経営者に聞く革新のストーリー【佐々木拓輝氏】~vol.2~
先人から受け継いだ知見と経験を次世代に継承し、新たな技術により、さらなる革新へとつなげていく。
そんなリーダーたちのインサイドストーリーをご紹介。
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住まいは、私たちにとって必要不可欠なピースであり、生活の拠点。人生のいくつかのタイミングで、お部屋探しを経験したことがある方も多いのではないでしょうか。
「もっといい『当たり前』をつくる」というミッションのもと、不動産という巨大な業界に新たな風を起こしている「株式会社カナリー」。
デジタル技術を武器に、これまでのお部屋探しや不動産仲介における不便・非効率を抽出・解消し、新たなスタンダードを次々に生み出しているスタートアップ企業です。
今回は、創業者・代表取締役 CEO兼CFOの佐々木拓輝氏をお招きし、継承と革新のストーリーについておうかがいしました。
何事も、自分で決めることが多かったこども時代
出身は仙台。小さい頃から独立心が強めで、何事も自分で決めるタイプでした。高校も自分で選びましたし、大学も東京に行こうと意思を固めていました。
また、社交的で友だちと遊ぶときやイベントごとも率先して企画していましたね。田舎育ちということもあり、好奇心に駆られる場所が多かったのも影響していたかもしれません。
東京大学経済学部在学中から、起業をイメージするように
大学入学当初はサークルにも入り、いわゆる学生生活を満喫していましたが、ある時、教育系DXを展開するベンチャー企業の経営者の方と知り合ったことで、環境が大きく変わりました。その企業に最初はアルバイトという形で入り、大学2〜3年生の時には経営側のインターンとして参加するようになりました。
事業内容は、民間の塾がない沖縄の離島で、自治体と契約をしてネットでつなぎ、双方向の授業を開催するというもの。このときの経験から、なんとなく意識していた起業がより具体的な未来像に変わり、自分もいずれは経営者として大きなことを成し遂げたいと思うようになりました。
金融とコンサルで、プロフェッショナリズムを学ぶ
まずは組織に入っていろいろ学ぼうと思い、ファイナンスに興味があったこともあり、メリルリンチ日本証券株式会社(現BofA証券株式会社)に入社、投資銀行部門でM&Aや資金調達などを担当しました。その後、ボストン コンサルティンググループに。幅広く大手クライアントのプロジェクトを経験しました。
この2社では、仕事に対する姿勢や考え方を学びました。ともに、仕事に求められる水準が非常に高い環境だったこともあり、お客様との日々の関係の中でプロフェッショナリズムを身につけることができたのは大きかったなと感じています。
より大きなフィールドで、チャレンジしたいと起業
起業を考え、さまざまな業界をリサーチしたのですが、興味を持ったのが不動産業界。私自身、数多く引越しを経験していた中で、「ここをこうすれば、もっと良くなるのではないか」と気づきを得たことがスタート地点となりました。
そこから不動産業界を調べていくと、とにかく市場が大きい。起業してチャレンジするのならば、やはり大きなフィールドを求めていましたので、ここだなと確信しました。
そして、不動産業界ではちょうど大きな変化のタイミングにあるということも大事な要素でした。2022年にはずっと期待されていた契約書の電子化の法改正が施行されましたが、2018年頃はDXが大きく進み出す雰囲気が生まれている時期でした。
また、働き方については、業界に根付いていた長時間労働のカルチャーにより若手人材が定着しないというループに陥っており、業界内にDXと働き方改革の2つの波が訪れているタイミングでした。
この変革の流れで業界をけん引していく絶対的なプレーヤーが見当たらない中、私たちが起業すればリーディングポジションを取って大きな役割を担っていけるのではないかと思い、スタートを切りました。衣食住は、人々の生活に大きく関わる分野ですし、社会的な意義も大きいと考えています。
事業を展開しながら、学びを得る
最初はうまくいかないことも多かったんですが、手ごたえもあった。そこで「よし、このまま走っていけるぞ」と思って事業を続けていきました。
最初から正解がわかっていることは本当に稀だと思います。仮説を立てて、日々修正しながら、大きな市場の中でニーズや課題を見つけ、そこに合わせてソリューションを生み出していく。そしてまた壁とぶつかる。そんな順序の繰り返しです。
やはり、事前のデスクトップリサーチよりも、実際に事業を始めてからの学びのほうが圧倒的に多かったですね。日々の業務の中でご一緒した皆様に話を聞くと、一見非合理に見えることでも変えられない理由があったり、各エリアごとで状況が違ったりなどがありましたね。
DXに関しても、皆様危機感は持っていらっしゃいますが、まだまだ現状維持を好む方も多かったです。
地場で頑張る皆様をサポートしたい
不動産業界は、やはり地場の産業なので、各エリアのオーナー様や地域に根差した企業様も多く、地域と一緒に成長していこうという図式があります。全国規模で標準化された合理性だけではなく、ローカルならではの環境やメリットも活かしながらやっていきたいですね。
また、私たちが日々接している賃貸の仲介管理の皆様は、一件で大きく儲けるというよりも、毎月積み重ねていくビジネスなので、真面目にコツコツと取り組まれている方が多いという印象です。そんな皆様を応援していきたいと思います。
一方、変えなければいけないのは、やはりデジタル化。そして、仕事や働き方をアップデートすることですね。これからの不動産業界を考えると、20代など若手の人たちにどんどん活躍していただきたいし、人気の業界になってほしい。けれど、元々不動産という業界は、長時間労働でも馬力で何とかする、毎日夜遅くまで店舗の明かりがついている。というのが常識だったのですが、当然今の時代、そのやり方では人が集まらない。
また、一人の優秀な営業人材が稼ぎ、歩合を獲得していくのではなく、組織的な営業体制で売上を構築していくという点が重視されてきているので、業務の標準化やKPIの設定、売上目標に関する指標の可視化などマネジメントのあり方を変えていく必要があると感じています。
そこで私たちは、不動産仲介業務に特化した顧客管理・営業支援システム「カナリークラウド(CANARY Cloud)」を不動産仲介会社に提供し、業界全体のデジタル化・DXを進めています。
ゴールを見据えた一歩目を大切に
私たちはまず、部屋探しアプリ「カナリー(CANARY)」からスタートしました。
元々構想としては、ユーザー側と業務側の両方でプラットフォームを構築していくことを重要視していましたが、不動産業界の皆様に「SaaS(*) はじめました」と宣伝して回っても、なかなか話を聞いてもらえない。
やはり、ユーザーの変化が最初なので「お部屋探しに限らず、アプリを使っている人が増えていますよ」という事実を企業にお伝えし、信頼を獲得してからDXに拡げていく。
大きな視点で言えば、日本は人口が減少し、物件の供給量が増えてきている現状がある。そんな中、集客力を提供できるかというのは、不動産会社に対しての価値提供という意味でもすごく重要だと思いました。
「やり抜くこと」「やり続けること」
起業において大事なこと、それは「やり抜くこと」「やり続けること」だと思います。事業の成功には時間がかかる。というのが、起業してからの発見です。組織を構築して、プロダクトを作って、お客様がついてくれる。その過程においてうまくいかないことのほうが多い。その一つひとつを前向きに捉えて続けていく。そのことがすごく重要だなと実感しています。
不動産領域もまだまだ広く、私たちが携わっているところはほんの一角にすぎません。賃貸領域でいっても、今はユーザーと不動産仲介業務のところまで。今後は、物件管理やオーナー様とも関わるようなサービスを提供していきたいと考えています。
最新の物件情報が連動できれば、ユーザーに対して今よりもっと正確なリアルタイム情報を提供できるようになりますし、間に入る人たちの手入力によるタイムラグや誤情報、そして働く方たちの負担を軽減することにもつながってくるのです。
ただ、これらを全部自社でやる必要はありません。オープンで連携できるところは積極的に連携して、不動産業界全体としてユーザーにより良いサービスを実現できたらと考えています。
「もっといい『当たり前』をつくる」ということ
これまでにないものをゼロからつくることもかっこいいですが、既にあるけれど、皆が当然と諦めてしまっているモノやコトを積極的に疑い、アップデートしていくことって実はすごい重要なんじゃないかと考えています。
それが、「もっといい『当たり前』をつくる」ということだと私たちは考えています。お客様にとってお部屋探しはものすごく面倒なものだというイメージがまだまだ多い。まずは、部屋探しアプリ「カナリー(CANARY)」でそのようなイメージを変えていきたいですね。
大事にしている言葉
「謙虚にして驕らず」。
私が大事にしている言葉です。
会社やチーム、個人でもできる気になったときや、自分たちがすごいと思った瞬間が一番危険です。そんなときに自分に言い聞かせている言葉でもあります。
ただ、謙虚と言っても自らをただ卑下するのではなく、強さや自信に裏付けされたものでなければいけないと思います。
気持ちひとつで成長は止まります。より高みを目指すために、これからも、謙虚にして驕らず進んでいけたらと思います。
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