〈JFA100周年 特別インタビュー〉中村憲剛氏 ~ロールモデルコーチが担う次世代の育成~
2020年、JFAは若年層の育成に携わる新しい役職として「ロールモデルコーチ」を開設した。元鹿島アントラーズの内田篤人氏に次ぐ、2人目のロールモデルコーチに就任した中村憲剛氏に、次世代育成のあるべき姿を聞いた。
Text:Rie Tamura
Photograph:Shuichi Utsumi
タイトル写真:JFA、AP/アフロ
現役時代の経験を
若手の成長と自立に生かす
2020年に現役を引退した元川崎フロンターレの中村憲剛氏は、この4月から「ロールモデルコーチ」としての活動を開始した。アンダーカテゴリーの日本代表チームをはじめ、JFAが取り組む若年層の強化および普及に関わる活動に参加し、自身のもつ経験、知見を後進の育成に当てる役職だ。
「内田篤人さんに続き、2人目のロールモデルコーチとして、U‒17(17歳以下)の日本代表チームの合宿や大会に帯同し、僕が日本代表として、また現役中に考えていたことを選手たちに落とし込む。それをヒントに彼らは成長する。そういう役割を担ってほしいというお話を受け、今に至ります」
これまで帯同した二度の合宿では、監督、コーチ、ロールモデルコーチの三層で指導し、「刺激的で収穫が多かった」と中村氏は語る。おそらく、それは選手たちも同様だろう。中村氏には、自身ならではのアプローチ法がある。
「内田さんと僕では、歩んできたサッカー人生が全く違う。アンダーカテゴリーから日本代表の常連で、ドイツの強豪シャルケ04でも活躍した内田さんに対し、僕はアンダーカテゴリーでは一度も選ばれず、大学を出てプロになり、初めて日の丸をつけたのがA代表だった。そういう選手もいるよ、とU‒17の選手たちに伝えました」
「『君たちが見向きもしなかった、僕みたいな選手に抜かれるんだよ』というと目の色が変わっていましたね。これは僕だからこそできるアプローチ。今後、新たなロールモデルコーチが出てきたら、その元選手の数だけ、いろいろな経験談を彼らに落とし込めるはずです」
合宿中、技術面ではボールを「止める」「蹴る」という基礎から徹底させ、精神面では日の丸を背負うプライド、成長への貪欲なメンタリティを求めたという。
「選手たちは皆、真面目で素直。その分、僕たち指導者の言葉に縛られてしまう選手もいます。僕らのいうことを守っているうちは、想定の範囲内でしか成長しないので、僕らの話をヒントにして自分で考え、想像を超えていってほしい。そういう自立心をもつことが、プロになってから役立ちます」
「好きだから」という理由だけでサッカーを追い続けてきたという中村氏は、ロールモデルコーチとしてサッカーの新しい楽しみを見出している真っ最中だ。今後、指導者の道も選択肢のひとつだ、と話す中村氏に理想像を尋ねた。
「僕が選手だったら、練習に行くのを楽しみにさせてくれる指導者がいい。今日はどこを伸ばしてもらえるんだろう。どんなヒントをくれるんだろう。そんなふうに選手が前のめりになれる環境を作るのがいい指導者なんじゃないでしょうか」
「日本代表で僕を指導してくれたイビチャ・オシム監督は、そういう方でした。よく怒られましたが、理由もあったし、愛もあった。僕の伸びしろを引き出してもらえました」
こどもの頃からいろいろな大人に出会うことが大事だ、と中村氏は語る。出会って、その刺激を自分が成長するためにどう使うかで彼らの道は変わってくるという。
ロールモデルコーチは、その一翼を担っている。トップレベルからグラスルーツまで、より良い環境と指導が日本サッカーを未来へつないでいく。
※掲載の情報は2021年8月1日現在のものとなります。