビジネスではあるけれど、日本の文化として盛りあげたいという人もいて。この流れは我々にとってはうれしい。
クリス
昨年あたりから、海外のビッグアーティストが続々と来日していますよね。円安の影響はどうですか?
清水
円安はきついよね(笑)。為替が10円違うと、億の差が出るんですから相当痛いのは間違いない。
クリス
それであのラインアップなんだから、サマソニはやっぱりすごいなと思います。
清水
先日タイに行って驚いたのが、日本より全然ギャラが高いんです。中国をはじめ、アジア各国のギャラがあがっているなか、これから海外のビッグアーティストは来日してくれないんじゃないかとコロナ禍は不安でした。
クリス
確かに恐ろしいですね。
清水
では、なぜ日本が選ばれているかというと、先ほどもお伝えしたように日本はアリーナが充実している。それと、洋楽をしっかり長く聴いてきた文化が醸成されている。例えば、韓国はロックを飛ばしてヒップホップに人々が流れた。国によって辿ってきた音楽文化が違うのは当たり前ですが、日本は海外アーティストにとって音楽文化の醸成した魅力のある国だと思われています。ただ、今後は日本だけでなく、各国と連携してアジアを網羅するようなプロモーターチームを作る必要があるんじゃないかと考えています。
クリス
テクノロジーが進化するほど、世界的にライブパフォーマンスの価値があがるでしょうからね。
清水
それは音楽の歴史が証明していると思っていて。カセット、レコード、CD、配信と、音源の形態は進化してきましたが、ライブだけは昔から変わらず進化していない。それだけライブは代替品のない価値のあるものだということです。
クリス
同じステージは二度と観られないから。一期一会の出会いを楽しみたいですよね。
※インタビューの情報は2023年9月1日現在のものとなります。
◆SAISON CARD 「TOKIO HOT 100」
J-WAVEで毎週日曜午後に生放送されている「TOKIO HOT 100」は、世界の音楽シーンを体感するのに必聴のカウントダウン番組だ。
長年ナビゲーターを務めるクリス・ペプラー氏に、その魅力を語ってもらった。
J-WAVE 開局とともにスタートした「TOKIO HOT 100」は、今では同局の一週間の集大成の番組とも呼ばれています。
その週のJ-WAVE全番組のオンエア回数、音楽ストリーミングサービスや動画再生回数、CDセールス、SNS の投稿などをポイント集計し、毎週日曜の13時から4時間にわたり、厳選した100曲をお伝えしています。
この番組を聴けば、日本の最新音楽シーンも感じられると思いますので、ぜひチェックしてみてください。
◆〈番外編〉日本に来る海外アーティストって……
対談インタビューで、フェスやライブの楽しさを聞かせてくれた清水直樹さんとクリス・ペプラーさん。
アーティストとのこんな「リアル」な体験を話してくれました。
❖このインタビューを音声でCHECK!
Podcast「THIS IS US Powered by SAISON CARD」
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